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台北帝大生 戦中の日々

【内容紹介】本書「まえがき」より


 盛岡で昭和16年12月8日第二次世界大戦に突入したのである。寮生全員で冷たい外気をついて八幡町の奥にある護国神社に参拝して祖国の前途を祈念した。杉の古木がていていと立つ中で若人たちは近来にない新鮮で純粋な感慨にしばし浸った。
 それから急速に時局は展開した。学生たちは授業が短縮され、卒業されて軍隊という巨大な怪物に吸収されていった。私のクラスメートの多くは陸軍獣医に、あるいは海軍予備学生に、兵役までに間のあるのは農林省とか県庁に、あるいは会社関係そしてさらに大学にというふうに散っていった。そして明るく愉快な、気のいい奴の何人かは死んでしまった。
 この本の話は私が盛岡高農を出て、台北帝大に向かうときから始まるのである。
 私は前から思っていたのだが、朝鮮とか中国に関する事柄の書籍はずいぶん多いのだが、多くは私たちの暗部に触れたものが大部分である。それにしても台湾に関するものが比較にならぬほど少ないのはどうしてであろうか。勿論、台湾総督府とか台湾の史実についての若干の書物がみられる。それで当時学生であった私の見た、つまりは戦争末期の台湾と台湾人、そして学生たちの生活を描き出して現代の各年代層の方々に見てもらい、知ってもらいたいのである。
 世界は一つという標語があるけれど、戦争は絶えなく、民族意識はなお強く、南北問題、核問題、貧富の格差といった障害が山積している。私たちはまずもっとも近い国々の人たちとせめて友情を通わすべきである。
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