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治せる医師・治せない医師
医師はなぜ治せないのか

【内容紹介】●治せる医師・治せない医師「訳者まえがき」より


 ラウン博士は、ヒーリング・アート(癒しの芸術)としての医療を実践するために、ひとりひとりの患者の心に向き合う努力を重ねてきた。ここには、博士が医師として悩み、苦しみ、患者の死に打ちひしがれ、そして失敗をくり返すまいと、すさまじい情熱を傾けて医学研究に取り組んだ姿が赤裸々に描かれている。この中のさまざまなエピソードは、フィクションではないだけに深く胸に迫り、医療制度の問題にかぎらず、人生や家族の問題を考えさせられる。
 博士は、多くの人々の生と死に立ち会い、自らの老化を見つめることによって、患者がよりよく生きるために医師に何ができるかを考察し、患者を癒すにはどうすればよいか、多くの教訓を実例をあげながら示している。私たちの多くは、身近な人々の病気や死を経験しているだろう。患者とともに常に前向きに生きようとする博士の姿を見れば、どういう状況でも、よりよく生きることができるという希望が持てる。これは、医療を志す人々だけでなく、すべての人々への応援歌である。
 前半部分を翻訳した『治せる医師 治せない医師』は、心臓病と心の問題を掘り下げ、問診の重要性と心のケアの大切さを訴えながら、テクノロジーに頼る現代医療を憂慮する。
 後半部分の『医師はなぜ治せないのか』は、心臓学の最前線を切り開いた半生を書くとともに、生と死を見つめ、不治の病を抱えた患者に対する医療のあり方を提言している。
治せる医師・治せない医師
医師はなぜ治せないのか

【内容紹介】●医師はなぜ治せないのか「訳者まえがき」より


 ラウン博士は、心理的なストレスが不整脈を引き起こす可能性があることを証明し、患者の心を知る医療の大切さをますます痛感するようになった。また博士は、不整脈と突然死の研究をする中で、直流電流を使って心拍の乱れを正常化する除細動器を開発するなど、医療テクノロジーの発達に貢献してきた。しかし、テクノロジーが発達するにつれて、医療の現場で心のケアがおろそかになったことを、博士は憂慮するようになった。これは博士も言うように「人生の皮肉」かもしれない。
 The Lost Art of Healingにはアメリカで生きる人々のさまざまな人生ドラマが描かれているが、宗教や民族や国の違いはあるものの、日本社会が抱える問題と驚くほど共通点がある。たとえば診療報酬など医療制度のあり方が、日本でも昨今とりざたされているが、アメリカでも類似の問題が深刻化しているようである。博士は多くの人々の生と死に立ち会い、自らの老化を見つめる。この中のさまざまなエピソードは、フィクションではないだけに深く胸に迫る。博士は「人は死んだように生きる必要はない。……最後の瞬間まで、よく生きることは実際にできる」と言い、患者がよりよく生きるために医師ができることを提言している。患者の心に共感することが大切だという博士は、患者の家族や遺族にも温かい配慮を忘れない。
治せる医師・治せない医師
医師はなぜ治せないのか

【内容紹介】●本書「日本語版のための序文」より


 本書が日本でも意味を持つのはなぜだろうか。理由ははっきりしている。私たち人間は、民族的、国家的、人種的に異なり隔たっていても、表層的な違いや文化を越えて、互いに共通する部分がはるかに多い。人間として身体構造がほぼ同じというだけでなく、より深い意味で、私たちは出生、成長、加齢老化、死という共通の大きな問題に直面している。
 生活のストレスや存在の苦しみは共通のものだ。国や民族が異なっても、医学はそれを越えた人類共通の普遍性がある。医師たちは、日本人であれアメリカ人であれ、全世界共通の井戸から医学の経験という水を汲み上げ、ともに1つの学問にたずさわり、苦しみを和らげ命を育むという、同じ目的のために日々努力している。
 本書は、アメリカよりも日本の方がさらに大きな意味を持つかもしれない。先進国では今世紀、医学の進歩によって平均寿命が25年以上延びた。中でも日本ほど平均寿命が著しく延びた国はない。日本の平均寿命は今や世界最高で、男性は76.4歳、女性は82.8歳となっている。老化とともに、精神的にも肉体的にも無残に衰えてゆき、医療の役割はますます重くなる。しかし、患者が多くの問題を抱えている高齢者医療においては、薬の処方もさることながら、患者の全人格に向き合うケアが何よりも必要となる。
 中でも、医師は患者の話をよく聞く技を身につけなければならない。よく聞くためには、孤独の問題に対する洞察力が必要である。また、生活を不自由にしている多くの身体的な問題を理解し、わずかな鬱の兆しも敏感に察知し、老化とともにあらわれる多くの苦しみに共感する心を持たなければならない。しかし、アメリカの医療における現状を見れば、高齢者に対する思いやりが欠けており、医師に、聞く姿勢がないように思われる。おそらく日本でも同様の状況ではないだろうか。本書は、ますます深刻化する医療の危機的状況を示し、どの国でも普遍的な意味を持つ、多くの重要な教訓を書いたものである。
 癒しに関しては種々の書物が著されているが、特に本書は、人生の主要な部分を医学の研究に捧げ、その多くが世界的に認められた臨床医が書いたものとして、研究者と臨床医としての両面から、ユニークで新たな視点を提供するものであり、広く読んでいただきたいと思う。
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