はじめに 子どものイソギンチャクはカタツムリのように這って動くのだ! ゼミ室に海産動物の水槽がやって来た話 フェレット失踪事件 地下室から忽然と消えたミルク テニスコートで死にそうになっていたクサガメ クサガメとイシガメの違いは実に面白い ヤモリの恩返し? 私の講義「保全生態学」についての学生のコメントとヤモリの話 ヒメネズミの子どもはヘビやイタチの糞に枯れ葉をかぶせようとする 新しいタイプの対捕食者行動の発見! 小さな無人島に一人で生きるシカ、ツコとの別れ 最後のアイサツに来てくれたのかもしれない 先生、木の上から何かがこちらを見ています! 雪の山中で起きた驚きの出来事 ヤギのことが気になってしかたないキジの話 鳥取環境大学は里山のなかの大学?
読者のみなさんのおかげで、『先生!』シリーズも第五弾となる。 このシリーズを書いてきて、よかった、うれしい、と思うことはいろいろある。 その一つは、読者の方からのメッセージである。手紙や葉書やネット上での本へのレビューなどで、「読んでよかった」「元気が出た」というメッセージを伝えられると、私は大変励まされる。 私が勤務する大学の学生が本についていろいろ言ってくれるのもうれしい。 最近は、私のゼミの学生は、本の“ネタ”の心配をしてくれたり、次の本のタイトルを考えてくれたりするようになった。 本文にも書いているが、大学を変わられた先生がゼミ室に残していった海産動物の水槽を、私のゼミで引き取ることになり、水槽の引っ越しをしたとき、ゼミの学生のYsくんは、「これも本のネタになりますね」と言った。(そのとおり、しっかりネタにさせてもらいました。) そのYsくんと、同じくゼミ室の主のYnくんは、別なとき、廊下で学生たちに“つかまっていた”コゲラ(キツツキの仲間)を救出して私のところに持って来てくれたりして……。私の本のネタを考えてくれてのことだったらしい。 YsくんとYnくん、そのときゼミ室にいたIsさん、そして私が見守るなか、コゲラはゼミ室の窓から元気に飛び立っていった。 一方、Iyくんは、ある出来事を私に教えてくれ、それにちなんだタイトルまで考えてくれた。題して「先生、スズメがスズメバチの巣に巣をつくっています!」だ。 ちなみに、そのスズメバチの巣は、私もよく知っていた。 五年ほど前、ヤギ小屋のそばの実験棟の軒下(地上一五〜二〇メートルくらいの高さがあった)につくられたコガタスズメバチの巣である。当時、事務の人が、誰かからその話を聞いたらしく、大学の全学生、全教職員に向けてメールを送った。 「……危険ですから近づかないようにしてください。近々、業者を頼んで除去します……」と。 その巣にずっと前から気づき、高いところを単に飛んでいるだけのハチにまったく危険など感じていなかった私とヤギ部の部員たちは、事務に、そこまでする必要はない、と申し入れた。 結局、その巣は残り、ハチたちも心おきなく子育てをし、数年後には、巣は空き家になっていた。 そうか、そこへスズメが巣をつくったか。 そりゃいい。 確かに、「先生、スズメがスズメバチの巣に巣をつくっています!」だ。 もちろん私は、Iyくんと、そのとき近くにいたIgさんと一緒に、現場を見に行った。 途中、Mさんも加わり、現場で、スズメバチの巣につくられたスズメの巣を、下から見上げ、スズメがどのように巣に入り、巣から出ていくのか眺めた。しばらくすると首が痛くなったので、野生の芝の上に、みんなで寝ころんで、スズメの様子を見ていた。 耳を澄ますと、スズメバチの巣のなかのスズメの巣のなかから、餌をねだる子スズメの鳴き声が聞こえてきた。 そして、見ていると、子スズメに餌を運ぶ大人のスズメは三羽いた。私は、「一羽はヘルパーの可能性があるなー」とみんなに話した。 ヘルパーというのは、つがい、つまり親鳥の二羽を助けて、ヒナへの餌運びなどを手伝う個体のことである。ヘルパーがよく知られている種では、ヘルパーは、その両親の子ども、つまり、そのとき両親が餌を運んでいるヒナの兄か姉である場合が多い。 私は、「これは、講義の導入で使えるなー」と感じて、写真を撮ることにした。 そのころ、生態学入門という講義で、毎回、導入の部分に“この一週間に撮った写真”というコーナーを設けていた。なかなか評判のよいコーナーで、学生が、「先生の写真は、単なる生物の写真ではなく、必ずその生物の生態を感じさせる写真ですばらしいと思います」といったような思いやりのある感想を書いてくれ、私も調子にのって、毎回、よい写真が撮れるように頑張っていた。 「スズメバチの巣のなかに巣をつくった、ヘルパーらしき個体もいるスズメたち」というのは、まさに“この一週間に撮った写真”にピッタリだ、と思ったわけである。 ところで、スズメバチの巣のなかのスズメの巣の下で、いろいろ位置を変えてカメラを構えていた私は、また面白いことに気がついた。 なんと、スズメたちも、スズメバチの巣のなかのスズメの巣の下でうろうろしている私を、注意深く観察していたのである。巣を支えている鉄骨の陰から体を乗り出して、首をのばして、懸命に私の様子をのぞいているのである。これも実に興味深いスズメの生態を示している。 よしっ、写真一枚。 このように、読者の方や、学生諸君に励まされながら、私は第五弾を書いた。 第五弾についても忌憚のないメッセージを(できれば、忌憚のないなかにも思いやりのあるメッセージを)いただければうれしい。そしてなによりも、読者のみなさんが、動物たちへの思いやりといくばくかの元気を感じていただければとてもうれしい。 最後になったが、築地書館の橋本ひとみさんは、毎回、私が新鮮な気持ちで執筆に向かえるような絶妙な刺激を与えてくださる。「この話を書いたら橋本さんが面白がるのではないか……」みたいな気分になる。心からお礼申し上げたい。 小林朋道