![]() | 細川あつし[著] 2,400円+税 四六判並製 280頁 2025年5月刊行予定 ISBN978-4-8067-1684-6 事業承継、ビジネスモデル、業務参画、 プロフィット・シェアとチェレンジ・シェア、 パワハラ・モラハラのない融和的経営――― 事業環境の変化で、確かな潮流になりつつあるビジネスモデルを、 コーオウンド研究の第一人者が本格紹介。 |
細川あつし(ほそかわ・あつし)
一般社団法人従業員所有事業協会代表理事
株式会社コア・ドライビング・フォース代表取締役
跡見学園女子大学マネジメント学部・大学院マネジメント研究科教授
立教大学大学院社会デザイン研究科客員教授
コーオウンド会社化指導、エシカル・ビジネスのコンサルティングを主たる業とするほか、
研究教育では立教大学大学院、跡見学園女子大学でコーオウンド・ビジネス、エシカル・ビジネス、
コーポレート・ガバナンス、経営戦略、マーケティング戦略に関する授業を持つ。
多くのセミナー・講演活動を行っている。
東京生まれ。
慶應義塾大学商学部卒、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士前期・後期課程修了。
社会デザイン学博士。
趣味は、家族、バンド、たき火、ぼーっとすること。
プロローグ しあわせな会社 わかちあいの資本主義
第1章 コーオウンド・ビジネスとはいったいなにもの?
1 元祖コーオウンド会社
2 誕生日に会社を社員にプレゼントしてしまったボブ
3 しあわせな資本主義
第2章 普通の会社がコーオウンド会社に
1 シャインズ株式会社の物語──社長がいきなり「会社をあげる」
2 会社をあげる? 事業承継のオプション
3 会社のあげ方
4 ウィルキン&サンズ──あえて足踏みで地元とのご縁をつむぐ
5 会社をもらう?
6 チャイルドベース──直接所有と間接所有のハイブリッドから100%コーオウンド化へ
7 シャインズ社はどっち?
Column コーオウンド・ビジネスのパイオニアたち-1
立役者 グレアム・ナッタル
第3章 三種の神器
1 情報共有
2 プロフィット・シェア
3 オーナーシップ・カルチャー
Column コーオウンド・ビジネスのパイオニアたち-2
先駆者 ジョン・スピーダン・ルイス
第4章 会社が変わった!
1 フェルプス・カウンティ・バンク──問題ぶっ飛ばし屋プロジェクト
2 スコット・フォージ──トップ・ダウンからボトム・アップへの転換
3 プール・カバース──「ファン」経営
4 W・L・ゴア&アソシエーツ──あのゴア・テックスの会社がすごい
Column コーオウンド・ビジネスのパイオニアたち-3
発明者 ルイス・O・ケルソー
第5章 オーナーシップ・カルチャーが強烈に試された社員たち
1 逆風の中での従業員買収
2 獅子奮迅の経営
3 タイロン・オサリバン
4 なにも変わらなかった業務組織と全てを変えたオーナーシップ・カルチャー
5 労働組合とストライキ
6 坑道採掘の完了
第6章 オーナーシップ・カルチャーの味わい
1 個人の中にジレンマを取り込む
2 言葉にしきれないオーナーシップ・カルチャー
3 起業家精神
Column コーオウンド・ビジネスのパイオニアたち-4
敷衍 コリー・ローゼン
第7章 コーオウンド・ビジネスの優位性調査
1 業績の優位性
2 不況期により進化を発揮
3 コロナ禍への耐性
Column コーオウンド・ビジネスのパイオニアたち-5
展開 ローレン・ロジャース
第8章 コーオウンド・ビジネスの究極形 スコット・バーダー
1 創業者アーネスト・バーダー
2 ガバナンス構造
3 倫理的経営
4 驚きに満ちた会社と経営のあり方
第9章 ステークホルダーとのご縁を深める、広げる
1 コーオウンド会社の中ではステークホルダー意識が高まる
2 佐呂間漁協
3 ステークホルダー論の生い立ち
4 私たち生活者の中で育まれるステークホルダー意識
5 「株主価値極大化」だからこそのステークホルダー意識
Column コーオウンド・ビジネスのパイオニアたち-6
人間愛 ボブ・ムーア
第10章 日本のコーオウンド・ビジネス
1 オーナーシップ・カルチャーどころではなかった日本経済の潮流
2 チャンスを逃した
3 今こそチャンス
4 コーオウンドの道を歩み始めた会社たち
5 社員福祉を追求した結果としてコーオウンドになっていた会社たち
第11章 なぜ会社をコーオウンドにするのか? ガット・フィーリング
1 イコール・エクスチェンジ
2 ガット・フィーリングが彼らを突き動かす
エピローグ
あとがき
脚注
参考文献
社員がみんなしあわせで、しかも普通のビジネスより利益も成長率も高い。会社の持続性も高く、また創業者の事業承継戦略としても有効性が高い。
こんなすてきなビジネス・モデルが存在する。社員がその会社の大株主になってしまう「コーオウンド・ビジネス」である。欧米では「エンプロイー・オーナーシップ」と総称されている。
このモデルに従うと、ひと頃流行(はや)った「株主価値極大化思想」はそのまま、社員の利益極大化をもたらしてくれる。会社が利益を上げるほど自分たちも潤う。この単純な事業構造が社員も経営者も「やる気」にさせてくれる。「自分たちの会社」という意識が「自分の職場」へのかかわり方を変えてくれる。「わが社の利益の極大化」と「ワークライフ・バランス」が矛盾なく均衡する。
英米の研究によると、コーオウンド会社とそうでない会社を比較した場合、売上高、利益率、社員定着率、会社の持続性ともに、コーオウンド会社のほうが優れているという調査結果が複数出ている。コーオウンド会社は不況に強いという傾向もはっきりと表れている。
それだけではない。「私が、私たちがこの会社のオーナーだ」という意識が、仕事に邁進し、お互いを助け合う共通意識を醸成してくれる。さらに金銭的利益にとどまらない果実をわかちあうコミュニティ意識を醸成してくれる。その意識はそのまま、あたたかくゆたかな会社の文化となって定着してくれる。コーオウンド・ビジネスの世界ではこの文化を「オーナーシップ・カルチャー」と呼んでいる。
オーナーシップ・カルチャーが育む貢献意識は社内だけにとどまらず、お客様、取引先、近隣のコミュニティ、果ては仕入れのおおもとの原産国の労働者や環境にまでさかのぼっていく。彼らが会社の姿勢に共鳴して応援してくれる。そして会社を発信源として、利益とよろこびと貢献をわかちあう大きなコミュニティが育ってくれるのである。
日本ではほとんどなじみがないコンセプトだが、コーオウンド・ビジネスは英米では大きな潮流となっている。英国は約百年にわたる営々たるコーオウンド・ビジネスの歴史を持っている 。米国ではすでに民間雇用の8%をコーオウンド会社が支えている。会社の大きさも6人規模のIT企業から25万人規模の小売業まで幅広く、業種もほぼ全ての業種にわたる。
英米でコーオウンド・ビジネス・モデルが普及した最初のきっかけは、オーナー経営者たちの事業承継対策としてだった。息子や娘や同族で事業を引き継いでくれる者がいない。競合他社やファンドに会社を売れば自分は売却益を手に入れられるが、それは社員を苦しめることになるし、なにより自分が手塩にかけて育てた会社がこの世から消えてしまう。そんなことはできない……という悩みの中から生まれたのがコーオウンド化という道だった。
オーナー社長たちは最初はおっかなびっくりで、少しずつ株式を社員に渡してこのモデルを進めた。ところが、いざやってみると会社の雰囲気がどんどんよくなり、業績がぐんぐん伸びた。これに気をよくしたオーナーたちはコーオウンド化を一気に進めていった。
そして追随する会社が増え、それがひとつの潮流となって法制や税制優遇措置が後追いで整備されていった。これが英米でのコーオウンド・ビジネス・モデルの生成過程である。
日本ではこのビジネス・モデルが緒についたところである。日本での普及が英米に遅れている理由はひと言でいうと、戦後の経済界が護送船団型経済モデルを推し進めて終身雇用型の高福祉経営を敷衍(ふえん)させたこと、そしてそのモデルに制度疲労が起きた今世紀初頭になって、一気に株主価値極大化モデルに舵を切ったことに由来する。その中でステークホルダーをたいせつにするコーオウンド・ビジネスのコンセプトは取り上げられずにきたのである。
一方、日本の法制度や税制を見渡して、コーオウンド・ビジネスを阻害するものはひとつも存在しない。英米のような税制優遇措置は存在しないものの、創業家や経営者がこの「わかちあいの資本主義」モデルを取り入れることを阻む要素はなにもない。
日本でも、いよいよコーオウンド化に舵を切った会社が現れている。日本の「わかちあいの資本主義」元年の幕はすでに開いているのである。
本書では、事業の成長と承継に心をくだく経営者、新しい挑戦を通じて自らを世に問う起業家たち、そして、日々仕事に邁進しながらも「なぜ自分はこの仕事をしているのか」との問いを抱くあなたに向けて、この新しいビジネス・モデルを提案したい。本書を通じて読者とともにこのモデルを見ていくことで、私たち一人ひとりにとって「しごと」とはなにか、「ビジネス」とはなにかを問いかけていきたいと考える。