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昆虫放談 【書評再録】 | |||
●週刊文春「オジサンに贈るトレンディな本」泉麻人氏(1989年8月17日・24日号)=昭和15年に小山内龍さんという漫画家が書いた本で、昆虫採集、飼育の楽しさを極私的な日記タッチで延々と綴っている。舞台は、当時の東京の目黒小山台付近、玉川、神奈川県新吉田町(現・港北ニュータウン付近)と推定される。オオムラサキの幼虫を探しに行って夢中になりすぎて日射病になるくだりとか、アブとまちがえてスズメバチを手づかみして刺される描写とかが、本当におかしい。ところどころに挿し込まれた自作のイラストってのが、これまた妙にコミカルな味があっていいんですよ。ぼくはこのところ、この本ばかりを何度も読み返している。 別にこれを読んだからって、OLにモテモテになるかどうかは保証できないが、「自分のなかの忘れかけていた少年性」みたいなものを再掘できる一冊、であることは確かだ。 ●東京人(泉麻人氏)評(1994年4月号)=漫画家となって東京・目黒に暮らしている時代、製菓会社から頼まれたキャラメルの内箱に昆虫のマンガを描く、という仕事をきっかけに、昆虫採集にハマッていく過程が淡々と綴られた随筆集、なのである。 昭和12から15年にかけて、およそ4年間の春夏秋冬、虫採り、飼育に明け暮れた日々が、のびのびとした子どもの絵日記のような調子で綴られている。 北杜夫氏が本の帯で言うように、僕も、繰り返し読んでしまっている。そういう、ついついクセになる、なんとも名調子の文体なのだ。 虫好き、東京好きには、本当に愉しい一冊だ。 ●サイエンス評・長野敬氏(1988年1月号)=昭和10年代に(あるいはその後でも)、一応の昆虫少年であった人たちの昔語りには、まず間違いなくこれが出てくる。“懐かしのメロディー”だ。 ●アニマ評(1992年1月号)=昆虫採集の是非がニュースをにぎわせる中、採集家にとっての古典が新装版で復刻された。初版は昭和16年。半世紀が過ぎてなお新鮮さを失わぬ理由は、虫に出会った驚きと喜びがあるからだ。 ●日刊ゲンダイ評(1991年9月14日)=昆虫随筆の名著である本書には、昆虫採集・飼育の楽しみが余すところなく書かれている。ことに、オオムラサキの幼虫を育てるために孤軍奮闘するさまは、ほほ笑ましいやらおかしいやらで、笑いを誘う。全編をつらぬくユーモラスな筆致は“採集の是非を問うという実りのない論争を超えて”こうした楽しみがいかに心を豊かにするものであるかを端的に示してくれる。 | |||
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