| 中澤まゆみ[著] 1,800円+税 四六判並製 288頁 2020年6月刊行 ISBN978-4-8067-1600-6 制度改定にともない、最新情報・データを掲載した待望の第3版。 「退院難民」・「介護難民」にならないために、 安らかな看取りを受けるために、 本人と家族がこれだけは知っておきたい 在宅医療と在宅ケアと、そのお金 2016年の第2版刊行から4年。 その間、2021年度実施も含めると介護保険制度は2回、医療保険制度は1回変わった。 医療・介護費削減のなかで、「病院から在宅へ」の流れはさらに強まったが、 介護保険サービスの低下とヘルパー不足は進み、 在宅の暮らしを支えるのが難しくなっている。 そのなかで「最期まで在宅」を実現するには? 今回の改訂第3版では、医療・介護保険費用を新料金に変更。 さらに退院支援や認知症介護、治療・療養について患者・家族・医療従事者が事前に話し合う 「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」について大幅に加筆した。 |
中澤まゆみ(なかざわ・まゆみ)
1949 年長野県生まれ。雑誌編集者を経てフリーランスに。
人物インタビュー、ルポルタージュを書くかたわら、アジア、アフリカ、アメリカに取材。
『ユリ─日系二世NY ハーレムに生きる』(文藝春秋)などを出版した。
その後、自らの介護体験を契機に医療・介護・福祉・高齢者問題にテーマを移し、
『おひとりさまの「法律」』『男おひとりさま術』(ともに法研)、
『おひとりさまの終活─自分らしい老後と最後の準備』(三省堂)、
『おひとりさまの終(つい)の住みか』『おひとりさまの介護はじめ55 話』『人生100 年時代の医療・介護サバイバル』(以上、築地書館)などを出版。
今回は、在宅医療と介護の現場に入り、徹底した取材で本書を執筆。豊富な事例をもとに、本人と家族のニーズでガイドした。
第3版 はじめに
第1章 いま、なぜ「在宅」なのか
自宅で死ねなくなった日本人
「在宅医療」との出会い
国が進める「在宅」時代
「看取り」が中心ではなかった在宅医療
認知症の人のQOLを支える在宅医療……丸子さんの場合
生きるための在宅医療……麻子さんの場合
看取るための在宅医療……幾代さんの場合
コラム 昌子さんの意見
第2章 「在宅ケア」を実現するための準備
退院から在宅療養をスムーズにつなげる
突然、退院してほしいと言われて
退院後のことは入院直後から
「退院支援」へと動く病院
退院後の生活をどう支えるか
病気によって退院支援は変わる
リハビリが必要な人の自宅復帰支援
末期がんの人の自宅復帰支援
医療情報を病院からもらってくる
がんの相談はまず「がん診療連携拠点病院」で
緩和ケアについて知る
自宅での緩和ケア(在宅ホスピス)
認知症の人の自宅復帰は?
厚労省が方針転換した認知症ケア
地域で認知症をどう支えるか
認知症の人の退院支援
退院前に病院と話し合っておきたいこと
退院前に家族で考えておきたいこと
胃ろうを勧められたら
胃ろうはつける前に医師とよく相談を
退院後の行き先は、「転院?施設?それとも自宅?」
老人保健施設(老健)に入る
療養病床(医療型・介護型)介護療養院に入る
介護付き有料老人ホームに入る
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入る
コラム 勝さんの意見
第3章 在宅医療を始める
「在宅療養」を支えるネットワーク
春奈さんの帰還を支えたチーム
在宅医や訪問看護師をどう探す?
在宅医
在宅医療を支える在宅療養支援診療所
訪問診療医はどう選ぶ?
病院の医療と在宅医療のちがい
在宅医はどんなことをするのか
在宅医の訪問は月1回もOKに
患者と家族が病院に望むこと
訪問看護
訪問看護には主治医の「指示書」が必要
訪問看護は医療保険?介護保険?
訪問看護師はどんなことをするのか
訪問リハビリテーション
リハビリとは尊厳の回復
在宅リハビリはどんなことをやるのか
理学療法士の仕事を見る
廃用症候群を防ぐリハビリ
訪問リハビリを行う療法士たち
リハビリも退院後は基本的には介護保険
保険適用もできるマッサージや鍼とは?
訪問歯科医
「口腔ケア」の2つの目的
「食べられる口」は「生きられる口」
「食支援」はこんなふうに行う
訪問歯科医と「食支援」の利用料は?
訪問薬剤師
薬の専門家としての「在宅」への参加
コラム なぎささんの意見
第4章 介護保険を使いこなす
「介護」の準備、してますか?
まずは「要介護認定」の申請から
要介護度が認定されたら
本人仕様のケアプランとは
在宅療養を助ける介護サービス
訪問診療は在宅介護の基本
デイサービスとデイケアはどうちがう?
3つの機能をもつ小規模多機能型居宅介護
ショートステイを上手に使う
介護保険には24時間対応のサービスもある
介護保険以外のサービスも上手に利用する
在宅ケアのお金のストレスを減らす
医療が必要になったときのお金
医療費が高額になってしまう場合には?
在宅ケアでは公的支援を賢く使う
65歳未満でも公費で介護が受けられる
自立支援医療制度を利用する
医療費を軽減する基本は「高額療養費制度」
高額療養制度にもさらに裏ワザが
医療費と介護費を合算できる制度もある
医療費控除もこれだけ利用できる
コラム 真樹子さんのつぶやき
第5章 在宅ケアをスムーズに進めるために
家族の「介護力」と本人の「自分力」
在宅介護の最低条件は「食事」と「トイレ」
在宅ケアの6W2H
負担が集中しない「介護」とは?
福祉用具の力を引きだす相談員
介護保険で住宅環境を整えるには
寝たきりゼロへの10か条
「寝かせきりにしない」ための在宅ケア
褥そうはなぜできるのか
高齢者用の食事もさまざま
医療と介護をつなげる「連絡ノート」
「医療行為」ってどんなこと?
在宅で使われる医療機器
さまざまな栄養法と医療機器
コラム 侑子さんの意見
第6章 平穏な看取りを迎えるために
「平穏な最期」を望む時代
さまざまな在宅での「看取り」
病院での看取りになることも
在宅療養患者の8割は認知症?
認知症で大切なのは薬の整理と管理
認知症の人の最終章をどう支えるか
がんの看取り
がんのターミナルケアとは?
自宅看取りのこころがまえ
家族で一緒にエンゼルケアを
救急車を呼ばないで
おひとりさまでも「最期まで在宅」は可能か
最期の味方はホームホスピス?
事前指示を忘れずに
事前指示は具体的に
第1版 あとがき
付録 資料編
1.介護
介護サービスとその費用
居宅介護サービス
施設介護サービス
新しい総合事業(介護予防・日常支援総合事業)
介護保険外のサービス
介護にも「高額介護サービス費」がある
2.医療
医療費軽減のために利用できる制度
高額療養費制度
入院時食事療養費で、食事代が減額に
難病などの特定疾患には、医療費の助成が
福祉制度を利用して助成を受ける
障害者手帳を取る
自立支援医療制度を利用する
無料低額診療制度という制度も
3.医療と介護
高額医療・高額介護合算制度
4.在宅医療と診療報酬
訪問診療にかかるお金
訪問看護にかかるお金
訪問リハビリテーションにかかるお金
第3版2刷の補遺 新型コロナが、在宅ケアの現場に問いかけたこと
年明けには想像もしなかったことが、私たちの生活に起こっている。新型コロナウイルスによる、日常の大きな変化だ。日本では2020年1月中旬に最初の感染者が確認されて以来、感染者は急増。五月中旬現在で世界全体の感染者は400万人、日本でも1万5000人を超えた。
想像を超えた試練は、医療にも及んでいる。感染者の急増、院内感染、PCR検査がなかなか受けられない、薬もワクチンもないという「医療崩壊」をメディアは連日伝えているが、医療現場の医師は「通常の医療を病院ができない」ことのほうが、深刻な「医療崩壊」だと指摘する。
実際、救急医療のたらいまわしは、これまで以上に頻繁になった。新型コロナ患者の受け入れに追われる病院では、場所やスタッフをコロナ対策に取られてしまうため、脳卒中、心臓疾患、がんなどの通常の診療ができなくなりつつある。また、院内感染で外来、手術、病棟の一部を閉鎖したり、コロナ感染者受け入れのため病院機能を縮小し、手術等を断っている病院、スタッフ(看護師、非常勤専門医)がコロナを恐れて欠勤したり、退職したりしているため、機能縮小をせざるを得なくなった病院も増えている。
在宅医療の医師たちは、自分たちが施設や患者の自宅にコロナウイルスを持ち込むのではないか、と神経をすり減らして診療している。自分自身がコロナに感染したときには、気管挿管による人工呼吸器を使用しないなど、治療について伝える「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を作成した、という在宅医も少なくない。
実はこうしたことは医療にとどまらず、介護の現場でも起こっている。とりわけ大きな影響を受けているのが、デイサービスや訪問介護に代表される「在宅」だ。「通所介護」と呼ばれるデイサービスでは、感染リスクを恐れた事業者が休業に踏み切ったり、利用者がサービスを中止する動きが拡大した。
いっぽう、デイサービスの代わりとして役割が大きくなっている「訪問介護」では、感染を恐れる高齢のヘルパーや契約ヘルパーが休業し、事業所は人員不足に悩んでいる。軽度の利用者のサービスを断る事業所も少なくない。ヘルパーなどからの感染を恐れる家族がサービスの休止をすることも増えている。
在宅ケアの抱える大きな問題は「密室性」だ。ヘルパーや訪問看護師は狭い室内で利用者と向き合い、身体介護では利用者のからだに接触することも多い。訪問看護を含む介護の現場のスタッフは、自分が利用者に感染を運ぶかもしれない、利用者や家族から感染させられるかもしれないという状況のなかで、毎日のケアに足を運んでいる。
使い捨てマスク、使い捨てエプロン、消毒液等も入手困難な状況下で、感染疑いの利用者にかかわることに対し、ケアの現場からは大きな不安の声が出ている。利用者の食事や排泄、身体の清潔など日常生活を維持し、命と健康を守るための最後の砦ともいえる介護・福祉に対する国や行政のバックアップは、あまりにも貧弱だ。
しかし、こうした状況のなかでも、在宅ケアにかかわる人たちは、地域で暮らす要介護高齢者や障害者を感染から守り、生活を保つために最前線で努力している。
2016年の第2版から4年。その間、高齢者人口が増加し、医療・介護保険の財源が足りなくなったとして、国は見直しのたびに医療・介護費削減を強化してきた。入院期間はますます短縮、介護保険サービスは縮小され、利用者の自己負担は増えている。
介護保険が始まってから今年で二〇年。そのうちの一五年近く、介護と在宅医療の現場を歩いた。「病院から在宅へ」の流れと、それを支える「地域包括ケア」構築の掛け声のなかで、医療と介護の連携、地域医療連携の取り組みを進める自治体は増えた。
訪問診療をする医療機関も多くなったが、そのいっぽうで、医師が高齢化し、往診すらできなくなった地域も少なくない。ひとり暮らし高齢者と老々世帯などが増えるなか、介護保険サービスの低下とヘルパー不足で家族の介護負担・費用負担は増え、在宅での暮らしを支えることが難しくなった。介護の現場を知る人たちの間では「おうち(在宅)がだんだん遠くなる」という危機感がつのっている。
そんなさなかに今回のコロナ禍は起こった。今後、「最期まで在宅」は持続できるのかという疑問も聞こえてくる。しかし、日本が欧米のような深刻な状態にならなかった背景には、ケアの現場の努力とともに医療保険と介護保険の存在がある。今回のコロナ禍はこの制度をどう守っていくのかということを、私たち自身に問いかけている。
初版を2013年に出して以来、版を重ねてきたが、今回の改訂ではこの間の社会の変化にふれながら制度の変更を全面的に修正した。さらに、私自身が実際に患者家族としてかかわることになった「退院支援」と、友人の介護と母の介護を通じてより深まった「認知症の人のケア」について、大きく書き換えた。
新型コロナ禍は、「恐れ」というウイルスでも、不安や不信を人々に広めている。経済的な影響も懸念されるなか、介護を始めようとする人や、病気を抱えた人とその家族にとっては、さまざまな「知恵」と「希望」、そして人のつながり(ネットワーク)がこれまで以上に必要となってくる。本書がそれを考える一端となってくれれば嬉しい。
新型コロナが、在宅ケアの現場に問いかけたこと
新型コロナ禍に第2波の兆しが始まっている。今回のコロナ禍の第1波では、これまでなおざりにしてきた多くの問題が噴出した。
医療では感染症に対する認識の低さと対策の不足、社会では非正規労働者やひとり親家庭に対するセーフティネットの弱さと、日本社会の根源にある同調圧力など、数えるにいとまはないが、ダメージを受けているのはいずれも「弱者」だ。介護でも感染に対と利用者を支えるサービスの脆弱性があぶりだされ、そのいっぽうで高齢者の生活を支える介護保険サービスの重要さに、あらためて気づかされた人も多かった。
今年の1月16日、国内で初の「新型肺炎」感染者が報道された。その後、「新型コロナウイルス」がメディアで連日取り上げられるようになると、日本中は「コロナ」一色になった。ワイドショーの報道やフェイスブック(FB)の投稿を見聞きしながら気になったのは、洪水のような情報に振り回されている人が多いこと。そして、コロナ対策の最前線で働く医療者の努力や、「医療崩壊」については連日報道されているが、同じように最前線で働く介護従事者の現状が、ほとんど伝えられていないことだった。
新型コロナにかかわる情報整理をしながら、介護をめぐる状況をFBで発信するなか、3月末、在住の東京世田谷区で社会福祉法人のデイサービス職員が感染し、デイが閉鎖された。特別養護ホームもある法人全体が、風評被害にさらされているという。
世田谷区ではこの時期、44人の感染者が出ていた。そこで、私たちが運営する「ケアコミュニティ・せたカフェ」とつながりをもつ介護・看護・医療従事者、障害者相談員、介護家族、介護に関心のある区民など約30人と親しい家庭医に、FBのメッセンジャーグループで情報交換しようと呼びかけた。すると、区のホームページからは伝わってこない区内の詳しい感染情報と、自分たちがケアの現場で直面している現状について、悲鳴のような声がスレッドに続々と入ってきた。
介護事業所からは「保健所はパンク状態で連絡がつかない。感染疑いの利用者への対処に悩んでいる」「感染予防の物品が、圧倒的に足りない」……。ヘルパーからは「訪問介護は濃厚接触する仕事。感染を心配しながら、家から家へと回っている」……。
ケアマネジャーからは「デイサービスや訪問介護のサービス利用控えをする人が増えているが、利用者の体力や認知力の低下が心配」「家族が感染したり、独居や老々世帯で利用者が感染疑いになった場合、訪問介護だけでは支えきれない」……。
デイサービスの管理者からは「感染対策は徹底的にしている。しかし、デイは濃厚接触なので万全とはとても言えない。現在休んでいるのは家族が対応できる利用者だが、食事排泄入浴介護予防をデイに頼っている人は、デイが休止になると困るはず」……。
訪問看護師からは「距離を取れと言われても、体温も血圧も離れては測定できないし、2メートル離れたら難聴の患者さんには聞こえない」「褥瘡や摘便が多いので、『感染したくない』とスタッフが次々に休み、管理者が夜中までひとりで走り回っている」……。
家庭医からは「戦う相手は人ではなくウイルス、ということで70リットルのポリ袋とクリアファイルを大量に購入した。クリアファイルはフェイスシールド、ゴミ袋はガウンの代わり。使い捨てガウンはもうない」という声も届いた。この医師は、感染を疑った患者には自分でPCR検査をし、保健所に届けているという。
障害者相談員からは「知的障害者はマスクの使用が理解できないため、作業所から自宅に戻されることが多く、家族の負担が増えている」……、等々。
感染対策が手薄だった在宅ケア
4月初頭、世田谷区では病院での感染クラスターが次々と起こり、周辺区の施設でも感染が広がった。在宅介護をめぐる情報交換を毎日続けるうちに、「この声を何とか行政に届けたい」という思いが強くなった。実は私たちは「介護保険」の後退(要介護1・2の総合事情への移行)に反対する署名を全国から集め、2019年11月に厚労省、財務省、内閣府に提出している。FBの情報交換グループにはその有志メンバーが何人かいたため、「動きの鈍い国よりも、身近な世田谷区に要望を出すほうが、現場の声が早く伝わるのではないか」と提案し、さっそく要望書をつくるための議論をグループで開始した。
私自身が介護に実際にかかわり始めたことも大きかった。仕事が次々とキャンセルされ、時間ができたため、この際、昔取ったヘルパー2級の資格を生かしてコロナ下での介護の現場を見てみようと、4月から契約で訪問介護を開始していた。
最初に気がついたのが、訪問介護の現場での新型コロナウイルス感染対策の手薄さだった。採用された大手事業所から渡されたのは、研修テキストをコピーした実に簡単な「感染対策の基本」裏表1枚と、配布されたノロウイルス対策用キット(マスク、使い捨て手袋、ビニール前掛け)の説明書1枚のみ。友人の介護事業者に聞くと、感染対策に関しては各事業所の判断で行い、統一マニュアルはないという。
同じ介護事業所でも施設系にはきちんとした感染対策マニュアルがあるし、感染・非感染でスペースを区切るゾーニングもできる。しかし、玄関のドアを開けるとすぐ部屋に続く家庭に訪れることの多い訪問介護では、ゾーニングどころではない。しかも、訪問介護は利用者と1対1の「密」の状態で接するのが基本だ。「困っている人をそのままにはしておけない」という心優しい介護従事者のなかには、手製の防護服を着用し、発熱している利用者の支援に入ったヘルパーもいた。そこで現場からの声をもとにした手引きを私たち自身で作成し、それをもとに世田谷区に在宅介護従事者向け感染対策ガイドラインをつくるよう要望することにした。
介護の現場の声を「要望書」で自治体に届ける
コロナ下での在宅での医療・介護サービス利用者には、「感染のない人」「感染疑いの人」「感染した人」がいる。世田谷区(区長、高齢福祉部長、区議会議長)に宛てた「介護サービスにおける新型コロナウイルス対策に関する要望書」(以下:要望書)では、これを明確に分けながら、介護従事者が安心して介護を続け、利用者が確実に介護や医療を受けられる体制を整えることを要望の基本にした。
要望の具体的な内容は、@介護従事者の参加による世田谷区独自のガイドラインの早急な作成(案を資料として添付) A介護従事者、利用者、介護家族へのPCR検査など、介護従事者が安心して介護を続けるための体制づくりと、それを支える感染対応物品の安定した支給 B介護事業者とケアマネジャー専用電話相談窓口の設置 C利用者が感染疑いになった場合などのセーフティネットとして一時的な滞在場所の設置 D感染が確定した場合は在宅介護ではなく、入院など医療の管理下に置く、という5項目。
大型連休明けの5月12日、有志グループの代表4名が区長と高齢保健部長に「要望書」を手渡したあと、約1時間にわたって現場からの報告と要望を伝えた。面談の冒頭、保坂展人区長から「医療関係、施設関係とは連絡会を通じて情報交換をしているが、訪問介護に対しては声がけができず、申し訳なかった」と一言。そして、面談の最後には「皆さんから訪問介護の実情、一時滞在施設のこと、助成措置などについてお聞きした。世田谷区では院内、施設内、訪問での感染の防止についての対策と、予算と制度の組み立てを考えます。いただいた要望・提案をまとめ、区ではできないこともあるので、厚労省に出向きたいと思っています」との回答をもらった。
PCR検査については、提出の翌日からドライブスルーが始まるという報告とともに、介護従事者と利用者へのスムーズな検査体制をつくるとの回答があった。物品関連では翌日さっそく、希望する事業所への使い捨てガウンの支給が始まった。「介護関係者専用相談電話窓口」と「利用者の一時的滞在場所」の設置、「感染対応ガイドライン」の作成については、課題として持ち帰るとされたが、口頭で提言したウェブでの訪問介護事業者向けの「新型コロナウイルス感染対策研修」は、世田谷区人材育成研修センターが作成することになった。当初、消極的だった区独自の在宅介護用ガイドラインの作成についても、感染者の増加で前向きになってきた。「感染疑い」となった介護従事者と利用者へのPCR検査も、後日、無料となった。
5月29日には世田谷区の施設長会の代表とともに保坂区長に同行し、医師でもある自味はなこ厚生労働大臣政務官と面談し、国に宛てた「要望書」を提出しながら、現場の声を伝えた。
国や自治体へのこうした「要望」は、提出してそのままになることも多い。しかし、「#検察庁法改正案に抗議します」のツィートではないが、小さな声でもそれを集めてうねりにすることの大切さを、私たちはこのコロナ禍で学んだ。
コロナ下の「最期まで在宅」を探る
感染拡大時、デイサービスなど通所サービスと訪問介護の利用者は、感染を恐れて自主的に利用中止したり、事業所からの要請で平常のサービスを受けることができなかった。家に閉じこもることで、フレイルが進行し、認知機能が衰えた高齢者も少なくない。いまさらのように介護保険サービスの大切さを思い知らされた。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)についても考えさせられた。高齢者の医療のあり方について報道されるなか、友人のケアマネジャーは利用者からこう問い詰められたという。「あなた、最期まで自宅で暮らせるように、一緒に頑張りましょうって言ったじゃない。でも、感染すると病院に入れられ、誰にも会えずそこで死んじゃうんでしょ」と。新型コロナのような感染症にかかった場合、最期は家で迎えたいという本人の願望を、介護家族を含むケアする側はどうサポートできるのだろうか。
わが家では、医療系の施設に入所していた父に2月から面会ができなくなり、そのまま会えずに4月16日、父は誤嚥性肺炎で亡くなった。「最期まで在宅」は無理でも、せめて「医療の場」ではなく特養など「生活の場」へと移したいと考えていたが、かなえることはできなかったのが、心残りだ。
「生活の場」である「在宅」では、医療・介護の専門職は本人と「密」な関係を保つことがよしとされていた。しかし、このコロナ下で在宅ケアは「リモート」や「ディスタンス」を取り入れる方向を突きつけられている。
コロナ禍下の東京新宿で訪問診療を行ってきた英祐雄医師に在宅の現場で浮かび上がった課題を聞くと、「患者との対面の頻度を減らす、セルフケアのできる人には遠隔でそれを支えるなど、ケアの濃淡の必要性と、チームに対する配慮です。在宅では訪問看護・介護も守らなければいけないから」という答えが返ってきた。
第1波の教訓をどう生かし、「最期まで在宅」にどうつなげていけるのか。今回、発揮することができなかった「医療と介護の連携」の立て直しも含め、早急に考えていく必要がある。