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日本の西洋医学の生い立ち
南蛮人渡来から明治維新まで

【内容紹介】●本書「序章」より抜粋


 西洋医学の祖というと、洋の東西を問わず、紀元前400年代にギリシア、コス島を中心に活躍したヒポクラテスにまで遡る。健康と病気を自然の現象として科学的に観察し、医術を魔法から引き離した人物、経験科学の生みの親といわれている。その後、ギリシア、ローマの衰退、アラブの興隆で、西洋医学の流れは一時アラビアで受け止められ、保護され、その影響を受ける。十字軍の遠征で再びヨーロッパの地に持ち帰られて後、ルネッサンスの到来とともに、近代医学への衣更えがスタートする。レオナルド・ダ・ヴィンチが精妙な人体の内部構造を絵に描いているが、まだ心臓や血液の循環の生理は理解されていなかった。
 近代医学はつい400年前、近代の臨床医学は200年前に誕生したものである。ルネッサンス、大航海時代に始まる自然科学への人類の知見の拡大、その実用化に促された産業革命の進展、拡散と、各時代におけるヨーロッパ世界の動きが、西洋医学の発展に時に色濃く、時に重々しく影響を与えてきた。
 わが国へ、西洋医学はどのように流入し展開してきたのであろうか。過去500年の歴史は、このルネッサンス、大航海時代以降の西洋史の動きと全く無縁というものではない。もちろん鎖国という日本の社会の動きの影響を強烈に受けた。長崎の出島という狭い狭い窓を通して細々とではあるが、しかし確かに西洋医学の近代化の情報を受け止めながら展開してきた。その生い立ちは極めて興味深い。
 どのように西洋医学がわが国に取り入れられ、育ってきたか、歴史的事象に加え、それぞれの時代において政治や社会のあり方に影響されながらの、その道程を私なりに要約し、わかりやすくまとめてみようというのが、この本を企画した筆者の意図である。医学、医療の分野で仕事をしている人は言うまでもないが、これから医学の世界に進もうと志を立てている若い諸君、さらには医師に自分の健康を相談し、医院、病院を訪ねて医療を求める一般の人びとも読者にと考えた。医学、医療をごく身近なものとして受け止め、医師と患者の間の好ましい関係を作り上げるためにも、わが国での西洋医学の生い立ちについて、もっともっと理解しておいてよいのではないだろうか。
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