![]() | 小林朋道[著] 1,600円+税 四六判並製 184頁予定 2025年10月刊行予定 ISBN978-4-8067-1695-2 白ヤギばかりの大学のヤギ部に、黒ヤギ「チャー」と茶色いヤギ「ゲラ」がやってきた! 今までにない色の新入りと古参白ヤギたちのドラマチックな化学反応を期待するコバヤシ学長だったが……。 小林ゼミ慣例・卒業生へのプレゼントづくりで動物ポーズをとらされ「アクスタ」になったり、学生たちが学内で思い思いに品物を披露する「ぷらいべいと博物館」に展示されたアライグマの骨から40年前の旧友を思い出したり、殻に穴があいたカタツムリを保護して「カタツムリ(陸の巻き貝)とイシタダミ(海中の巻き貝)の殻修復能力の違い」から生き物の進化を考察したり……。 学長になったからこそ生まれた新しい視点で、ヒトと動物の生態を鋭く考察。 限られた時間でふれあう動物たち・学生たちへの気持ちがより深まった最新刊。 |
小林朋道(こばやし・ともみち)
1958年岡山県生まれ。
岡山大学理学部生物学科卒業。京都大学で理学博士取得。
岡山県で高等学校に勤務後、2001年鳥取環境大学講師、2005年教授。
2015年より公立鳥取環境大学に名称変更。2024年より学長。
専門は動物行動学、進化心理学。
著書に『利己的遺伝子から見た人間』(PHP 研究所)、
『ヒトの脳にはクセがある』『ヒト、動物に会う』『モフモフはなぜ可愛いのか』(以上、新潮社)、
『絵でわかる動物の行動と心理』(講談社)、『なぜヤギは、車好きなのか?』(朝日新聞出版)、
『進化教育学入門』(春秋社)、『動物行動学者、モモンガに怒られる』(山と溪谷社)、
『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』をはじめとする「先生!シリーズ」(今作第20 巻)と
番外編『先生、脳のなかで自然が叫んでいます!』および『苦しいとき脳に効く動物行動学』(以上、築地書館)など。
これまで、ヒトも含めた哺乳類、鳥類、両生類などの行動を、動物の生存や繁殖にどのように役立つかという視点から調べてきた。
現在は、ヒトと自然の精神的なつながりについての研究や、水辺や森の絶滅危惧動物の保全活動に取り組んでいる。
中国山地の山あいで、幼いころから野生動物たちとふれあいながら育ち、気がつくとそのまま大人になっていた。
1日のうち少しでも野生動物との" 交流" をもたないと体調が悪くなる。
自分では虚弱体質の理論派だと思っているが、学生たちからは体力だのみの現場派だと言われている。
X(旧ツイッター)アカウント@Tomomichikobaya
はじめに
ヤギ部の白ヤギばかりの群れに、黒いヤギと茶色いヤギがやってきた
学長は顧問をやめなければならない! 遠くから見守るだけ………
アクリルスタンドのなかで動物たちとコラボした私
ツイッター(現X)でバズった話
ヤチネズミ 訂正 ハタネズミと過ごした1週間
そしてそのあと、オアシスに何かが棲みついた
ああ○○○○○の頭骨だったのか!
学生による「ぷらいべいと博物館」で、私が「チャーリー」と再会した話
カタツムリに、はまっていく私
その穴、これからどうなるの?
私のキャンパス・フィールドワーク
3種のハチとの出合い(キャンパス外の森のモモンガの話も少し)
先生、ゼミ生が感謝の気持ちを叫んでいます!
「鳥取環境大学」のゼミ生の感謝行動学
大学の宣伝のようになって恐縮なのだが(私にはそんな気持ちはない。いつもの「先生!シリーズ」のように、はじめに≠ナは、原稿の準備がほとんど終わったあと、これまでのことを静かに脳内で眺め、原稿に関連して浮かんでくる出来事を書く。でもそんな気持ち≠烽ソょっとあるかもしれない。自慢したい………みたいな)、学生たちと一緒にやっている、ちょっとワクワクするチャレンジの一つについてお話ししたい。
2025年度も、一年生に私が呼びかけて(直接呼びかけたわけではなく、あくまでチラシを配っただけだが)はじまった一年生による「大学魅力づくり委員会」が、よろよろしながら進んでいる。失敗するかもしれないが、それはそれでよい。大学の理念と私の思いでもある「人と社会と自然の共生に貢献できるような、主体的に活動できる学生に成長してほしい」という目標に少しでも役立てばよいのだ。
2024年度の「大学魅力づくり委員会」は(本書のなかにも出てくるが)、「ぷらいべいと博物館」という、学生自身がアイデアを出したユニークな取り組みを行なった。その取り組みは、当時一年生だった学生たちが二年生になった現在も続いており、学生、教員、事務職員による出展が計8回行なわれ、次は地域の方にお願いしようということになっている。そうすれば、出展する人はもちろん、その関係者の方たちも学内に来られ、学生や、われわれ教職員との交流も生まれるではないか。
博物館の準備・運営は、もうほとんど私の手を離れ、学生たちがやっている。もちろん、それも重要なねらいの一つだ。
いろいろ苦労もあるだろうが、その体験は、「人と社会と自然の共生に貢献できるような、主体的に活動できる学生への成長」を後押しするにちがいない。
イヤー、学長ともなると言うことが違ってきただろ。
さて、2025年度の一年生が準備している取り組みは(少なくとも発想は)、画期的だぞ!
「生物多様性の保全・向上(人類の生命維持装置の強化)をビジネス化する(!)」という目標に向かう取り組みだ(まー、まずは最初の一歩、という感じだが)。
「生物多様性の保全・向上のビジネス化」の定番で、すでに歴史のある取り組みといえば「エコツアー」だろう。でも、もっと違った、えっ!と思うようなものはないかと、私は常々考えてきた。今回の取り組みは、繰り返すが、その第一歩の第一歩みたいな。………そこからまた次への発展がはじまる可能性もあるじゃないか。学生たちも私も、動け、動け。最近は筋肉が嫌がるが。
ところで、その取り組み内容をお話しする前に、ちょっと、わがままな寄り道をお許しいただきたい。
「先生!シリーズ」を読んできていただいた方は(そうでない方も、それなりに………)、私が中心になって、学生や地元の方を巻きこんではじめた「芦津(あしづ)モモンガプロジェクト」を覚えて、あるいはご存じないだろうか。20年近く続けてきた。鳥取県智頭(ちづ)町にある林業の山村、芦津とその背後に広がる芦津渓谷を舞台とする、森に生息する希少動物ニホンモモンガ(リス科に属し、ムササビと同様に滑空のための皮膚をもち、森の上層を生息地にして生きる。大きさはムササビの半分ほどで、顔は、私が言うのも親バカだがムササビより数段キュートだ)を対象にした「生物多様性の保全・向上のビジネス化」だ。
開始当時は、「生物多様性の保全による地域活性化」と称していた。
学術的調査の結果わかったことの一つが、「ニホンモモンガはスギの植林地内で、スギの葉・樹皮・樹洞に、衣食住を頼って生きているが、スギ林のなかに、小面積でもいいから、ブナやミズナラ、イヌシデなどの自然木がまじっていることが必要である」ことだ。
しかし、そのスギ林の状態を、林業の山村、芦津の方々に維持してほしいと願うのは無理というものだ。効率を言えば、山林全体がよく手入れされたスギだけの林にするほうが、作業に無駄がない。ではどうするか。
そこで浮き上がってくるのが、「ニホンモモンガがいてくれたほうが(多少の無駄をしてでもニホンモモンガが生息できる環境を維持したほうが)経済的に(心情的な楽しさ≠煌ワめて)利益がある」という仕組みづくりだ。
少なくとも当時、自然保全系の研究論文の多くは、提言まではするが、実行した結果にまでは言及していなかった。研究と実践の間には、精神的、物理的な厚い壁があったのだ。
一方、私は、助成金なしでも成り立つ「生物多様性の保全による地域活性化」、つまり「生物多様性の保全・向上のビジネス化」モデルを、ささやかなものでいいから、実際につくってやろうと思っていた。そしてニホンモモンガのキュートさ≠煌ワめた特性を活かしたビジネス化は、モモンガグッズをつくってネット販売することだった。もちろん、そのグッズを買うことの意義(希少動物の生息地の保全と地域活性化)も伝えながら。
グッズそのものについては、学生たちのアイデアを採用し、そのアイデアについて、芦津の公民館で地元の人たちに集まってもらい話をした。結局、改善・改良も加え、10種類くらいのものに決め、地元の人につくってもらうことにした(モモンガグッズのシンボルになる焼印などは私がつくった)。そのうえで、売れた分のお金は、それをつくった人に(5パーセントは集落の区会へ)入る仕組みにした。
保全の意義も織り込んだモモンガエコツアーも行ない、宿泊は公民館、入浴はももんがの湯≠ナ、もちろん、有料でつかってもらった。ガイド代も有料である。
朝食、夕食は地元の婦人会の方たちにつくってもらった。モモンガエコツアーには、芦津モモンガプロジェクトのホームページを見て興味を持ったというシンガポール人の女性が2回参加してくれた。
そうそう、婦人会の方たちは集落の敬老会で、モモンガ焼き(大判焼きにモモンガの顔の焼印を押したもの)をつくっておられた。
この取り組みはなかなか繁盛し、グッズの注文もたくさんきた。
2009年にアメリカ大統領に就任したオバマ氏が進めたグリーンニューディール政策は、地球温暖化を中心とした環境問題と経済発展を結びつける試みだった。この取り組みはそれまでの世界史のなかで、環境問題に抗する最も規模の大きな取り組みだったように思うが、その根底を流れるねらいと構図は「芦津モモンガプロジェクト」と同じなのだ(………笑ってはいけない)。
そして私は、もっとよい形の「生物多様性の保全・向上のビジネス化」を考えつづけてきた。
一度、生成AIにも聞いてみたことがあった。「今の私にはわかりません」みたいなことを言ってきた。けれど私の脳内には、これまたささやかではあるが、AIにも浮かばない、一つの案がわいていた。
わがままな寄り道≠ェちょっと長くなった。
さて、2025年度の一年生による「大学魅力づくり委員会」だ。
彼らの取り組みのなかに「生物多様性の保全・向上のビジネス化」を取り入れられないかと密かに考えていた私は、委員会の集まりで、「環境学部と経営学部の学生の両方が専門性を活かせる取り組みがいいなー」と独りごと≠繰り返しつぶやいていたのだが、「キャンパス林」とか「マーケティング」という言葉が学生たちから出てきた瞬間を逃さず、こんなのはどう?という前置きをして、語りだした(学生の発想にまかせるという委員会≠フルールにちょっと違反するが、まー、こんな場合があってもいいじゃないか)。
私の語り≠ヘ、忠実な再現ではないが、次のような感じだった。
あのね、大学の裏側にあるキャンパス林、歩いたことないでしょ。歩いてごらん。木々があって小径(こみち)があって、広場があって、風があって、鳥の声がして、木漏れ日があって。そして、地面には木の葉が積もっていて、寿命が来て倒れた樹があって、芽生えを終えた幼樹がある。
君たち、フォスターペアレントって知ってる? フォスターペアレントというのは、保護されたネコやイヌなどの食費や医療費を援助して支援する「養い親」と呼ばれる人のことで、自分が選んだ特定の動物の成長を見守りながら、定期的にお金を送るわけだ。
私は常々、「生物多様性豊かな生態系を守ること」をビジネスにできないかと考えてきたんだけど、今、一つアイデアがある。
キャンパス林のなかで、これからどんどん育っていきそうな小さな小さな幼樹を、各自、見つけて、その幼樹の樹種や性質、さらに、自分がなぜその幼樹を選んだのか、なども織り交ぜて(つまりストーリーをつくり)動画にし、「この子のフォスターペアレントになってください」と伝えて動画を買ってもらう。
販売の形式はサブスク(定期購入)にし、たとえば、一カ月500円で、月に3回動画を送信する。
気に入れば購入を継続してもらってもいいし、一カ月で契約を止めてもらってもいい。
動画のなかで、地面の枯れ葉層の下の状態や周囲の林の様子なども説明すれば、生態系のことや生物多様性のこと(生物多様性が高い生態系ほど安定している)について知ってもらえることになる。もちろん、みんなも勉強してセリフを考えないといけないけどね。
これは生物多様性の保全をビジネスにする、これまでにないやり方だ。君たちは、その最初の実践者になる。ダメ元でやってみようじゃないか。
まー、こんな感じかな。
私の目には、その場にいた10人ほどの学生たちの表情は前向きに感じられた。
そして話は、そのプロジェクトの名前、動画の宣伝の仕方、お金の受け取り方など次々に展開し、とりあえず、次に集まるまでにLINEでプロジェクト名を出しあい、投票で決めることになった。
ちなみにプロジェクト名は7つ、その理由とともにLINEにあげられ、投票の結果、「BioLink (バイオリンク)」に決まった。
今、委員≠スちは、ホームページや商品の映像になる幼樹(複数でも可)や、動画のセリフを考えているだろう。そして動画をつくり、SNSで店を開き、うまくいけば誰かの、あるいは全員の動画が売れるかもしれない(もちろん、買った人は幼樹に名前をつけてもいい)。
やってみないとわからない。
そうそう、商品は動画であり、幼樹は商品ではないが、購入した動画の幼樹が数カ月後、あるいは一年後、枝を伸ばしたら、先端部分を切りとって「挿し木」にすればフォスターペアレントは実際の樹木を手にすることができる(生物多様性には被害はない)。もし種子をつけたら、その種子がフォスターペアレントに届く。これも夢のある話だ。
私はバイオリンク用に口座を開いた。買ってくれた人が代金を振りこむ口座だ。そして委員≠ヘ、一連の作業や成果の報酬としてお金を手にする。
少額だが、やっているうちにもっと収入の多い「保全して稼ぐ」ビジネスを思いつくかもしれない。とにかく、まずは動こう。
そろそろ「はじめに」も終わりにするが、この取り組みのなかには、次のような、公立鳥取環境大学の独自性をしっかりアピールする構造が潜んでいることにふれておきたい。立派な学長ではないか。
「バイオリンク」で、一人ひとりの委員≠ェ自分の商品の売り出し動画でしゃべるセリフやパフォーマンスを考えるためには、環境学部の委員≠ヘ経営学の知識(マーケティングやブランディングなど)を学び、経営学部の委員≠ヘ環境学の知識(植物の生態や生物多様性など)を学ぶ必要があるのだ(幼樹とともに学生も成長する!)。
私は、どんな種類の環境問題の解決にも、環境学部と経営学部両方の知見が必要であり、公立鳥取環境大学の環境学部と経営学部は、ベストマッチ!だと思っている。ベストマッチなのだ。
本書のなかの各章には、私が学長になる前後の事件≠ェつづられている。先生シリーズも第20巻になり、前半のころのような動きが大きな事件は少なくなってきたが、「面白くてためになる本」にしたいという気持ちは不変だ。読者の方々からの手紙もいただき、励まされるとともに、私の文章で少しでも元気≠ノなっていただきたいという気持ちも大きくなった。
大げさに言えば、人知れず七転八倒して書き上げた章もあり、すらすらと筆が動いた章もある。悲しみや苦しみを癒やすために書いた章もある。約20年間、鳥取環境大学のヒトも含めた関係生物と一緒に歩みながら書いてきた。
どうだろう。「はじめに」らしくなってきただろうか。
今回も、とりあえず、ここまで読んでくださってありがとうございます。
ではまた。お元気で。
本シリーズも、読者の皆さんに支えられて(1年に1冊のペースで)20冊目になる。
1冊目は、大学のことを知ってほしい。
学生や動物をめぐって、ときには悲しいことも起こるがそれも含めて(もともと心身ともに虚弱で、そこら中に頭をぶつけて生きている)私を元気づけてくれる、こんな面白い事件が起こる大学ですよ(そして同時に、動物行動学はこんな面白い科学ですよ)と伝えたくて書いた。
20冊目になってもその思いは変わらない。
学生や動物に少し多めに接する学長がいてもいいじゃないか、という思いが加わったかもしれない。
公立鳥取環境大学の学長・小林朋道がつづる、大好評「先生!」シリーズ第20巻。
約19年前、まだ学長ではなかったコバヤシ教授が大学の魅力を伝えるために筆をとり、その後長く続いていくことになる動物エッセイ「先生!」シリーズの第1巻『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』が刊行されました。いまや大学のマスコット的存在になっている「ヤギ部」のヤギたちや、研究対象であるモモンガやコウモリ、ゼミの学生たち、そして各巻のタイトルになったたくさんの動物やヒトとの出合いと別れを冷静かつユーモラスな語り口でつづってきました。
学生たちが伸び伸び、かつ創造的に過ごせるように大学運営に勤しむ日々のなかで、今までどれだけ動物たちの存在に助けられていたのかを自覚するコバヤシ学長。仕事に追われ動物や学生たちとのふれあいの時間は減ったものの、より広く深くなった視野と考察力、そして立場が変わっても変わることのない底抜けの好奇心で、動物とヒトの心理世界をさぐります。
鳥取市内の、キャンパス内に大きな森がある自然豊かな大学だからこそ巡りあえる、さまざまな動物たち。今回登場するのは、シリーズおなじみのヤギとモモンガ、そしてシリーズ的にはちょっと新しい雰囲気のハタネズミ、(殻に穴のあいた)カタツムリ、アライグマの骨。
本書タイトルになっている「カタツムリ」が苦手な人も、間違って背中の穴からアタマを出してしまったカタツムリの情けない姿をみれば、その愛らしさに気づくかもしれません。自然界のアクシデントであいてしまった殻の穴を修復していく様子は、著者の好奇心の犠牲となったイシダタミの穴あき実験の結果と合わせて、進化の妙を感じさせます。
地球で生きる生物として、他の生物とどう関わっていくのか。著者は、綺麗事ではなく、研究者・教育者としての実感から、人間と動物の現在と未来を考えてきました。動物とヒトの奥深い認知世界の一端をのぞくことができる本シリーズは、世代を問わず、どの巻から読んでも楽しめます。