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擬態1・2

【内容紹介】●本書「はじめに」より


 アマゾンを探検したベイツによって、有毒なチョウに無毒なチョウが似る“ベイツ型擬態”が報告されて1世紀以上、この間に出された論文は、世界で2000本を超えている。別の種なのになぜこんなに似ているのか、擬態というテーマは、古今東西、多くのナチュラリストの注目を集めてきた。
 擬態といえばとかく昆虫類の擬態が注目されがちだが、昆虫類だけでなく他の無脊椎動物、さらに陸棲・水棲を問わず、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などの脊椎動物、それこそ多種多様な、あらゆる分類群の生物に擬態は知られている。
 擬態はすべてモデルと擬態者と信号の受信者という三者があって成り立っているものである。しかしモデルは生物でなくてもよい。隠蔽色(カムフラージュ)は基本的にモデルが動かない無生物に対する擬態である。また全身をまねるのではなく身体の一部分を、別のものに見せる擬態がある。たとえばシジミチョウの仲間で尾状突起を持つものの多くは、その突起のある方を頭に見せて捕食者の攻撃をそらす。捕食者は尾状突起を触角と見まちがうのである。目玉模様もそこに捕食者(より高次の捕食者)の顔があるように錯覚させ、捕食者をたじろがせる役割を持った擬態だと考えてよい。
 擬態の語源はmime(=演技する)である。相手が別の生物であれ、その身体の一部分であれ、より高次の捕食者の特定部分のパターンであれ、とにかく擬態者は身を守るため、時には相手を攻撃するために“演技している”のである。
 擬態の問題は進化生物学、生態学、行動学など自然史関係諸科学にとって、古くて新しいテーマである。この本では、モデルと擬態者、そして信号の受信者の抜きつ抜かれつの進化のレースのきびしさと、だましのテクニックのみごとさを知っていただく中で、擬態をめぐる自然界のしくみのおもしろさを読者の皆さんに堪能していただけたらと思う。
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