| 泊みゆき+飯沼佐代子[編著] 2,000円+税 四六判並製 212頁+口絵4頁予定 2026年2月刊行予定 ISBN978-4-8067-1700-3 世界中から買い集められた木質チップ、木質ペレットを大量に燃やすことで発電する、 非効率極まりない大規模バイオマス発電所が日本中に林立している。 世界の森林を破壊して作られた電気を高値で買い取ることを日本政府が保証する、この倒錯したエネルギー政策は、 私たちが、毎月支払っている電気料金に含まれる「環境賦課金」によって支えられているのだった。 海外取材と丹念なリサーチによって明かされる「地球にやさしい発電」についての衝撃のリポート。 |
泊 みゆき(とまり・みゆき)
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長。日本大学大学院国際関係研究科修了。
東京大学大学院農学生命科学研究科博士後期課程満期退学。
株式会社富士総合研究所(現・みずほリサーチ&テクノロジーズ)に10年間勤務した後、バイオマス産業社会ネットワークを設立。
毎年、バイオマス白書を発行。
経済産業省バイオ燃料持続可能性研究会委員、関東学院大学非常勤講師、東京大学農学共同研究員。
主な著書に『バイオマス本当の話』(築地書館)がある。〔第1章、第7章、第8章〕
飯沼佐代子(いいぬま・さよこ)
信州大学農学部森林科学科、同大学院農学研究科修了。
持続可能な天然資源(特に森林)の利用と管理がテーマ。
環境コンサルタントで環境アセスメントに従事した後、メコン・ウォッチ、アジア太平洋資料センターなどのNGOのタイでの活動に携わる。
アジア太平洋資料センターの開発ビデオ制作担当を経て、地球・人間環境フォーラム。
以降、日本の木材やパーム油の持続可能な利用について活動。
違法伐採対策法の制定や輸入木質バイオマス発電の問題についての提言を行う。
〔第1章、第3章、第4章、第7章〕
川上豊幸(かわかみ・とよゆき)
神戸大学大学院国際協力研究科博士課程単位取得退学博士(経済学)。
聖心女子大学国際交流学科教員。
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)運営委員、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)日本シニア・アドバイザー。
専門は国際環境経済学。
森林破壊リスクがある原料を利用する企業の調達方針や、
それらへの投融資を行っている金融機関の投融資方針についての調査研究を行い、
NGOによる働きかけや提言活動のサポートを行っている。〔第2章、第6章〕
鈴嶋克太(すずしま・かつひろ)
2021年から地球・人間環境フォーラム。
バイオマス発電の問題について海外のNGOや金融機関とのリレーション構築・連携、メディアへの情報提供を担当する他、
同団体発行の環境情報誌で企画・取材・編集も行う。
2020年に米ケンタッキー州Centre College を卒業(国際学〈International Studies〉専攻)。
〔第2章、第3章、第5章〕
ロジャー・スミス
米国の環境団体、マイティ・アースの日本プロジェクト統括マネージャー。
スティールウォッチ アジア担当。
コネチカット州のクリーン・ウォーター・アクション事務所の共同ディレクターとして10年間活動した後、
東日本大震災の復興に関わって以降、日本在住で活動。
ウェズリアン大学で歴史学の学位を取得。〔第3章〕
石崎雄一郎(いしざき・ゆういちろう)
ウータン・森と生活を考える会事務局長。
龍谷大学大学院政策学研究科修士課程NPO・地方行政研究コース修了。
ボルネオ島の村人が森林再生に取り組む姿に感銘を受け、在来種の苗づくり・植林やエコツアー、
森林保全/野生動物保護などを現地のNGO/地域住民と連携して実施。
日本では、熱帯林破壊を止めるための現地調査、署名提出、株主総会でのアクションや、
消費者や学生向けに啓発活動などを行っている。〔第4章リポート〕
まえがき
第1章 FITバイオマス発電の概況
1 バイオマス利用の概要
2 輸入バイオマス発電とは
第2章 木質バイオマス発電のCO2排出量の算定
1 木材・木質バイオマスの燃焼により、石炭より多いCO2を排出
2 木質バイオマス発電の燃焼によるCO2排出量
第3章 燃料生産地の課題
1 輸入ペレットの急増
2 輸入ペレット生産地の課題
コラム ベトナム木質チップ工場の実情
コラム カナダ・ブリティッシュコロンビア州のペレット工場―貴重な森が含まれる土地から多くの丸太を調達
コラム インドネシア・スラウェシ視察レポート
3 生産地の課題まとめ
第4章 持続可能性の確認方法
1 FITガイドラインと持続可能性ワーキンググループ
コラム パーム油認証とFIT
リポート 地域住民とNGOによるパーム油発電反対運動の成功の軌跡
2 FITバイオマス持続可能性基準をめぐる動き
第5章 海外の状況
1 EUREDV
2 EUDR
3 EUDRとカナダの原生林伐採─政府が独自の「森林劣化」定義に動く
コラム 森林バイオマスのエネルギー利用に関する科学者のレター
コラム 韓国政府がバイオマスエネルギー政策を転換―輸入木質バイオマスへの補助金を停止・削減
コラム バイオエネルギーの気候・自然リスク─国際的なサステナブル投資家ネットワークも懸念
4 BECCS(バイオマス発電由来CO2の分離・回収・貯留)
コラム CCSの経済合理性、安全性についての懸念
第6章 木質バイオマス燃焼による気候変動への影響評価─算定方法の再検討
1 温室効果ガス算定方法における対象と期間─国別インベントリ、
事業者インベントリ、ライフサイクル評価
2 ネットゼロ目標
3 森林部門の「ネットゼロ」とは
4 生物由来CO2排出量の企業としての報告
5 自然吸収の算定方法
6 木質バイオマス燃焼時のCO2排出ゼロという考え方
7 土地利用変化による排出量の計上
コラム 林地残材、製材端材、建設廃材などの燃焼によるGHG排出について
8 燃料材の帰属可能な算定範囲とは?
9 影響評価の再検討 ベースラインのインベントリ分析がゼロでない場合
コラム CDP「気候変動質問書」とバイオマス燃焼のCO2排出─多くの事業者が適切な報告をせず
第7章 木質ペレットに関わる爆発・火災事故
第8章 今後の木質バイオマス利用
1 バイオマスの利用法
2 バイオマスの熱利用─2050年カーボンゼロに向けた熱分野の脱炭素化
3 今後のバイオマス利用の方向性
あとがき
輸入バイオマスを燃料とする大規模バイオマス発電を取り巻く状況は、大きく変化してきている。
熱利用をしない木質バイオマス発電は、エネルギー効率が悪い。気候変動対策効果はバイオマスの熱利用や他の再生可能エネルギーより低く、燃料を購入するためコストが低下しにくく、再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下、FIT)のような助成制度がないと事業が成立しにくい。そもそも燃焼によるCO2排出量が石炭より多く、さらに森林、特に原生林を含む天然林を伐採した木材を燃料とする場合、森林土壌からの温室効果ガス(以下、GHG)排出により気候変動対策に逆行し、併せて、森林破壊による生物多様性の喪失や社会的問題を生じさせる。
「バイオマス発電の終わりの始まり」がはっきりと姿を現し始めている。EUは、2023年再生可能エネルギー指令(以下、RED)Vで森林由来のバイオマスを燃料とするバイオマス発電に原則、財政支援を行わないことを決定した。日本と並んで輸入燃料によるバイオマス発電を推進してきた韓国は、2024年、バイオマス発電への補助金を段階的に廃止すると発表した(第5章)。そして日本でも、1万kW以上の輸入バイオマスを主な燃料とする一般木質バイオマス発電は、2026年度よりFIT/*FIPの新規認定から外すことが決定された。
バイオマス燃料の価格は国産・輸入ともに10年前の1.5〜2倍と高止まりしている上に燃料の安定的な入手がしにくくなっており、稼働を停止するバイオマス発電所が続出している。それに加えて近年、木質ペレットの受け入れ・搬送・貯蔵施設等での爆発・火災事故が発生し、原因究明や対策のため長期間の施設使用の停止や対策費の負担が、発電事業者にのしかかっている。発電事業者が真に気候変動対策やSDGsを追求するのであれば、経済・環境・社会的に問題の多い大型専焼木質バイオマス発電からの撤退を検討するタイミングなのではないだろうか。
石炭火力発電でのバイオマス混焼にも大きな懸念がある。再生可能エネルギー電力100%を目指すイニシアティブ、RE100は、石炭バイオマス混焼を再生可能エネルギー電力から外した。混焼は結果的に石炭火力発電を延命させるため、気候変動対策への影響が大きい。爆発事故を起こした愛知県知多郡の武豊石炭火力発電所のように、電力のCO2係数を下げるために無理にバイオマス混焼を行うのではなく、電力の高需要期のみ稼働させることで、CO2係数を下げることも一案である。
人類にとって、バイオマスは最も古くから、最も多く使われている非化石エネルギーであり、脱炭素化社会において非常に重要であることは言うまでもない。だが、貴重な天然林をバイオマス発電目的で伐採し、丸太をそのまま燃料にするような「悪い」バイオマス利用は、むしろ気候変動や持続可能な社会に悪影響を及ぼす。バイオマスのカスケード(段階的)利用が叫ばれるが、その最上位は、「自然生態系としての森林」であり、次には長期間の利用に耐える木質建築材・家具材であることに注意する必要がある。
一方、地域の廃棄物・未利用バイオマスを発電ではなく、熱利用中心に使うことは、地域経済への恩恵、資源の有効活用になる。日本列島に暮らす人びとが数千年にわたって行ってきた営みである。気候変動対策として有効かどうかは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)やGHGプロトコルのルール、あるいは実際の森林生態系の炭素蓄積を科学的に算定しながら考えていく必要があるだろう。
もちろん、持続的な森林利用計画のもとで伐出される木材は、鉄鋼やアルミニウムなどに比べてGHGや環境負荷の低い原料であり、建材や家具、紙や素材として使われた後、あるいはそれらに向かない樹皮や端材が焼却処分されるなら、その際にエネルギー利用することは経済的にも社会的にも理にかなうであろう。すべて燃焼させずに、バイオ炭として土壌還元し、マイナスカーボンとする選択肢もある。
NPO法人バイオマス産業社会ネットワークは、1999年の設立以来、バイオマスの持続可能な利用推進のために活動してきた。2016年頃より、一般社団法人地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク、ウータン・森と生活を考える会、マイティ・アース、「環境・持続社会」研究センターなど他の環境団体とともに、パーム油や木質ペレットを燃料とするバイオマス発電に関わる持続可能性の問題に取り組んできたが、このたび、築地書館の土井二郎代表取締役から提案をいただき、本書を上梓する運びとなった。
第1章では、FIT制度による大型輸入バイオマス発電の事例など、概況について説明する。
第2章では、バイオマスは、燃焼によって石炭以上のGHG排出があるが、なぜ「カーボンニュートラル」とされてきたかについて説明する。
第3章では、輸入木質バイオマス発電の燃料生産地の課題について、ベトナムの認証偽装と超短期伐採の問題、カナダの原生林伐採、米国によるペレット生産の大気汚染、インドネシアの熱帯林伐採などを解説する。
第4章では、木質ペレットなどバイオマス燃料の持続可能性の確認方法について解説する。FIT制度では、開始から五年たった2017年から「事業計画策定ガイドライン」が策定され、毎年改定されているが、問題が起きてからの対応で後手後手に回っていることは否めない。パーム油など「農作物の収穫に伴うバイオマス」については、詳細な持続可能性基準が策定されたが、木質バイオマスについては、事実上合法性の確認に留まってきたのが現状である。
第5章では、海外の状況として、EUの再生可能エネルギー指令(RED)Vにおける森林バイオマスの発電に対して原則助成を行わないことを決定したことや、韓国のバイオマス発電への政策転換、また、バイオマス発電由来CO2の分離・回収・貯留(BECCS)の問題点について指摘する。
第6章では、木質バイオマス発電のCO2排出量の算定として、IPCCやGHGプロトコルにおけるバイオマス発電由来CO2がどう見なされているかについて解説する。大まかには、年ごとの森林吸収とバイオマス燃焼を別々に計上する「インベントリ」と、燃焼するバイオマスがかつて大気中の炭素を木材に固定化したと見なす「ライフサイクル」の2つの見方があるが、いずれも現在、経済産業省が主張する「バイオマス燃焼によるCO2はカーボンニュートラル」とは齟齬があることが説明されている。
第7章では、近年、多発している木質ペレットの輸送や保管等に関わる爆発・火災事故について解説する。
第8章では、今後の木質バイオマス利用として、産業用熱利用を中心とする中高温からのカスケード利用について提案している。
本書が、月々、家庭や事業所が支払う電気料金によって支えられている現状の誤ったバイオマス利用を正しく、今後のバイオマス利用をよりよいものとするための一石となれば、真に幸いである。
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長 泊みゆき