書誌情報・目次のページへ 書評再録のページへ 読者の声のページへ
ジョーゼフ・キャンベルが言うには、愛ある結婚は冒険である

【内容紹介】本書「訳者あとがき」より


 本書はジョーゼフの最晩年に収録された対話を起こした対談集だけに、彼のそれまでの業績が網羅されていると同時に、著書の学術的な難解さに較べて、内容が充分に消化された形で語られており、コンパクトな中にキャンベル入門編といった趣を持つ。彼は手品のように古今東西の神話のモチーフを対話者の前に次々と出してみせるが、神話の内容は例外なく全ての人間に当てはまる冒険、つまり人生を象徴しているのだ、という重要なメッセージを、暖かい人間性と共に投げ掛けている。
 本書では殊に、自分の人生を生きるために至福に従い、人生の挑戦に応えて勇気を持って選択することの大切さを伝えたいというジョーゼフの気持ちが強く表われており、20世紀を生き抜いて現代社会のあり方を憂える老賢人の言葉として、代えがたい重みを感じる。
 アメリカは良くも悪くも現代社会としては常に日本の一歩先を歩いてきたが、戦後復興期以来の経済成長のピークを通り過ぎて次なる目標を失った現在の日本も、彼の言う根深い「荒れ地人生」の問題を抱え込んでいる。物質的な豊かさを追求し、多くの夢を実現しながら、借り手のないオフィスビルのような心の空虚さを持て余した世紀末の日本人。そこには指針として仰ぐべき思想も宗教もない。しかしそこになにかを見いだそうとするのが人間である。
 ジョーゼフの知識は実に多岐に亘り、しかもとらわれずに本質を指摘している。出発点であったローマン・カトリックに対して非常に手厳しく、東洋思想は手放しで絶賛するという傾向は否定できないが、それも宗教における象徴の扱い方に対する批判に発しており、学者としての膨大な知識から普遍的な共通点を引き出した業績には卓越したものがある。彼の想像力の翼に乗って古代文明を目の当たりにし、英雄の姿を垣間見たり、伝播の行方を追って大海を渡ったりするうちに、自分自身の視界が開けてくる。
 何よりも神話を中心に据えながら、三大宗教から哲学、心理学、文化人類学、錬金術、文学、芸術といった幅広い分野において深い感性を伴った知識を有する思想家としてのジョーゼフの見識は、現時点での方向性を求める読者に多くのキーワードを提示する。この本で語られる内容はあらゆる方向に開かれ、ここを出発点にして様々な「知的な旅」が始まるに違いない。
トップページへ