| 小林朋道[著] 1,600円+税 四六判並製 240頁+カラー口絵4頁 2014年4月刊行 ISBN978-4-8067-1475-0 黒ヤギ・ゴマはビール箱をかぶって草を食べ、 コバヤシ教授はツバメに襲われ全力疾走、 そして、さらに、モリアオガエルに騙された! 自然豊かな大学を舞台に起こる動物と植物と人間をめぐる、笑いあり、涙ありの事件の数々を人間動物行動学の視点で描く |
小林朋道(こばやし・ともみち)
1958 年岡山県生まれ。
岡山大学理学部生物学科卒業。京都大学で理学博士取得。
岡山県で高等学校に勤務後、2001 年鳥取環境大学講師、2005 年教授。
専門は動物行動学、人間比較行動学。
著書に『絵でわかる動物の行動と心理』(講談社)、『利己的遺伝子から見た人間』(PHP 研究所)、『ヒト、動物に会う』『ヒトはなぜ拍手をするのか』(以上、新潮社)、『なぜヤギは、車好きなのか?』(朝日新聞出版)、『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』『先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!』『先生、子リスたちがイタチを攻撃しています!』『先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!』『先生、キジがヤギに縄張り宣言しています!』『先生、モモンガの風呂に入ってください!』『先生、大型野獣がキャンパスに侵入しました!』(以上、築地書館)など。
これまで、ヒトも含めた哺乳類、鳥類、両生類などの行動を、動物の生存や繁殖にどのように役立つかという視点から調べてきた。
現在は、ヒトと自然の精神的なつながりについての研究や、水辺や森の絶滅危惧動物の保全活動に取り組んでいる。
中国山地の山あいで、幼いころから野生生物たちと触れあいながら育ち、気がつくとそのまま大人になっていた。1日のうち少しでも野生生物との“交流”をもたないと体調が悪くなる。
自分では虚弱体質の理論派だと思っているが、学生たちからは体力だのみの現場派だと言われている。
はじめに
森のダニは水のなかでも1カ月以上も生きる
ミズダニでもないのに! これはすごい発見だ!?
モモンガが巣から滑空する姿を見るモモンガエコツアーはいかがですか?
モモンガに嫌われた“小林式オリジナル巣箱”!?
大学の建物を生息地にするツバメたち
ある初夏、ツバメに襲われ50メートル走って逃げた話
ナガレホトケドジョウの二つの生息地にせまるそれぞれの危機
人はその生息を知ることなく、一方は手を加え、他方は手を引き
イモリやモリアオガエルの棲む池やモモンガの森での学生実習の話
学生に助けられたり、学生にまんまと騙されたりした話
ヤギ村長の環境教育村
学生たちは何を得てくれただろうか
鳥取環境大学“ツタ”物語
いや、いろんなことがありました
ゴマという黒いヤギの話
鳥取環境大学ヤギ部はこれからも頑張ります
唐突であるが読者のみなさんは、「TKG」あるいは「TKGコンテスト」というものをご存じだろうか。おそらく、あまりご存じないだろう。
TKGコンテストとは、私のゼミでここ数年伝統的になっている、ゼミの懇親会でのコンテストのことだ。TKG、つまり、TA・MA・GO・KA・KE・GO・HA・N 卵かけご飯、のコンテストだ(O・MO・TE・NA・SHI OMOTENASHIみたいになったが)。
学生が頭文字を取ってTKGとしたのだが、新しくゼミに入ってきたある学生はそれをはじめて聞いたとき、私の名前が入ったご飯(TO・MO・MI・CHI・KO・BA・YA・SHI・GO・HA・N)かと思ったと言った。
へーっ、気づかなかったなー!
3年前に卒業していった7期のゼミ生が3年生のときだったと思う。ゼミで1泊2日の合宿をしたとき、TKGは生まれた。
山のなかの宿泊所で、みんなで晩ご飯をつくっていたとき、卵かけご飯の話になった。「卵かけご飯のトッピングは○×が一番だ」とか、「卵かけご飯専用の醤油がある」とか、「私の家では、白身は除いて黄身だけで卵かけご飯をつくる」とか………。
そして、じゃ、ここにある惣菜で、誰が一番美味しい卵かけご飯をつくるかやってみよう、ということになったのだ。
そこでは、私のつくった卵かけご飯が(何を使ったか忘れたが)一番になった(ように記憶している)。すると、学生の1人がリベンジしたいと言い出し、では今度のゼミの懇親会で、ということになったのだ。
確か、そのときに「TKG」という言葉も誕生したように思う(もちろん、「TO・MO・MI・CHI・KO・BA・YA・SHI・GO・HA・N」にもなると気づいた者は誰もいなかった)。
数カ月後、それは実行に移された。場所は大学の近くの公民館だった。
1階の調理室で、用意してきた惣菜を使って、思い思いのTKGをつくるのだ(コンテストへの参加を希望した学生と………私が)。そして、それをみんなが集う2階に持って上がり、小さな容器に分け、5名ほどの審査員が採点する。その合計で優勝者が決定する。その大会(第1回大会と呼んでもいいだろう)では、やはり私が優勝した。
このようにして生まれたTKGの伝統は先輩から後輩へと受けつがれ、今日にいたっている(今年になって、消滅したという噂もあるが)。
最近のTKG大会で一番盛り上がったのは、2013年の3月に開催された「4年生を追い出す会」での、卒業生4名と私の死闘だろう。
結果から言うと、私は、そのころ主流になっていた「黄身を崩さない(つぶしてご飯とまぜあわせない)状態でご飯の頂点に置き、その周囲に焼肉やマグロトロのミンチといった豪華なものを乗せる」という新興TKG形に、あえて正統「黄身ご飯かきまぜ」形で挑み………。
優勝したのは、4年生のSrくんだった。7ページの写真(ちなみに、この写真を撮ったのは私だが、けっして連写のなかの1枚ではない。これも動物行動学者のなせる技なのだ)を見ていただければ、TKGコンテストがどれほど若者を熱くする権威ある伝統行事であるかが、わかっていただけると思う。
コンテストの採点発表のあとには審査委員長からの批評もあり、いや面白かった。
ただ、ここだけの話だが、学生たちはTKGコンテストを、ただただTKGコンテストとして楽しんでいただけのようだったが、もちろん私はそうではなかった。TKGコンテストをとおして、いかに学生たちの思考力、創造力、コミュニケーション力、生物を観察する力を育み伸ばすかに主眼を置いて参加していたのだ。その点だけは、この場を借りてはっきり申し上げておきたい。
さて、そんな思い出深いTKGコンテストを闘った9期生も2013年3月には卒業していった。そして、彼らがくれたメッセージ帳に私は驚き、感心し、感謝することになるのだった。
彼らがくれたメッセージ帳、それは、本書「先生!シリーズ」のしびれるようなパロディーだったのだ。
表紙には、「先生、第9期生からメッセージが届いています! [鳥取環境大学]のゼミの小林行動学」というタイトルが記され、帯の部分の内容紹介には、「好奇心旺盛なコバヤシ教授の行動を見守る生徒(第9期生)」「生徒達の奮闘(こば語解読)の日々」「迫る卒論提出期限」「コバヤシ教授の行く先には、これからも珍事件が待っている!」という文章が躍っていた。
裏表紙の「定価:本体1600円+税」の部分も、パロディーにぬかりはない。「定価:本体プライスレス+愛」と記されていた。
表紙に感心した私は、本文には感動した。
卒業生一人ひとりのメッセージが、3つの質問に答える形で書いてあった。
たとえば………、「お題2 小林先生珍事件:先生の面白かった行動エピソードです。動物行動学もいいですが、小林行動学も学びがいがあるものです」に対して、Srくんは「芦津の調査の時に、今まで一度もハシゴから落ちていないと豪語した直後に見事に落ちた」と答えている。
そー言えば、梯子の4段目くらいまでのぼったときに、梯子が傾いて落ちたことがあった。でも、落ちたのはそれ1回のみである(これが豪語なのだろう)。
懐かしい思い出である。
もちろん、これからも元気でいてください、とかいった感動的なメッセージも少しはあったのだ。
今回は、「はじめに」が少し長くなった。でも、その理由を読者のみなさんにはわかっていただけると思う。
築地書館の橋本ひとみさんも、「先生、今回は“はじめに”が少し長すぎます!(削ってください)」とは言われなかった。今回も、大変お世話になった。ありがとうございました。
2014年2月 小林朋道