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開発フィールドワーカー 【内容紹介】●本書「はじめに」より | |||
「開発」という言葉の意味もろくすっぽわからない状態からこの世界にかかわるようになって、20年が過ぎてしまった。アジア、アフリカ、ラテンアメリカと世界各地で働く機会があり、いろいろな体験ができたし、見聞もできた。遅ればせながら開発学を学ぶ機会も得て、それまでの自分の無知と無謀さに恥じ入ったこともあった。本書はそうして学んだことを、開発の仕事に携わる、あるいは開発の世界を目指す人たちと分かち合うために書いたものである。また、筆者が主催する、会員数3000人ほどのメーリングリスト(http://dwml.com)上でのやり取りが、本書執筆の上で、おおいに参考になった。フィールド経験のない大学生からJICAの専門家、NGOの草の根ワーカー、世界銀行のエコノミストまで、個人の立場で自由に発言されてきたことが、筆者にとっていくつかの論点を逆照射してくれたのだ。
本書は、開発ワーカー(および、開発、環境に関わる仕事に関心のある読者)のための「ガイド、ヒント集」という内容であるが、実際には本書を読んだからと言ってそのままで良い開発の仕事ができるわけではない本書は「ハウツー本」でもなければ、「裏技」を示すための書でもない。複雑な要因が絡み合う途上国の社会、その中で働いていく開発の仕事に、唯一の解答や、「これが最も良い」と言い切れる手法などは多分存在しない。必要なのは常に自分を磨き、自分の行為を見つめ直し、人々の話に耳をすませ、常に変化している状況、その時点で何が良いかを考え、そして進んでいくことだろう。 本書で意図するのは解答を示すことではなく、筆者が経験の中で学んだ「ものの見方」を示し、読者の視点の選択肢を、多少なりとも豊かにするのに貢献することである。判断するのは読者一人一人である。この本は副読本になるかもしれないが、教科書ではないことを明記しておきたい。 本書の内容はかなり厳しいことも含んでいるし、人によっては耳が痛いこともあろう。筆者の普段の言動が「厳しすぎる」と人から評されていることもまた事実である。しかし、日本の開発ワーカーは「何かをしてあげる」ために出かける人々である。「良いことをしている」というガードに守られて、日本の人たちから厳しい評価を受けることは少ない。そして、途上国では「ドナー」という立場になって、現地の人たちから厳しい評価を受けることもまたない。それでは自分たちで自分たちに対して厳しい目を向ける以外に、自分たちを正常に保つ手段があるだろうか?そしてそのような危うい存在である開発ワーカーの考えや行いが、途上国の人たちに大きな影響を及ぼすのである。自己批判を欠いた開発ワーカーほど怖いものはないのがおわかりになると思う。開発ワーカーは最も自分に厳しくなくてはいけない存在なのである。 開発の目的は豊かさの実現である。1人の開発ワーカーが、新たな1つの視点を開くことによって、支援の対象となっている人々は、豊かさの実現にさらに1歩近づくことができるかもしれない。そうした願いをもって本書をしたためた。 | |||
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