森上 信夫(もりうえ・のぶお) 1962年埼玉県生まれ。フルタイムのサラリーマンとの兼業昆虫写真家。 昆虫がアイドルだった昆虫少年がカメラを手にし、そのアイドルの"追っかけ"に転じ、現在に至る。 1996年、「伊達者(だてもの)競演−昆虫のおなか」で、第13回アニマ賞を受賞。 全16点の受賞作 (アリス館 『虫のくる宿』 に収録)は、 背景が黒い「黒バック」の昆虫写真であったが、最近は背景が白い「白バック」の撮影に取り組んでいる。 日本昆虫協会会員、埼玉昆虫談話会会員。立教大学卒。 ■著書 『虫のくる宿』(アリス館) 『虫・むし・オンステージ!』(フレーベル館) 『虫とツーショット―自撮りにチャレンジ! 虫といっしょ』(文一総合出版) 『散歩で見つける 虫の呼び名事典』(世界文化社) 『ポケット版 身近な昆虫さんぽ手帖』(世界文化社) 『調べてみよう 名前のひみつ 昆虫図鑑』(汐文社) 『樹液に集まる昆虫ハンドブック』(文一総合出版) 『昆虫の食草・食樹ハンドブック』(文一総合出版:共著) 『オオカマキリ―狩りをする昆虫』(あかね書房:共著) 『ウスバカゲロウ』(ポプラ社:共著) 『小学館の図鑑NEO 昆虫』(小学館:共著) 『川辺の昆虫カメラ散歩』(講談社:共著) ■ブログ 「昆虫写真家・森上信夫のときどきブログ」
はじめに 「時間の問題」こそ、大問題なのだ 昆虫カメラマンの住所録 声もかれるホタルの撮影 「虫屋」とは? ぼくはなぜ「白バック写真」が上手か? 楽しい害虫駆除業務 昆虫カメラマンの仕事 大きなプロジェクトは、同時にやってくる スリッパ履きで「アニマ賞」 意外に役立つ職場の名刺 いつだって長靴姿 「リフレッシュ休暇」でマレーシアへ 謎の虫・ウスバカゲロウ 鱗粉を捨て去る蛾・オオスカシバ 虫は「かわいい」のか? オオカマキリと同伴出勤 カナヘビを逃がす日 「スタジオ」ってどんなの? ファーブルよりシートン 虫の名前のことば学 「樹液酒場」はパラダイス 「得意科目」が暗示するもの 昆虫少年の原風景 アシナガバチ取材の思い出 カメラとの出会い オオミズアオ―2つの死 「幼虫萌え」の時代 一人じゃ行けないフユシャク取材 擬人化思考は「推察の深化」を促す やがて「春」が来て おわりに ご協力いただいた皆様 昆虫写真索引
「昆虫カメラマン」というのは、お金にも名誉にもあまり縁のない大変に地味な仕事だが、その中でも日本でいちばん地味な存在がおそらくぼくだろうと思う。何といっても、普段はサラリーマンとして「お勤め」をしており、夜と休日だけのカメラマンなのだ。 胸を張って「カメラマンです」とは名乗れないほどの身分だが、そんな中で、これまでに12冊の本を出してきた。いつまでもぐずぐずと写真家として独立せずにいるから、仲間には「ヘタレ」と言われているが、返すことばもない。事実その通りだと思う。 出版社が昆虫の総合図鑑を出そうというとき、声をかけてもらえる人を「昆虫カメラマン」と呼ぶとしよう。図鑑は大変に多くの写真を必要とするから、一人や二人のカメラマンだけでは作ることができない。日本にいるほとんどの昆虫カメラマンの協力を仰ぐことになる。 となれば、声をかけてもらえる「昆虫カメラマン」は、日本におよそ十数人いるということになるだろうか。ぼくも一応、その中に入ってはいるが、カメラマンだけの収入では生活できず、サラリーマンと兼業しているわけだから、なかなかきびしい世界だ。 日本で十数人の中に入るといったら、サッカー選手ならば年収一億円以上の日本代表クラスだ。そんな乱暴な比較をしてはいけないかもしれないけれど、昆虫カメラマンがどれほど地味な仕事か、おわかりいただけると思う。最低でも日本でベスト10には入らないと、食べていくことさえできないのだ。 この本では、そんな地味な昆虫カメラマン業界でも、いちばん地味なぼくがあえてその日常を語ることで、世の中の「ヘタレ」と呼ばれるみなさんを少しでも勇気づけられたり、あるいは、人生の目標を語れずにいる人たちに、自分の興味のある分野で何か一つでもささやかな夢を持つきっかけにしてもらえたらと思う。 なにしろ、昆虫カメラマンのような職種というのは、仕事の依頼がなくても「昆虫カメラマンです」と宣言した瞬間から、もうその道のプロなのだ。医者や美容師のように国家資格が必要な仕事とは異なり、参入のハードル自体は低い。ぼくも宣言はしたものの、サラリーマンは辞めず、兼業のまま本を出し続けているうちに、いつしか出版社の人にもちゃんとカメラマンとして接してもらえるようになった。 そんなわけで、「ヘタレ賛歌」ともいうべき13冊目の本が、こうして世に出ることになったのである。
昆虫の写真を撮影し、図鑑や書籍制作にあたって貸し出すことを生業とする昆虫カメラマン。 本書はそんな世界とサラリーマンの二足のわらじで奮闘する、兼業カメラマンによる昆虫エッセイです。 徹夜で見守っても産卵しない昆虫と迫る出勤時間、季節限定・撮影方法不明な昆虫の捜索など、 いきものを相手にする仕事に苦労は耐えません。 それでも、昆虫の魅力をたくさんの子どもたちに伝えるため、 著者は解決法を編み出して困難を乗り越え、写真を撮り続けます。 夏休み中の昆虫少年も、むかし昆虫少年だった大人たちも、 本書を読んで目線を変えれば近所の河原や散歩道で「ワクワク」が見つかること間違いなし。 ポジティブで粘り強くて、ちょっとヘタレな著者が体験した、虫と人の賑やかな日々をお楽しみください。