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動揺病 ヒトはなぜ空間の奴隷になるのか 【内容紹介】本書「序に代えて」より | |||
動揺病はありふれた現象である。大多数の人が車酔い、船酔いなどでたいてい一度は経験する。古くから研究されてはいるが、日常的かつノイジーな現象であり、一部の研究者を除いてあまり魅力的なテーマとはいえない。動揺病の主な症状である唾液分泌の亢進、冷や汗、顔面蒼白、吐き気などの自立神経症状は、研究の対象とするにはとらえどころがなく、やっかいなものというのが通説である。 耳鼻咽喉科に入局し、平衡現象に興味をもち始めた頃、遠縁にあたる医師と話す機会があった。雑談の中で「平衡に興味があるのなら教えてもらいたいが、車酔いはどうしておこるの?」と質問され、返答に窮したのを今でもよく覚えている。その後長らく平衡の研究に従事してきたが、動揺病を本格的に研究することになるとは夢にも思わなかった。おそらく、その当時動揺病を研究したとしても、核心に迫ることはできなかったであろう。今ふり返ると、30代の前半から10年間は、動揺病を研究するための準備期間にすら思われる。それほどに、動揺病は表面的な軽薄さに反し、奥の深い生体現象と言うことができる。 数年来たずさわってきた動揺病の研究は、今まで経験したことがないほど刺激的で、知的な興奮を覚えるものであった。動揺病をめぐる謎の正体をついに見つけたと確信したのである。この謎が解けた途端に、それまで予想もしなかった身体の平衡を維持する原理が、ぼんやりとながら見えてきた。この単純な原理を適用すると、種々の現象をうまく説明することができる。共通のキー・ワードは表題にもある「空間の奴隷」である。 | |||
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