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家族がガンにかかったとき

【書評再録】


●朝日新聞「天声人語」(1993年2月6日)=告知をしない場合、診断がくだった時から患者は知る権利を失う。嘘の病名に頼った信頼関係は、きびしい終末期に崩壊してしまうこともある▼真実を告げられた患者は、一時は悩んでも、人間の精神力は強く、やがて立ち直る。治療法の選択に参加できるし、家族とも相談してその後の生き方を決められる、と笹子さんは指摘する▼ただし、こんな利点を生かすには、医師が患者の身になって最善を尽くすのが前提だ。笹子さんも「告知すれば、従来より以上の配慮と時間がいる」と認める。医療のあり方も問い直されている▼笹子さんの主張に共鳴した東京・築地の出版社社長、土井庄一郎さんの勧めで本の原稿ができたころ、土井さんが吐血した。胃がんだった。笹子さんが本人や家族にくわしく説明し、手術した▼笹子さんは著書に「最初の読者が、内容を検証してくれた」と書いた。仕事にもどった67歳の土井さんは「ガンよりも、不景気を理由に銀行が融資をしぶる方が気になって」と笑う。なるほど、とうなずきながら、人間の持つ強さを教えられた。

●朝日新聞評(1992年12月9日)=1987年以降、笹子さんは受け持った患者約300人の99%に告げているという。患者112人のアンケートでもその方針は広い指示を受けている。告知の意味やがんを考えさせる。

読売新聞「家庭欄」(1993年9月1日)=「家族がガンにかかったとき」。築地書館社長の土井庄一郎さんがこの本を出版したきっかけは、約2年半前に見たガン告知を扱ったテレビ番組だった。余命を告知された患者が「あと2年半も生きられる」と明るくインタビューに答えていた。
「がん告知は死刑の宣告」。そう考えていただけに戸惑うとともに、持ち前の編集者魂が頭を持ち上げてきた。「告知のことをもっと知りたい」。番組のもう一方の主人公である国立がんセンターの笹子三津留・外科医長を訪ね、原稿の執筆を依頼した。
この時は、まさか自分が、がん告知を受けるとは思いもしなかった。
平成4年7月。土井さんは自宅で吐血。手術で胃の5分の4を切除。術後、家族や看護婦と話していても、「うそがない」と思うとうれしかったし、治療やその後の経過が事前に受けた説明通り進むのも納得できた。
土井さんはリンパ節に転移のない早期がんだったが、再発の場合でも告知を望むという。「人間は思いのほか強いようです」。自ら告知を体験した実感でもある。


●信濃毎日新聞評(1992年11月15日)=意義のある死に方を迎えるための貴重な最後の時間を無にさせることがあってはならないと身にしみて感じさせる本である。

●東京新聞評(1993年1月13日)=4人に1人ががんで死ぬ時代。患者本人に「がんです」と告げるべきか。家族にも医師にも大きな問題だ。
著者は国立がんセンター病院の外科医長で、父親をがんで亡くした。自らの体験をもとに、嘘をつくことで起きる悲劇を紹介。末期には結局、患者にもわかって孤独感に苦しみ、家族にも悔いを残すと指摘する。

●世界「起承転転」欄(1993年1月号)=義理の父がガンになった。
義父は、築地にある小さな出版社の社長である。何とその時、ガン告知の本を作っている最中だった。
診断がついた時点で、必ず本人に告知をし、しかも再発の可能性、余命はあと何ヶ月ということまで、自分のポリシーで伝える医者の話だ。身近な問題として多くの人に知らせたい、どうしてもその人の本が作りたいと、診療に手一杯で時間がないというのを自ら説得し、原稿もほぼ終わりに近づいていたころだった。
最初のころ私たちも、会社の代表である義父がガンであることを公にするのは、社会的にマイナスなのではないか、とも考えた。でも手術で入院する前、友人や社員にも、ガンであることを告げた。
もし本人にガン告知の意識がなく、家族だけが知らされていたら、と思うとぞっとする。結果はよくても、胃潰瘍だと嘘をつき、その後も嘘をつき続け、ひそひそと知っている者どうしが話し、何でもオープンにし話し合う、これまでの楽しい人間関係はなくなっていただろう。
今、日本人の4人に1人がガンで死ぬ時代に入っている。私のまわりも、聞いてみると、ガンにかかったという人は、意外に多い。
ガン=死、というイメージは強い。でも、いちばん大切なのは、自分で自分の生き方を選択できることだ。ガン患者にだけ真実を知らせず、嘘の上に嘘を塗り固めていくのは、どこかガン患者に対する差別ではないか、という気がしてくる。

●モダンメディシン評(1993年2月号)=国立がんセンターの外科医長である著者の、ガン医療の第一線での経験と思索が、カリスマ的雰囲気はみじんもなく、実にけれん味なく展開され、穏やかな筆致の中に迫力がにじむ。
医療現場で迷っている医師や看護婦に「ガン告知」についての実際的なノウハウも教えてくれる。「どう考えても、本当のことを告げるのが最良の態度だ」という著者の主張は明快で力強い。医療従事者だけでなく、あらゆる人々にお勧めしたい良書である。

●月刊ナーシング評(1993年4月号)=ガン患者とその家族のケアのあり方についての実践的基盤となる本。日本において、ひいては世界的にも、そんな確信をもたせる内容があった。ガン治療における高度先進医療実践のトップランナー・現役の40代初めの若い外科医が書いた本である。
多くの医師たちへ、ガンの高度先進医療における第一人者としても著名な著者の真摯な意見、治療者としての哲学が広く伝わっていくことを願いたい。
また看護婦たちへは、ガン看護というものを、臨床の現場でなにができているのか、なにをすべきか、それこそ真摯に見つめ直していただきたい。
そして患者さんとそのご家族には、自分自身の人生を限りあるからこそ大切に生きることの本当の意味を、ガンと闘うための正しい知識と勇気を得ていただきたい。

●ナーシング・トゥデイ評(1993年5月号)=7年間の告知の体験を通して、告知されないことが患者、家族にどれほどの苦痛を与えるかを考える。医者になって17年の著者は、はじめの10年間は問題を正視せずに逃げていたと反省、告知が患者にとっては生き方の問題であり、医者にとっては倫理の問題、家族や関係者にとっては人間性の問題ととらえ、人間らしく死ぬことにこだわる。

●毎日ライフ評(1993年2月号)=著者は、父を癌で亡くした体験のある国立がんセンター病院外科医長。原則として、癌が判明した段階で初めに本人と家族にはっきり宣告している。理由は、本人に告知しない場合は、嘘の上塗りには限界があり、終末期が近づくと治療や病気の予後を納得しなくなる。その段階で自分は癌だと知るのと、最初から癌だと知って、自分で選択しながら治療をしてきたのとでは、終末期の迎え方はまるで違ってくる。
癌を告げられた時のショックは、患者が気が強いか弱いかの問題ではなく、告げ方の方法の問題である。しっかりした手順で接近すれば、ショックも少なく立ち直るのも早い。終末期に告知するから、死の宣告になるのだ。最近は癌の治療も生命・生活の質へと移り、根治療法よりも痛みの克服などに傾斜してきているのだから、という。

●JAMIC JOURNAL評(1993年4月号)=著者は、父親のガンによる死を機にガン告知に踏み切ったという。以来、消化器ガンの専門家として、多くの患者に告知を行ってきた著者が、患者の心理的側面をガン患者の家族にわかりやすく解説したのが本書である。ガン告知の目的は2つある。1つはインフォームド・コンセントの一部として、患者が自ら治療を選択するということ。もう1つは告知後の生き方を決める契機とすることである。いずれも治療の中心が患者自身であることを再認識させるものだ。患者の生命、及び死生観は、患者自身のものであり、家族といえども奪う権利はないと著者は主張する。
本書で著者が尊重しているのは、患者の人権と、患者・医者・家族の信頼関係である。患者の立場に立って医療を考える、という医者の基本姿勢を貫いている著者から学ぶことがたくさんあるのではないだろうか。医療に携わる者にとっては、一読の価値のある一冊だといえる。患者に対する「愛」を再確認できるかもしれない。

●日本農業新聞評(1992年11月18日)=病気が最初に分かった時、本当のことを言うか、言わないか。対応の誤りが患者や家族、医者の精神的苦悩を倍加する。患者や家族の側からどのように考えたらいいのか、「これだけは知ってほしい」という心得帳。

●からだの科学評(1993年11月号)=医師によるガン告知と患者の「受容」、それを出発点とした患者・家族・医療従事者によるガンとの闘いが、実地の医療現場における生々しい体験に即して、精神的・内面的側面への掘り下げまで含め、淡々とザッハリッヒに、しかし内容においてはきわめて感動的に語られ、目を開かれる思いがする。
大上段に振りかぶった議論から出発するのではなく、各検査の意義と必要性、その結果を患者に説明するところから順を追って進め、「死生観」の問題に至るまでを具体的手順の積み重ねを通じて明快に説く著者の親しみやすい語り口が、読者に大きな感銘と確信を与えてくれる。

●新聞展望評(1993年6月25日)=ガン治療者としての現場の実態を取り上げ、家族がガンと言われたときどうするか、ガンの告示は是か非かを問いながら、医者と家族、患者との関わりを解き明かす。ガンは不治の病気とされ、ガンがもたらす不安と恐怖ははかり知れない。知らせたくない家族の苦しみや、知らせなかったために残る悔悟、間に立つ医者の立場を、三者三様の生死観を述べながら医療制度を問う。
巻頭には、家族の悔悟例をあげ、巻末には「告示を受けた患者と家族」のアンケート調査があり、ガンに対する心得帖ともなっている。

●文化連情報評(1994年2月号)=国立がんセンター中央病院の外科医長という立場から、告知の問題を患者の人権という視点でとらえ、患者や家族とともにどうガンに立ち向かっていくかを説く。
本書は、著者自身の考え方の記録であり、それは患者に対するアンケート調査がその支えになっている。告知の問題やQOLについて様々に言われるようになって久しい。各種の世論調査でも告知を希望する人が増えている今日、一度目を通しておきたい一冊である。

●女性セブン評(1993年3月4日号)=医療の現場から示された、人の生について考えるための、目をそむけることが許されない提言がこめられています。

●月刊さんさん(朝日生命生活情報誌)評(1993年5月号)=国民の4人に1人がガンで亡くなる時代に「ガン告知」をめぐる問題に真正面から取り組んでいる自らの体験を、率直に語っている。
ガンという病気の実態。ガン告知はいつ、どのようになされるのか。その告知を患者はどのように受け止めるのか。嘘が、患者や家族をどれほど苦しめているか。勇気をもって真実を伝えることが、いかに人間的であるか……。実践を通じて語られる言葉には、緊迫感と説得力がある。
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