![]() | リズ・ウォーカー[著] 三輪妙子[訳] 2,400円+税 A5判並製 264頁 2017年8月刊行 ISBN978-4-8067-1544-3 なぜニューヨーク州の小さな街は、 世界で注目を集める環境先進都市に生まれ変わったのか。 ファーマーズ・マーケット、教育、ゴミゼロから省エネ住宅まで。 世界の注目を集める実験的コミュニティーで実践されてきたアイデアを 次々と事業化し、地域の中で経済がまわる。 誰もが医療を受けられ、より少ないエネルギーで豊かに暮らせる街―― ニューヨーク州にある人口3万人の自然豊かな小さな街イサカで、 住民たちが創り出している持続可能な暮らしを、 "エコビレッジ・イサカ"の創始者が具体的に紹介。 日本の地域社会創生のヒントがあふれている。 |
リズ・ウォーカー(Liz Walker)
1991年から、エコビレッジ・イサカの共同設立者、および代表理事として、企画段階から実現するまで献身的に活動してきた。エコビレッジは今では国際的に評価されている。『イサカ・エコビレッジ―持続可能文化の先駆け(EcoVillage at Ithaca : Pioneering a Sustainable Culture)』(New Society 2005年)で、エコビレッジや持続可能なコミュニティーという概念を、米国やほかの国の人々に広く紹介した。講演者としても、ワークショップのリーダーとしても幅広く活躍し、国内外のメディアでたびたびインタビューされている。また、世界中でワークショップを行っている「ガイア教育」というグループの創設メンバーでもある。第一の仕事は、エコビレッジを持続可能性の実践の場として発展させていくことだが、ニューヨーク州イサカ周辺の、ほかの持続可能運動でも活動している。イサカ大学とエコビレッジとの共同プログラム「環境教育連携」の創設メンバーでもあり、これが「持続可能トムキンズ郡」や「イサカ・カーシェア」を生み出す原動力にもなった。また「カユガ持続可能カウンシル」や「トムキンズ郡気候保護イニシアチブ」にもかかわっている。
現在、夫とともに、エコビレッジ・イサカで暮らしている。
2015年に完成した、適正な価格で、交通の便もよく、最前線のグリーンデザインをもつ、エコビレッジの三番目の共同住宅のプロジェクトにもかかわった。時間があるときには、自転車に乗り、ダンスやヨガをし、庭仕事や料理にも精を出す。満ち足り、バランスのとれた生活を送り、人生の美しさをいつも感じたいと思っている。
三輪妙子(みわ・たえこ)
東京生まれ。
1974年から1980年までカナダのバンクーバーで暮らし、エコロジーや女性の運動にかかわる。その後、日本にもどり、故高木仁三郎氏主宰の原子力資料情報室で英文ニュースなどを担当。約20年前からカナダの山奥の村に居を構え、日本と行ったり来たりする生活を続けながら、翻訳・通訳に携わる。10年ほど前から、竹・ヘンプなどの自然素材の服を販売するセレクトショップをこの村で経営している。
主な翻訳書に『メグさんの性教育読本』(木犀社)、『メグさんの女の子・男の子からだBOOK』『メグさんの男の子のからだとこころQ&A』『男の子を性被害から守る本』『プリンズン・ボーイズ』(築地書館)などがある。
日本の読者のみなさんへ
エコビレッジ・イサカの現在
序章 「もう一つの世界は可能だ」
新しい世界観
住むのに最適な街―ニューヨーク州イサカ
第1章 イサカの歴史―先住民族から学ぶこと
ツテロの民の記念の灯火を燃やす
偉大なる平和の法
条約が記された2列の貝殻ビーズのベルト
イロコイの米国政府への影響
イロコイ女性、19世紀のフェミニストを動かす
スリー・シスターズ農業
国連平和サミット
オノンダガとカユガの土地返却交渉
失われた故郷を取りもどす
第2章 食と農―地産地消のシステム作り
イサカのファーマーズ・マーケットがうまくいっている理由
地元のものを買う―グリーンスター生協
地域支援農業
すべての人に健康な食ベ物を
エコビレッジの地産地消活動
第3章 燃費のいい家―省エネ住宅と自然エネルギー
ソーラーの中心地
グリーン建築オープンハウス
エコビレッジ・イサカの共同ソーラー住宅
ビッグ・レッドがグリーンに
農村地域での実践―エネルギー自立した町
ブラックオーク風力発電
イサカ・グリーン建築協会
第4章 暮らしやすい街―賢い土地利用と新しい交通手段
ついに脱・自動車―自転車に乗る
カーシェアリング
土地利用の仕方と環境問題
……そして解決方法は? エコな街づくり
公共の交通機関があり、すべてが徒歩圏内の街
革新的な土地利用―イサカ・コモンズ
エコシティー・イサカの未来に向けた3つの展望
第5章 仕事―地域で仕事をつくり、経済がまわる
企業と起業家の環境ネットワーク
地域経済への移行
誰でも経済的に自立できる―オルタナティブ信用組合
地域通貨―イサカ・アワーズ
地元優先プロジェクト
すべての人に環境に配慮した仕事を
持続可能な労働力
第6章 学ぶ―持続可能な未来のための教育
イサカ大学とエコビレッジ・イサカの協働
コミュニティー全体で取り組む―持続可能トムキンズ郡
持続可能トムキンズ郡のさまざまなプロジェクト
エコビレッジ・イサカの持続可能教育センター
持続可能と社会正義をめざす―ニュールーツ高校
地域食材生産センター
そして、これ以外の取り組み
第7章 地域メディア―映画・演劇・ニュース・ラジオ・書店
フィンガーレイク環境映画祭
変化のための好機―ポジティブニュース
地元のニュースを知る―週刊トムキンズ
変革をめざす若者グループ―グリーンゲリラ
独立系メディアの功績を讃える―イジー賞
大学のラジオ局―あなたの影響力
第8章 地域医療―すべての人が健康で幸福になる方法
地域向けヘルスケアを提供する―イサカ健康組合
食と健康をつなぐ―全コミュニティー・プロジェクト
健康への取り組みを系統立てて調べる
タバコのないイサカ?
健康に関する地元の英雄たち
気持ちよく死んでいくこと
コミュニティーの健康度
第9章 自然の成り立ち―湖・森・川と天然ガス開発
天然ガス採掘による水質の汚染
さまざまなグループによる住民への働きかけ
運動を作っていく
流域からのアプローチ
森林をどう利用するか
自然保護区域―コーネル・プランテーション
カユガ湖岸の小道
森の街
私たちの自然遺産を守る
第10章 ゴミゼロ―ゴミを黄金に変える
エコビレッジでの、廃棄物への統合された取り組み
ゴミの都
ゴミを75パーセント減らす―トムキンズ郡の壮大な目標
黒い黄金―堆肥化する
小さいころから始める
都市と農村の栄養循環―鶏プロジェクト
学校でのゴミ減量―ゴー・グリーン・イニシアチブ
企業のゴミ減量―再生ビジネス・パートナーズ
フィンガーレイク再利用センター
環境にやさしい買い物
コーネル大学の「捨てて、去れ」セール
第11章 文化の変革―他地域とのつながり・自然葬・クリスマスギフト・裁縫
愛は境界がないことを知っている
若者たちが愛を歌う―ビタミンL
森に還る―自然葬
消費主義にかわるクリスマスギフト・フェア
裁縫は究極のエコ技術―ソウ(縫う)・グリーン
大切な心
第12章 お祭り―イサカのフェスティバルと芸術
イサカ・フェスティバル
科学と芸術の出会い―冬のフェスティバル
ハートの中の芸術
常設のすてきなもの
ハンガー・シアター―演劇
よい芸術は、よいビジネスになる
地元生まれの創造性
持続可能な文化
終章 実践のために
ポジティブな未来を創造する
持続可能な未来のためのグリーンな集合開発
広範囲なアプローチ―トランジション・タウン
変革に対し、資金が提供されるかもしれない
運動を作り上げるためのコツ
持続可能な未来を選ぶ
私は2006年に初めて講演旅行で日本を訪れました。10日間の滞在期間中、東京で開かれたエコビレッジ国際会議で講演をし、山奥にあるパーマカルチャーの実践所を訪ね、新幹線に乗って京都に行き、神戸にも足をのばしました。日本の文化に初めてふれた者として、私はいくつかの事柄に大変驚きました。
伝統的に自然や美を敬う姿勢が今でも顕著で、東京のような大都会のど真ん中に神社があること。また極度に進んだハイテクと消費文化にあふれた都会の環境と、田舎の村を基盤にした生活との驚くほどの対比。人生に絶望して自殺をしていく多くの若者が経験する極度の孤独感などです。
文化的な変化があまりにも早い勢いで起こってきたため、社会の中でももっとも傷つきやすい層がよりどころを失ってしまったかのようです。
世界のどこで暮らしているにせよ、私たちは、その表れ方は多少違ったとしても似たような問題に直面しています。そして、そうした問題の解決方法も似ていると私は思います。
究極的には持続可能な未来が根源的な変化を通して起こってくるでしょう。社会的にも環境、経済、文化の面でもです。ますます多くの人々がその必要性を自覚してきています。
誰もが心の奥底で、前向きな未来があることを知っています。自然と強いつながりをもち、コミュニティーの温かさに満ちた、そういう未来です。ただし、こうした前向きな未来を手に入れるためには、私たちはそれに向けてただちに行動を起こさなければなりません。
私はニューヨーク州のイサカに住んでいることをとてもうれしく思っています。ここは世界の中でも、そうしたビジョンをもって進んでいる輝かしい場所の一つだからです。
私たちが1991年から築いてきたエコビレッジ・イサカは、イサカという大きなシステムの一部です。イサカでは、より持続可能な暮らしを築くための画期的な試みがたくさん行われています。そのうちの一部を本書で紹介しました。
本書を著したのは7年前のことですが、紹介した事柄は決して古びることなく、現在日本で暮らしているみなさんにも十分に参考にしていただけることと思います。なお、巻頭にエコビレッジ・イサカの2017年5月現在の状況を加筆しました。
本書がみなさんの道しるべとなり、健康な未来への道を照らしてくれることを願っています。
リズ・ウォーカー(Liz Walker)
国際的に評価されている実験的な小規模コミュニティ"エコビレッジ・イサカ"の創始者が描く、人口3万人の小都市再生の実践事例集です。
ニューヨーク市から400キロ離れた田舎町ですが、コーネル大学、イサカ大学など大きな大学が3つあり、先進的な政策を実践に移す素地はありました。
しかし、自給自足をめざし、もう一つの世界は可能だ、という新しい世界観をもった小さなエコビレッジの住人たちの先進事例を、保守的な田舎町全体の政策として落としこんでいくための柔軟なプロセスは、制度の違いを超えて、日本の地域再生のお手本になるものです。
目次をご覧いただけばわかるように、食と農をつなげる地産地消や、省エネ性能に徹底的にこだわる住宅やオフィスビル、ゴミゼロ、移動手段の共有などの前提に、地域の歴史を学び、子どもからシニアまで参加できるお祭りを大切にするなど、元気のある地域とはどのようなものかについて考えぬかれているのです。
本書が、日本の地域づくりの参考書となれば、これ以上の歓びはありません。