| 熊崎実・速水亨・石崎涼子[編著] 2,400円+税 四六判並製 328頁 2019年6月刊行 ISBN978-4-8067-1583-2 これからの林業をどう未来に繋げていくか。 林業に携わる若者たちに林業の魅力を伝え、やりがいを感じてもらうにはどうしたらいいのか。 林業に携わることに夢と誇りを持ってもらいたい。 欧米海外の実情にも詳しい森林・林業研究者と林業家、自治体で活躍するフォレスターが それぞれの現場で得た知見をもとに、 林業の未来について3年間にわたり熱い議論を交わした成果から生まれた一冊。 本書を推薦します。 これからの日本の森を動かす 知恵が詰まった本だ 増田寛也(元総務相・前岩手県知事) |
速水 亨(はやみ・とおる)序章、編者
1953年生まれ。速水林業代表、(株)森林再生システム代表取締役。
慶應義塾大学法学部卒業後、東京大学農学部林学科研究生を経て、家業の林業に従事。2000年に日本で初のFSC認証を取得し、環境保全型林業経営で知られる日本林業のトップランナー。妻(速水紫乃)と夫婦連名で第57回農林水産祭天皇杯受賞(2018年度)。
久保山裕史(くぼやま・ひろふみ)第1章
1966年生まれ。国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 林業経営・政策研究領域長。博士(農学)。
東京大学大学院農学系研究科修了後、農林水産省森林総合研究所に勤務。気象災害が林業経営に及ぼすリスク評価や国内外の木材流通、木質バイオマスエネルギー利用に関する研究を行っている。
堀 靖人(ほり・やすと)第2章
1960年生まれ。国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 研究コーディネーター。博士(農学)。
九州大学農学部林学科卒業後、農林水産省林業試験場(現・森林総合研究所)に勤務。林業をとおして森林を守ってきた人々に寄り添えればという気持ちで、林業の担い手の実態調査をもとに担い手対策・制度に関する研究を行っている。
平野悠一郎(ひらの・ゆういちろう)第3章
1977年生まれ。国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 林業経営・政策研究領域林業動向解析研究室主任研究員。博士(学術)。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了後、森林総合研究所に勤務。中国、アメリカ、日本等の森林政策、および森林の多面的価値の最大化と調整を促す制度的基盤について研究している。
小野泰宏(おの・やすひろ)第3章
東京大学大学院工学系研究科博士課程(技術経営)。ハーバード大学大学院修士課程修了(公共政策)。
三菱商事株式会社を経て、株式会社ゆうちょ銀行へ移籍。現在世界最大規模のグローバル・インフラ投資プログラムの投資責任者を務める。
大塚生美(おおつか・いくみ)第3章
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 東北支所主任研究員。博士(農学)。
財団法人林業経済研究所を経て現職。日本大学生物資源科学部、富士大学経済学部、宇都宮大学農学部非常勤講師。私有林経営、森林投資・信託、林業構造の解明がテーマ。
石崎涼子(いしざき・りょうこ)第4章、編者
1974年生まれ。国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 企画部研究企画科企画室長。博士(学術)。
筑波大学生物資源学類卒業後、農林水産省森林総合研究所に勤務。日本とドイツ等との比較を軸に、森林の管理に関わる人や制度、仕組みについて研究している。
中村幹広(なかむら・みきひろ)第5章
1970年生まれ。岐阜県 林政部 森林整備課 技術課長補佐兼係長。
三重大学生物資源学部生物資源学科卒業後、岐阜県庁に奉職。現地機関、本庁林政部および企画部、岐阜県森林研究所、岐阜県立森林文化アカデミー、飛騨市役所(出向)を経て現職。木材生産体制の強化や中欧諸国との海外連携、産学官連携コンソーシアムなど様々なスタートアッププロジェクトに携わる。岐阜県フォレスター協会事務局長。
鈴木春彦(すずき・はるひこ)第6章
1974年生まれ。愛知県豊田市 産業部農林振興室森林課 担当長。修士(農学)。
北海道大学農学研究院修士課程(森林政策学)を修了後、北海道標津町林政担当を経て、2012年から愛知県豊田市森林課に勤務。森林専門職として市町村林政に携わり、仕事のモットーは「地域特性に応じた森林政策」「実務と科学の融合」「歴史性の探求」。技術士(森林部門)。地域森林総合監理士。
横井秀一(よこい・しゅういち)第7章
1960年生まれ。岐阜県立森林文化アカデミー教授。博士(農学)。
千葉大学大学院園芸学研究科修了後、岐阜県に勤務。岐阜県寒冷地林業試験場、岐阜県森林研究所を経て現職。森林施業(特に広葉樹林の育成や高齢化する針葉樹人工林の取り扱い)に関する研究に取り組み、現在はこの分野での教育・研修に力を入れている。
正木 隆(まさき・たかし)第8章
1964年生まれ。国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 企画部研究企画科長。博士(農学)。
東京大学大学院農学系研究科で博士号を取得後、1993年に森林総合研究所東北支所に採用。2003〜04年の霞が関勤務を経て、2005年からつくば勤務。専門は森林生態学。准フォレスター研修、森林施業プランナー研修、株式会社森林再生システム主催林業塾などで講師を務める。
熊崎  実(くまざき・みのる)終章、編者
1935年生まれ。一般社団法人日本木質バイオマスエネルギー協会および日本木質ペレット協会顧問、筑波大学名誉教授。農学博士。
三重大学農学部卒業後、農林水産省林業試験場(現・森林総合研究所)に勤務。林業試験場林業経営部長、筑波大学農林学系教授、岐阜県立森林文化アカデミー学長を歴任。専門分野は、国際森林資源論、木質バイオマスのエネルギー利用。日本林学会「林学賞」受賞(1981年)、第27回「みどりの文化賞」受賞(2017年)。
序 章 豊かな森林経営を未来に引き継ぐ―林業家からの発信(速水 亨)
林業は楽しいが、森林の経営は……
「国産材時代」における森林所有者の現実
導入した機械を活かすための新たなシステムづくり
政府による木材生産推進策の功罪
知恵と努力で丸太を高く売る
細い丸太が牡蠣や真珠を育てる
連携から生まれるコストダウン
将来に禍根を残さない合理化を
現場に技術力と知識、経験を備えた技術者を
環境配慮を前提とした林業をつくる
環境に配慮した林業を支えるのは消費者
面白さを実感できる豊かな森林経営へ
第1章 オーストリアとの比較から見た日本林業の可能性(久保山裕史)
日本に大量輸入されている欧州製材品
高い競争力を持つ製材生産
活発な丸太生産と資源制約
効率的な丸太の生産・流通
低コストな林業経営
農業会議所と林業組合連合会
日本林業の可能性
第2章 小規模な林業経営と大規模な需要を繋ぐドイツの木材共同販売組織(堀 靖人)
明暗が分かれたドイツと日本の林業
ドイツの森林資源の保続
ドイツの製材業の構造変化
製材工場の大規模化への山側の対応
ドイツとの比較で考える日本林業の可能性
第3章 森を有効に活かすアメリカの投資経営とフォレスターの役割(平野悠一郎・小野泰宏・大塚生美)
多様なニーズを反映するアメリカの私有林経営
森林投資型経営の発展がもたらす森林の有効活用
各種のフォレスターの果たす持続的な森林の有効活用に向けての役割
森林の多様な恵みを引き出す仕組み
第4章 ドイツの森林官が持つ専門性と政府の役割(石崎涼子)
ドイツの森林官とは何者か
統一森林署方式の歴史を持つバーデン・ヴュルテンベルク(BW)州
経営経験を持つ地域密着型の森林官
森林官の教育的なバックグラウンド
技術の標準化を重視する立場から見た批判
独りよがりな判断の暴走を避ける仕掛け
森林行政を担う組織の独立性の解体
専門性の強化vs広い視点の融合
森林の専門家はどこにいるのか
連邦カルテル庁による「統一」行政批判
森林官が担ってきた経営支援的な業務の分離
BW州の経験から何が学べるか
第5章 政策と現場を繋ぐ自治体フォレスターの可能性(中村幹広)
フォレスターとして政策のフロンティアへ
徐々に薄れていく技術職員としての存在感
都道府県庁は実践するシンクタンク
都道府県庁がなすべきこととは
林業大学校の存在意義とは
民間フォレスター養成の必要性
市町村における林務行政のリアル
林業の成長産業化とは広葉樹のまちづくり
新たな木づかい文化の胎動
地域に寄り添った賢いやり方
1000q以上も離れた自治体同士の連携
個の可能性を活かしてイノベーションを
第6章 市町村フォレスターの挑戦(鈴木春彦)
北海道の海辺の町へ
市町村フォレスターの仕事
河畔林の保護に乗り出す
普通林という名の空洞
伐採届出制度を使った河畔林保護
伐採業者の戸惑い
地域を大切にする町民の想い
現場確認がポイント
石の上にも三年
豊田市での再出発
ドイツ・スイスへの旅
岐阜県立森林文化アカデミーとの出会い
独自の森林施業プランナー育成研修
研修編成のポイント
市町村を横に繋ぐ
大学へのPR活動
可能性は地域にある
第7章 多様な森林経営を実現させるための技術者育成(横井秀一)
森林の底力を引き出すのは経営と施業の多様化
経営・施業の多様化を阻む要因
真の林業技術者を育てる教育が必要
大学―広い視野と高度な専門知識を持つ技術者の育成
林業大学校―エビデンスに基づく判断ができる技術者の育成
社会人研修―目標に合わせたプログラムによる技術者のスキルアップ
人材に対する意識の変革で林業の成熟産業化を
第8章 科学に裏付けられた森づくり(正木 隆)
1年間に数千件
研究成果は届いているか?
研究成果を届けるためには?
主伐と略奪は紙一重である
森林の成長のパターン
理論で迫る
収穫に最も適した齢がある?
具体的なデータで迫る
長期間のデータで迫る
結局、成果は届いていなかった
ガラパゴス複層林
PDCA→PD→D
イノベーションはデータの海から生まれる
研究者はスーパーマーケットの店員である
終 章 新しい「木の時代」がやってくる(熊崎 実)
国の政策がもたらした林業経営の苦境
研究者の役割と責任
海外から国内林業を見る
歴史家ラートカウが予見する「木のルネサンス」
林業・林産業の技術革新と人工林材時代の到来
合衆国南部における育林技術の驚嘆すべき発展
存立基盤を失った日本の在来的な人工林経営
持続可能な社会に向けて動き出す国際社会
エコロジーの時代に不安定化した世界の林業経営
地域林業の復活と木材クラスターの形成
中山間地におけるエネルギー自立
「緑の大連合」構想とチャック・リーヴェルのこと
チャック・リーヴェルの提案―信頼に足る認証システムの確立
日本の課題
あとがき(石崎涼子)
索引
著者略歴
林業は世代を繋ぐ生業である。今ある森林には過去の人々と森との関わりが映し出されており、現在の私たちが森とどう関わっていくかが未来の森を形づくっていく。
本書の編者は3名いるが、それぞれ大凡20年ずつ年齢が離れている。熊崎が林業経営の研究を始めた1950年代後半の日本は、異常なほどの木材景気に沸いていたという。「世界に冠たる日本林業」とも言われ、自信と誇りに満ちた時代だったようだ。そんな林業の賑わいを間近で見て育った速水が家業の林業を継いだのは1970年代半ば。地元三重県尾鷲の林業の輝きが頂点に達する頃だったというが、その後、日本の林業は下り坂に転じてしまう。筆者(石崎)が林業について学び始めた1990年代半ばは日本林業の苦境も定着して久しく、かつて左団扇の森林所有者がいたことなど伝説としてしか知らない。これが40年間という、森から見るとほんのひとときの間に起こった変貌である。
熊崎は、1989年に著書『林業経営読本』(日本林業調査会)で「嘆き節はもうやめよう」と記している。古き良き時代の思い出に引きずられ、現状を嘆くばかりで新しい展開の可能性を真剣に追求しようとしない林業関係者に対するエールであった。大学でこの本をテキストに熊崎から林業経営学を学んだ筆者は、「新しい展開の可能性の追求」の一端を担うことを夢見て研究の世界に飛び込んだ。あれから四半世紀が経とうとする現在、かつては名を馳せた林業家が一人また一人と山を手放している。もはや「嘆き節」さえ届かない。代わりに、「悪いのはアレだ」といった犯人探しや罵り、ダメだダメだという不満ばかりを聞き続けた四半世紀だったように思う。正直、もうたくさんだ。そろそろ未来に目を向けたい。確かにダメなところもある等身大の私たちがこの先どんな未来をつくっていけるのか、子供たちやそのまた子供たちへ何を引き継いでいけるのかを議論したい。『森林未来会議』というタイトルに込めたのはそんな想いである。
本書は3年前に熊崎と速水の呼びかけで始められた研究会「持続可能な社会構築のための林業イノベーション研究会(FIRG)」での議論をベースに企画・編集したものである。この研究会が始まったきっかけは、森林総合研究所の研究者数名が大学の研究者等と共に執筆した一冊の書籍であった(岡裕泰・石崎涼子編著『森林経営をめぐる組織イノベーション:諸外国の動きと日本』広報ブレイス、2015年)。日本の外に目を向けると、森林経営やそれを支える仕組みのあり方が市場や政策、環境保全など様々な側面から変革を求められドラスティックに変容している国々がある。そうした諸外国の経験から日本が学べることを探る共同研究の成果をとりまとめた書籍であった。
だが熊崎から見ると、かつての職場である森林総合研究所の後輩たちによる研究やその成果の発信の仕方の拙さが歯がゆかったのだろう。こんな研究者向けの本では現場の人たちに届かない。こうした研究者の知見と実際の現場での実践から得られた知見とをぶつけ合って、国際的な視野をもって日本の林業の問題を議論し、その成果を森林や林業に関心を持つ幅広い人々へ向けて読みやすい形で発信するべきだ。速水と一緒にそのための研究会をやろうじゃないか、と声掛けをいただいたのが2015年の暮れのこと。早速、年明け早々に始められた研究会は、当初一年間を予定していたが、参加者はどんどん増え議論が盛り上がり、あっという間に3年の月日が流れてしまった。
この研究会には、研究者だけでなく、行政に携わる人々や教育に関わる人々、学ぶ人、森林経営に関わる人など様々な立場の者が参加し、立場を超え世代を超えた議論が交わされてきた。研究会の事務局を担当した筆者が最も苦労したのは、議論を止めるタイミングであった。毎回議論は盛り上がり、当初示した定刻が迫っても一向に収まる気配はない。毎回心苦しさを感じながらも、熱気溢れる議論に区切りをつけなくてはいけなかった。
多岐にわたる議論の中でも特に印象深かったのは、研究会が立ち上がって間もない頃、当時大学院生だった女性が投げかけた問いであった。
「今、林業に携わる若い人たちが林業の魅力や面白さを感じることができないのはなぜでしょうか?」
昨今、林業や山村での暮らしに魅力を感じて林業の世界に飛び込む若者が増えている。そんな若者が実際に携わった時に「大変だけど、やりがいがある」と実感できる仕事にしていくためにはどうしたら良いのだろうか。
速水は序章において、自らの様々な経験を紹介しながら、視野を広げ工夫を凝らせば見えてくる道もあることを示し、森林がつくる未来を共に考えようと呼びかけている。後に続く8つの章は、速水の発信を受けて、それぞれの著者が自らの調査結果や経験を踏まえて考えたことを論じたものとなっている。
久保山(第1章)、堀(第2章)、平野ら(第3章)の章では、2015年に執筆した論文の議論をブラッシュアップして、諸外国の森林経営をめぐる動きが日本に与える示唆を論じている。そこから明らかになることの一つは、フォレスターと呼ばれる人材の重要性である。
続く石崎(第4章)、中村(第5章)、鈴木(第6章)の章では、ドイツ等の森林官と日本の地方自治体のフォレスターの実情について検討している。そして横井(第7章)と正木(第8章)の章では、科学的な知見やそれに基づく技術を現場で実践する人々へどのように届けていくかを教育者と研究者それぞれの視点から探っている。最後の熊崎による終章では、再び全体を俯瞰しながら、さらに自身が集めたデータや文献に基づく知見を論じた上で、アメリカのミュージシャンであり林業家でもあるチャック・リーヴェルの提言を引用して本書を締めくくっている。
各章の議論には、執筆者により見解が異なる点もある。違う意見、異なる視点の存在も認め、尊重するという方針は、この研究会の特色の一つでもある。だが、林業に携わることに夢と誇りを持てる世にしていきたい。その想いは、執筆者全員が共有してきた。
全国各地から有志の仲間が集って議論を重ね、その成果を書籍という形で刊行することができたのは、NPO法人22世紀やま・もり再生ネットの御支援によるところが大きい。心より感謝申し上げたい。また、毎回白熱する議論を丁寧に文章におこし議事録を作成いただいた小坂香織さん、岡田(浅井)美香さんの協力も研究会での議論を有意義なものとするのに欠かせなかった。研究会の趣旨に賛同いただき、遠路も厭わず御参加いただいた研究会参加者の皆さんとの熱い議論がなければ、本書をまとめることができなかったのは言うまでもない。本書に記すことができたのは、研究会で交わされた議論の極一部である。可能であれば全ての意見や論点を本書に盛り込みたかったが、残念ながらそれは叶わなかった。
本書の議論には、不十分な点や至らない点も多々あるだろう。御批判もあるかもしれない。それでもなお、どんな形であれ本書が森林の未来を考える議論が広がるきっかけになればと願っている。
私たちが未来へ何を繋いでいけるのか。
森林未来会議、共に始めてみませんか。
2019年2月 石崎涼子