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狼と生きて 父・平岩米吉の思い出

【書評再録】


●Relatio「近ごろ気になるこの一冊」中川志郎・茨城県自然博物館館長評(1998年秋号)=このところ、イヌやオオカミに関する本の出版が相次いでいる。特に欧米で異色の内容で発表され、しかも、かなりのベストセラーになっているのが特徴だ。
これらの本が最近になって相次いで出版され、欧米市民に広く受け入れられて共感を得るようになったのは、従来の「人間中心主義」から「動物の心・意識」にも配慮するようになった最近の傾向の反映であり、また、動物行動学の著しい発達によって明らかにされたヒトとイヌ科動物の行動進化の共通性《平行進化》がもたらすイヌへの親近感であろうと思われる。
しかし、考えてみると、これはわが国においては決して新しい視点ではない。また、イヌという動物の特殊性に着目し、その行動・生態・飼育・民俗など欧米に先駆けて科学的研究の道を開いた平岩米吉氏の存在を決して忘れてはならないであろう。
平岩氏が独力で「犬科生態研究所」を開設したのは昭和12年、以来、家畜犬はもちろん、オオカミ・ジャッカル・ハイエナなどを飼育し、実際にともに暮らして、その生理・生態・行動の詳細を研究したのである。
幸いなことに、このたび、日本が誇るイヌ科動物研究界の巨人・平岩米吉氏の全貌を知るに絶好な本が出版された。著者は平岩氏の長女であり、協力者であり、平岩氏を語るには最もふさわしい立場の人である。
それらの成果は「犬とオオカミ」「犬の生態」「犬を飼う知恵」「犬の行動と心理」そして「狼--その生態と歴史」など膨大な著作としてまとめられている。これらを改めて読み返してみると、その正確詳細な記述といい、広範な関連分野の扱いといい、いま評判の海外著作に勝るとも劣らないといってよいであろう。
また、著者が父君から受け継いだ普及誌「動物文学」では、折に触れ平岩氏の人柄、業績などが紹介されているが、本書ではその周辺のことも描きつくされて、ひとりの巨人の伝記としても読み応えのあるものとなっている。
諸賢の一読を願うゆえんである。
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