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狼と生きて 父・平岩米吉の思い出

【内容紹介】本書「あとがき」より


 父がいつかきっと私が自分のことを書いてくれると思うといったとき、そのいつかとは父が亡くなった後だということだと私は了解しました。そして、大変なことだけれど、私はいつかそれを書かなければならないのだと思いました。父は私がまだ小さいときから、自分のことを、この子はいつか書く、書いてほしいと思っていたようです。でも、ある時期からはポツポツ小さいときの思い出などを父は自分で書いて「動物文學」に載せはじめました。
 昭和61年3月号から「私の自叙伝」を書き始める予定でしたが、これは父の死によって、とうとう題名と写真の指定のみで一行も書かれずに終わってしまいました。父の入院中、父はふっと病室にいる私に「難しい伝記なんかでなくていい。大したものでなく随筆のようなものでいいから『父、平岩米吉の思い出』を書いてほしい」といいました。父が亡くなって私は父との約束を忘れたわけではありません。ただ、それは私にとってあまりに責任の重い仕事でした。また、私には父の記憶がまだあまりになまなましくて辛く、年数がたたなければとても書けないと思っていました。そうして私は、生前、父が望んでいた犬や狼の本の復刻と「動物文學」の第百号までの復刻、そして父の資料をおさめるための資料庫を建てる作業に没頭していきました。
 それらがようやく完成した平成6年6月には、父が亡くなってから早くも8年の年月が過ぎていこうとしていました。8年前には書くことができなかった父との約束の伝記と思い出は、これ以上、時がたってしまわないうちに書いておかねばならない。これからは、なつかしい印象や記憶も薄れていくばかりだろうと思いました。
 父が私に望んだ気持ちに応え父の姿を誤りなく書き残し伝えるために、私は私の力不足は力不足として、身贔屓になってはいけないが、人としての父のすぐれたところを、また私にとってすばらしい父であった人の姿を精いっぱい書いていこうと思うようになりました。それが私がこの本を書いた理由です。
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