| 小林朋道[著] 1,600円+税 四六判並製 240頁+カラー口絵4頁 2015年6月刊行 ISBN978-4-8067-1494-1 雌ヤギばかりのヤギ部で、なんと新入りメイが出産。 スズメがツバメの巣を乗っとり、 教授は巨大ミミズに追いかけられ、 コウモリとアナグマの棲む深い洞窟を探検……。 自然豊かな大学を舞台に起こる 動物と人間をめぐる事件の数々を 人間動物行動学の視点で描く 教授の小学2年時のウサギをくわえた山イヌに遭遇した事件の作文も掲載。 自然児だった教授の姿が垣間見られます! |
小林朋道(こばやし・ともみち)
1958 年岡山県生まれ。
岡山大学理学部生物学科卒業。京都大学で理学博士取得。
岡山県で高等学校に勤務後、2001 年鳥取環境大学講師、2005 年教授。
2015 年より公立鳥取環境大学に名称変更。
専門は動物行動学、人間比較行動学。
著書に『絵でわかる動物の行動と心理』(講談社)、『利己的遺伝子から見た人間』(PHP 研究所)、
『ヒトの脳にはクセがある』『ヒト、動物に会う』(以上、新潮社)、『なぜヤギは、車好きなのか?』(朝日新聞出版)、
『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』『先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!』
『先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!』『先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!』
『先生、キジがヤギに縄張り宣言しています!』『先生、モモンガの風呂に入ってください!』『先生、大型野獣がキャンパスに侵入しました!』
『先生、ワラジムシが取っ組みあいのケンカをしています!』(以上、築地書館)など。
これまで、ヒトも含めた哺乳類、鳥類、両生類などの行動を、動物の生存や繁殖にどのように役立つかという視点から調べてきた。
現在は、ヒトと自然の精神的なつながりについての研究や、水辺や森の絶滅危惧動物の保全活動に取り組んでいる。
中国山地の山あいで、幼いころから野生生物たちとふれあいながら育ち、気がつくとそのまま大人になっていた。
1日のうち少しでも野生生物との“交流”をもたないと体調が悪くなる。自分では虚弱体質の理論派だと思っているが、
学生たちからは体力だのみの現場派だと言われている。
ブログ「ほっと行動学」http://koba-t.blogspot.jp/
はじめに
マンガンの採掘坑道に棲むコウモリたち
えっ、アナグマと同居!?
先生、○×コウモリが、なんと△□を食べています!
コウモリをめぐる三つの事件
私が、谷川で巨大ミミズ(!)に追われた話
なぜ人は特定の動物に極度な嫌悪感を抱くのか
ドンコが水面から空中へ上半身を出すとき
愛すべき、ひたむきで屈強な魚
地面を走って私に近寄ってきたモモンガ
ムササビも生息する芦津の森にて
大学の総務課のYoさんとNaさんがスズメを助けた話
さすが環境大学!
ヤギ部初、子ヤギの誕生!
なんで産むんだ!?なんで母親じゃないヤギまで乳を出すんだ!?
前著、『先生、ワラジムシが取っ組みあいのケンカをしています!』から1年が過ぎた。
読者のみなさん、いかがお暮らしでしたか。
私は、相変わらず、山あり谷あり、洞窟(!)ありの1年でした。
さて、「はじめに」ですが、この1年で特に思い出に残っている、かつ、本文にするにはちょっと短すぎる出来事を、いくつかお話しして、「はじめに」に代えさせていただきたい(そんな安易な!)。
その1:「小林がジェイソンになった日」事件
最近、体調がイマイチである。歳のせいだろうか。
でも、動物に会いに野外に出ると元気になる。もう、要するに、そういう生き物なんだろう。私という生き物は。
先日、モモンガの森で使う予定のチェーンソーの状態をチェックするために、大学の教育・研究棟の裏で試運転をしていた。
都合よく、スギの丸太が地面に転がっていたので、チェーンソーをバリバリいわせて切っていると、爽快になってきた。調子にのって丸々1本、切ってしまった(それは試運転じゃないだろ)。
あとでゼミ生のYsくんに笑いながら言われた。
「13日の金曜日に先生がチェーンソーで暴れていたと話題になっていますよ」
そうか、あの日は、6月13日金曜日だったのか。チェーンソー、調子よかったなー。
オシマイ。
その2:「写真は語る! ヤギは………」事件
3階の、階段の踊り場を通るときは、たいてい、放牧場のヤギを見るようにしている。
あるとき、次のような場面に出合って、たいそう心を動かされ写真を撮った。
写真を見ながら説明しよう(次ページの写真を見てください)。
新しく建てた(まだ完成はしていない)小屋の横に台(長椅子)があり、それはヤギたちにとって、お気に入りの場所だった(ヤギは、地面から盛り上がった高い場所で休むのが好きなのだ)。
その台に、ヤギ部のSgくんが横になって休んでいた。疲れていたのだろう。台は、かたわらのトチノキが日陰をつくってくれ、寝るにはとてもよい場所になっていた。
すると、お気に入りの台の上を占領されたからだろうか、寝ているSgくんを、「あれは何よ」とばかりに、離れたところから探るように見はじめたヤギ(長老のクルミだ)がいた。そしてヤギは、警戒しながら少しずつ近づいていき、あと数メートルのところまでやって来た。
対象が動かないので、多少安心していたのではないだろうか。
ところがその直後、Sgくんが、寝返りをうつように、上半身を大きく動かしたのだ!
ヤギは、もうびっくりして(ヤギではない私が勝手に解釈しているが、間違ってはいないと思う)、脱兎のごとく逃げたのだ。写真は撮れなかったが、相当遠くまで逃げていった。
いや、それを見ていた私は、ヤギの行動に、圧倒的な人間くささを感じて、笑ってしまったのだ。
写真ヤギネタが好評だったので(おそらく)、写真ヤギネタをもう1一つ。ある秋の日の午後、私は、下の写真のようなヤギ(名前はコハルという)に出合った。
しばらく目と目で挨拶していたが、私は、どうしても言いたくなった。声をかけてやりたくなったのだ(みなさんならどんな言葉をかけられるだろうか)。
私がかけた言葉は、次のようなものだった。
おまえは巣のなかの鳥か!
オシマイ。
その3:「あーっ、君はこんなところも利用しているのか」事件
その3の事件は、その1、その2に比べ、ちょっと、内容がある。ちゃんとしている(?)。
今回の話のなかには、「空飛ぶ哺乳類」が少し多めに出てくる。最近の私の研究テーマであるモモンガとコウモリである。別々な戦略で空に進出した哺乳類たちは、共通性と突出したオリジナリティーにあふれる動物である。
その3は、私が学生の何気ない冗談のなかから、常識を破ることの大切さを目の前で実践して見せてあげた、じつによい話である。もちろん、そういう意味だけではなく、科学的にも、ささやかだけれども“大きなもの”につながる扉を開いた発見になるかもしれない(なんでもかんでも、大げさに言う、というのが小林流である。トホホ、単なる子どもじゃんか)。
コウモリの棲みかを探すのは、大変なことである。たとえば、新しい棲みかの発見をめざして、コウモリがいる可能性が高いと考えられる廃坑(昔、鉱物を掘り出していた鉱山)を探してみよう。
地図の上で場所を教えてもらっても、実際、そのあたりに行って入り口を見つけるのは容易ではない。
「あなたがお探しの腕時計は、この家のなかのどこかにありますよ」と言われるようなものだ。
“家のなか”には、いろいろなものが置いてあり、腕時計はなかなか見つからない。廃坑の入り口は土砂でなかば埋まっていたり、その前を植物が繁茂して覆っていたり、そもそも教えてくださった方の単なる記憶違いであったり、………なかなか大変なのだ。
ある日、ゼミの学生、YnくんとYsくんと一緒に、ある方から、地図もつけて教えてもらった場所を探しにいった。
標高400メートルくらいの比較的高地の町での話である。地図の上には、大体の位置がプロットされており、「○×公園から川を隔てて向こう側の山の斜面に入り口が見える」という有力な情報が付帯されていた。
われわれは、道路際の○×公園に立ち、「川を隔てて向こう側の山の斜面」に目を凝らした。でも、それらしいものは見えなかった。
いろいろねばったあと、「やっぱりないなー、しかたない、暗くなってきたし今日はもう帰ろう」と2人に告げたとき、Ynくんが次のようなことを言った。
「残念ですねー。そこにも穴はあるんですけどねー」
その穴は、○×公園に接する広い道路の下の水路の穴だった。
確かに、帰ろうとするわれわれのすぐ近くにあった。
もちろんYnくんは冗談のつもりで言ったのだが、私は、脳のなかで何かがはじけるような気がした。
「ちょっと行ってくるわー」
そう言って私はウェダー(腰までくる長靴)を履き、水路のなかに入っていった。
常識から考えると、高地だとはいえ、そんな小さな人工的な場所にコウモリがいるはずはない。特に、そのあたりにいるとしたら、(イエコウモリではない)高地に棲む傾向のあるコウモリだ。
コキクガシラコウモリとかユビナガコウモリとかモモジロコウモリといった。そんなコウモリはなおさら、広い道路わきの小さな水路にいるとはちょっと考えられない。
でも、私は何かを感じたのだ。そして、「野生生物の発見のためなら労をいとわない」という小林流を実践したかったのだ。
するとどうだろう。いたではないか! 水路の中央あたりの天井に、黒い塊が見え、はじめはコウモリなどとは思わなかったが、近づいてみて!
モモジロコウモリだった。
私は文句なしに感動した。
それから、私のコウモリに対する認識は少し変わった。
その出来事から1週間ほどして、私は今度は、大学の近く、つまり標高が低い平野部の小さな水路を探索するようになった。通勤途中などの、ちょっとした時間を利用して。
種類はさておき、コウモリはああいったところも利用するようになったのだ。ああいうところも利用するんだ。
もしそれが例外的ではないことがわかれば、コウモリの生態についての新しい認識になるし、また、コウモリと人との共存の方法の大きなヒントになる。
そして、探索を始めて数日後、いかにーーも、人工的!といった感じの小さな水路に入ったときだった。
向こうのほうに、小さな小さな、黒い布の切れ端のようなものがかすかに見えたのだ。
もちろんゆっくり進んでいった。
そしたら、そこには、一部コンクリートが窪んで割れ目ができており、その割れ目に、なんと、1匹の雄のモモジロコウモリ(!)がじっと冬眠していたのだ。
私は声に出して言った。
「あーっ、君はこんなところも利用しているのか」
ちょっと長めになってしまった。
本文とどう違うのか、と言われたら………、ちょっと調子に乗りすぎました。
でも、調子にのったら止められないのが私である。
調子に乗ったついでに………もう1つ。
その4:「まちなかキャンパス、里山生物園設置」事件
この本のサブタイトルは「鳥取環境大学の森の人間動物行動学」だが、厳密に言うと、2015年から、大学名が公立鳥取環境大学に変わった。
それにともなって、というわけでもないのだが、鳥取駅前にいわゆるサテライトキャンパス「まちなかキャンパス」ができた。地域の方々とのふれあいや、地域活性もめざした取り組みの一拠点にしようというわけだ。
私は例によって、「人と人のふれあいのなかに、“生物”が入ることによって、ふれあいはより豊かなものになるはずだ。第一、(私が一番)ワクワクするではないか」との思いを胸に、「まちなかキャンパス」のなかに「里山生物園」なるものを置くことを提案した。
里山生物園の設置にあたっては、もちろんいろいろな苦労があった。事務の方々や学生諸君にもいっぱい助けてもらって、なんとか、それはでき上がった。
大学で試作したときは、里山生物園の重さに愕然とした。物理的な重さである。
長さ1.5メートルを超える大きな水槽のなかに、野外の里山水辺から取ってきた石や土や水、植物、動物の姿を再現するのである。こりゃー重たい!と気づいた私はすぐ、水槽の台の制作をお願いしていた智頭町芦津のTiさんに電話して言った。「すごく丈夫なものにしてください」
Tiさんは、立派な智頭杉の一枚板を使って、それはそれは丈夫な台をつくってくださった。美的にもすぐれている!
ただし!丈夫であるがゆえにその運搬は大変だった。学生に手伝ってもらって、台を引き取りに行ったときは、Tiさんがクレーン(!)で持ち上げた台をトラックの荷台に乗せた。
そしてさらにそれを、まちなかキャンパスがある駅前ビルの3階まで(!)、3階まで持って上がらなければならないのだ。
聞いた話では(私は、大学に持って帰った台を、まちなかキャンパスに運び入れる作業には、幸運にも、イヤイヤ訂正、残念ながら、講義があって立ち会えなかったのだ)、もうそれは想像を絶する作業だったと言う。事務の、特に若い人たちが驚異的な知恵と力でやり遂げてくださったのだ。
その後もいろいろな問題にぶつかった。夏の水温上昇をどうするか。変えても変えても取れない水の濁りをどうするか等々………頭を悩ませたのだ。しかし、そのたびに、考えつづけて解決していった。
水辺を再現したために宿命的に起こる、微細土粒の水中への溶出(つまり濁り)をどう防ぐか。それも水辺の自然の再現を残したままで。
これはちょっと特許ものなのでここでは言えないけれど、私のひらめきは半端じゃなかったと思う。実際のところ。今も思い出すだけで手が震える(病気だろうか)。
里山生物園を見ていると、いろいろな動物の生態がわかる。たとえばトノサマガエルとツチガエルの餌の探し方だ。
トノサマガエルが植物の上空をただよう餌を探して飛びつくことが多いのに対し、ツチガエルは這うようにして地面の餌をひたむきに探す。両者の体色が違うのも(トノサマガエルは黄色や緑、ツチガエルは土色)、その習性とよく合致する。
里山生物園を訪ねてくださったお子さんや親子のために、そういった観察のほかにも、水槽のなかや、水槽の外の机で、いろいろな実験も用意した。
その実験の一つが、「トノサマガエルはどれくらいの大きさのものまで餌と判断するか」を調べるものである。
この実験で活躍するのが、キョロちゃんと名づけられたトノサマガエルである。
キョロちゃんの目の前で、19ページの写真のようなさまざまな大きさの球(石粘土でつくってあり、一番大きいので直径が3センチある)を揺らすと、キョロちゃんは、もし餌だと判断したらすごい勢いで飛びついてくる。そうなると、“キョロちゃん釣り”の完成となる。
読者のみなさんは、どれくらいの大きさの球を、トノサマガエルは餌だと判断すると思われるだろうか。答えが知りたい方は、ぜひまちなかキャンパスを訪ねていただきたい。大歓迎する。
調子に乗って、さらに乗って、こんなに長くなった。
まー、長いということは、サービスだと思っていただければ。
さて、長い「はじめに」も最後になった。
最後に一つ、お知らせさせていただきたい。
SNSにはとても疎い私がブログを書きはじめた(管理はほかの人にやってもらっているのだが)。
ブログと言えるのかどうかよくわからない。体験したことや思ったことを写真や絵と一緒に、短い文章で書いている(目標は、「1つ10分程度で書く」「できるだけ毎日書く」である)。
http://koba-t.blogspot.jp/なのでお寄りいただければ幸いである。
本書、みなさんに命名していただいた「先生!シリーズ」も9回を迎えることになった。
今回の執筆中には、今までになく、険しい山あり谷あり、そして、あるときはどうしようもなく暗く、あるときはどうしようもなく興味深い洞窟があった。
例によって、築地書館の橋本ひとみさんには丁寧で素敵な構成の本に仕上げていただいた。
読んでくださってありがとう!
2015年3月3日
小林朋道