序文（元シアトル市警察署長 ノーム・スタンパー）
はじめに


Part１　［選択肢］マリファナか、酒か

第1章　【二つの主役】マリファナと酒は人々にどう受け入れられ、使用されているか
　飲酒とマリファナ使用の歴史
　酒とマリファナの現状
　『人生を飲み干そう』：大衆文化における酒の描かれ方
　この「バド」を君に：大衆文化におけるマリファナの描かれ方
　マリファナの支持層
第2章　【マリファナ入門】マリファナを理解しよう
　マリファナとは何か？
　マリファナを吸うと何故「ハイ」になるのか
　マリファナの肉体面と精神面への影響
　マリファナ摂取の方法いろいろ
　人は何故マリファナを吸うのか

第3章　【酔うことは悪ではない】アルコールとマリファナの効果の客観的な比較
　適度な飲酒：そのリスクと恩恵
　過剰な飲酒
　マリファナ：有害というにはほど遠い
　マリファナの医療効果
　マリファナを避けるべき人
　マリファナ VS. アルコール：専門家の意見


Part２　奪われた選択肢

第4章　【「マリファナの狂気」騒動】マリファナ禁止の起源
　流れの変化
　「マリファナの狂気（リーファー・マッドネス）」の始まり
　マリファナ課税法
　リチャード・ニクソン、規制物質法、そして「薬物との戦争」

第5章　【事実確認】マリファナについての、よくある作り話とその真実

第6章　社会は組織的に我々を飲酒に走らせている
　やっつけられないのなら逮捕しろ
　薬物検査をパスするには
　見せしめにされるスポーツ選手
　金で買える最高のプロパガンダ
　マリファナ禁止法を維持するためにメディアが果たす役割
　金を追って

第7章　アルコールに優しいカルチャーが現実社会に及ぼす悪影響
　キャンパスライフ
　社会へのツケ
　アルコールと暴力
　バド（バドワイザー）からバッド（マリファナ）へ？


Part３　選択の自由

第8章　【これ以上は要らないだろう】従来のマリファナ法廃止論

第9章　悪習慣を増やすのではなく、代替案を提示する
　マリファナの必殺技：アルコールの悪影響を逆手に取る
　方程式に当てはめることはできるか？
　マリファナ合法化支持を強める要因
　マリファナ合法化支持を弱める要因

第10章　理論から実践へ

第11章　【転換点に向かって】話題を作り、変化の口火を切る
　始めはこぢんまりと――友人や家族と話す
　よくある反マリファナ発言には、シンプルな答えで武装しよう
　話題に乗せる
　大っぴらに

第12章　我々が描く未来図
　「合法化」の意味を明確にしよう
　合法的に管理されたマリファナの市場とはどういうものか？
　オランダ・カリフォルニア方式を越えて
　マリファナ販売：誰が、どこで、いつ？
　マリファナ使用中に運転しないこと
　「でも、子どもはどうなるの？」
　マリファナについて子どもと話そう
　より安全な未来に向かって

付録　「マリファナのほうがもっと安全」というメッセージを広める
大学での運動
近隣地域やネット上での活動


引用文献
機関・団体名／法律／キャンペーン名　和英対応一覧
訳者あとがき

マリファナを酒よりも安全な嗜好品として奨励する本を手に取ったとき、まさかあなたは、アメリカの大都市の元警察署長がその序文を書いているなどとは夢にも思わなかったことと思う。

そう、驚かれたとしたら、出だしは好調。

この本が、そしてこの序文が目指しているのは、マリファナに肯定的な人も否定的な人も、マリファナに対する考え方を再度見直してもらうことなのだから。

本書は、マリファナとアルコールを客観的に比較している。これを読めば、政府やその他の影響力のある機関が、マリファナ禁止法を維持し、同時に世論をマリファナの使用反対に向かわせてきた、その方法が理解できるだろう。また、我々の社会にアルコールがもたらしている被害を数値化する、大量の統計データが紹介されている。

すべての情報を、客観的で説得力があり、かつ思慮深い形で見せた、スティーブ、ポール、メーソンの手腕は見事である。今この瞬間、マリファナ関連の法についてあなたがどのように考えているとしても、最終章を読むころには、この問題についてきっと違った見方をしているに違いない。

あなたがこの本を読み始める前に（私が初めてこの本を読んだときは途中でやめることができなかった）、マリファナ対アルコールの問題について、関係者の立場にいる私の視点をお話ししたいと思う。

「関係者」であるというのはつまり、数十年にわたる私の警察勤務のことを言っているのだが、その間私はじかに、この二つの物質が、使用者、その家族、そして社会全体の安全性にどんな影響を及ぼすかを見てきたのである。想像に難くないと思うが、我々のように警察官として働いてきた者は、毎日ではないとしても始終、アルコールやマリファナの使用者と接触しているわけで、この二つのどちらかが、暴力や攻撃的な行動に関係していることがどれほど多いかを、嫌というほど見てきているのである。

警察官として街で過ごした数十年の間、酒が関係した事件が一晩じゅうで一つも起きない、というのは非常にまれだった。自分のシフトの間に酒にまつわる事件の通報が何件もあることのほうが多く、そういう事件のパターン（とその匂い）には慣れっこになった。

向かう先がバーが集中している地域や地元の大学のキャンパスであれば、一人またはそれ以上の酔っぱらいが、酔った勢いで目を血走らせ、喧嘩の真っ最中か、または今にも喧嘩を始めるところであるということはわかっていた。悲しいかな、家庭内暴力事件の通報を受けたときも、同じ状況であることが多かった。肉体的暴力に発展することも多い家庭内の衝突は、たいていの場合、片方あるいは二人ともが酒を飲みすぎたことが、事態をエスカレートさせる原因だった。

こういう経験は私だけのものなのではないかとお考えかもしれないので、私が自分で行なった非公式の聞きこみ調査の結果をご紹介しよう。この四年間私は、この件に関する興味から、アメリカとカナダのあちらこちらで、警察官に二つの質問をしてきた。

一つ目は、「マリファナを使用中の人の抵抗に腕力で対処しなければならなかったのはいつが最後か？」というもの。（あくまでもマリファナのみを使用している場合で、一緒にビール六本とかテキーラ五杯とか飲んでいる場合は含まない。）それに対し同僚たちは、ちょっと間をとって、考える。それから、五年、一五年、あるいは三〇年間の警察官生活で、マリファナ使用者を力で押さえこまなくてはならなかったことが一度もない、という事実に気づき、驚くのだ。

次に私は、「酔っぱらいの抵抗に腕力で対処しなければならなかったのはいつが最後か？」と聞く。彼らは腕時計に目をやる。つまりその答えは、何日前とか何週間前ではなく、何時間前だったか、ということなのである。

アルコールは攻撃的な行動を増幅させ、マリファナはさせない。

それが単純で素朴な真実なのだ。

第７章で非常に詳細に説明されるが、酒は毎年アメリカ国内で文字どおり何百万件という暴力沙汰を引き起こしている。家庭内暴力、性的暴力、殺人などの犯罪の主たる原因が酒なのだ。一方、そういう意味ではマリファナの使用は、犯罪の記録にも、科学論文にも登場しない。マリファナと犯罪には一切因果関係が見られないのである。

公共の安全を守ることを託された者として私は、法律は、他者に害を及ぼす者を罰するべきである、と固く信じているし、ほとんどの人がそれに同意する。殺人や暴行といった暴力的な犯罪でも、万引きやインサイダー取引のような暴力を伴わない犯罪でも同じことである。また、スピード違反や赤信号無視など、公共の安全を脅かす行為も罰せられて然るべきだ。こうした法律は明らかに、市民を守るために作られたものである。

だが、マリファナの使用を禁止し、ただそれを所持していただけの者を罰することで、一体どんな被害を防ごうとしているのかは明らかではない。

繰り返しておこう。私自身の、そして他の警察官たちの経験から言えば、マリファナが有害な反秩序的行為、あるいは暴力行為の原因になることは、仮にあったとしても非常にまれであることは明らかだ。むしろ、マリファナの使用は、場の緊張を緩めるのに役立つことが多い、とさえ言ってもいいと私は思う。

マリファナは社会にほとんど害をなさない、というそのことだけでも、自由社会における成人のマリファナ使用を合法化するのに十分な理由である。だが、スティーブ、ポール、メーソンの三人がこの本で見事に示してみせるように、さらに説得力のある理由がある。

それは、マリファナを禁じることによって我々が、すでにあまりにも多くの人が乱用している薬物に、人々を向かわせている、ということだ。酒のことである。

マリファナも合法化されれば乱用されるのではないか？　もちろん、されるだろう。しかし、この本が明らかにするとおり、マリファナは社会で嗜好品として使用される製品としては、アルコールよりもはるかに安全なのである。だとしたら、成人に酒を飲むことは許しても、酒の代わりにマリファナを選んだ者は逮捕し、犯罪者の烙印を押す、というのは、論理的だろうか？

はっきり言っておこう。警察官が悪いのではない。警官は法を維持することを宣誓するわけで、マリファナに関する法規が破られたのを目撃すれば、見ないふりをするわけにはいかないのだから。

我々に必要なのは、現行のマリファナ禁止の体制を、マリファナの販売を許可し合法的に管理する新しい法に置き換えることだ。

この特筆すべき本の中に、その素晴らしい構想が提案されている。この本を読めば、もうアメリカ人を飲酒に追い立てるのをやめてもいいころだ、と同意されるだろう。ごくシンプルかつ論理的に考えて、むしろ我々は、人がそれを望むなら、より安全な別の選択肢を選ぶことを許可するべきなのである。


二〇〇九年六月
元シアトル市警察署長　ノーム・スタンパー

二〇〇四年六月、ポルトガル、リスボンの街は、戦争の始まりを待っていた。それは本当の戦争ではないが、暴力沙汰になる可能性という意味では戦争に勝るとも劣らない、恐るべき一大対決だった――サッカーのＵＥＦＡ欧州選手権二〇〇四のグループリーグで、イギリスとフランスが対戦しようとしていたのだ。だがピッチ上の対決は、スタンドや街中で起こることが予想される衝突に比べれば何でもなかった。

間もなく街は、地球上で最も恐るべき生き物の一種である、イギリス人サッカーファンで埋めつくされるのだ。フーリガンという烙印を押されたファンたちは、酔っぱらって暴力をふるい、アルコールに煽られて、喧嘩、暴行、ひどいときには本格的な暴動を引き起こすことで悪名高い。

普段は静かなこの街に、熱狂した五万人ものフランス人とイギリス人が押し寄せようとしているとき、市当局はどうすればよいだろうか？　アルコールを禁じる？　悪くない推測だが、答えは違った。警察は、フランスとイギリスのサッカーファンがマリファナを吸っても、逮捕はせず、いかなる制裁も加えない、と発表したのである。リスボン警察の広報担当官はこの方針について、イギリスの「ガーディアン」紙にこう説明した。

「もしも、おとなしく煙をふかしているあなたから一〇メートル離れたところに警察官がいたとして、あなたの行動には危険が伴うでしょうか？　あなたが人に危害を及ぼす危険がない限り、警察官はあなたの肩をつついて『何を吸っているんだ？』と尋ねたりはしません。私たちには酒の取り締まりのほうが優先事項なので」

大いに懸念されていたこの試合が何のいざこざもなく行なわれたのは、リスボン市のとったこの奇抜な措置によるところが大きい。試合中、警察による逮捕はなかったし、イギリスの札つきフーリガンたちも、憎きライバルに二対一で負けた直後ですら、びっくりするほど友好的に振る舞ったのである。しかし、この社会実験の成功は、残念ながら長くは続かなかった。その夜遅く、イギリスチームのファンたちが街中のパブで悲しみを酒に紛らわせると、敵対するファンとの間で暴力沙汰となり、数百人が逮捕されたのだ。

リスボンでの出来事で驚いたのは、その結果ではなかった――欧州選手権二〇〇〇の期間中、イギリスチームがオランダ（成人によるマリファナ所持が事実上合法である）で試合をしたとき、同じように暴力沙汰が起きなかったことから、予想はついていたのだ。驚くべきはむしろ、アメリカのマスコミや政府がこのことに注意を払わなかった、という点だった。 リスボンでの実験は、科学的にコントロールされた環境で行なわれたものではなかったとはいえ、その結果からはこんな問いが浮かびあがる――マリファナの合法化は、飲酒が社会に与える悪影響を減少させることにつながるのではないか？

司法省によれば、アメリカでは、配偶者、ボーイフレンドやガールフレンドといった親密な関係の相手による暴力事件のうちの約三分の二は飲酒が大きな要因となってお、また若者の間で起こる毎年約一〇万件の強姦事件の原因は飲酒であ。そんな国で、これは真剣に議論されるべき問題だ。

「マリファナの容認」をめぐるポルトガルのユニークな実験をいっせいに無視したアメリカのマスコミが、皮肉にもそのわずか数年後、飲酒年齢を一八歳に引き下げるべきかどうかという全国論争をたきつけるために大学の学長たちが展開したキャンペーンには夢中になった。「アメジスト・イニシアティブ」と呼ばれるこのキャンペーンは、「アメリカの若者の間に蔓延する泥酔や、飲酒に関する無謀な選択の代わりに、節度と責任を守ることを促す」ことを目的としてい。

ではこの学長たちは、マリファナの合法化が「泥酔や、飲酒に関する無謀な選択」の代案を提供し得るのではないかという議論も提唱しているだろうか？　現時点では否である。

そこで我々に残されるのは奇妙な分裂論理だ。大学の構内で起きる暴行やケガの多くが飲酒に関係したものであることを知っていながら、学長たちはそれでも飲酒年齢の引き下げを検討するのはやぶさかではない、と言う。ところが彼らは、酒よりも暴力につながる可能性の低い物質を合法的に使用する権利を学生たちに与える、というアイデアに関しては、話し合いさえもとうとはしないのだ。

これは、マリファナとアルコールの使用に関してアメリカに常に存在している二重基準のほんの一例にすぎない。我々の社会はどうしてこんなふうになってしまったのだろうか？

何故我々は、暴力に結びつかない薬物を使った人を犯罪者として逮捕、あるいは罰しながら、もう一つの、暴力と結びつく薬物を使用することには寛容で、時にはそれを賞賛さえするのだろう？　毎年、何百人もが急性アルコール中毒で亡くなる原因となる、毒性のある薬物の使用は歓迎する一方で、過剰摂取によって人を死に至らしめることが不可能なマリファナの使用を糾弾するのは何故なのか？　マリファナは、アルコールと煙草に次いで、アメリカで第三位の嗜好薬物であるにもかかわらず、こうした疑問はこれまで、マスコミによっても政治家によっても詳細に取り上げられたことがない。

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アメリカ人とマリファナの関係は、若干分裂気味なところのある、独特のものだ。政府の発表によれば、一億人以上のアメリカ国民――これは一二歳以上の全国民の四三パーセント近い――が、マリファナを吸ったことがある、と認めてい。その一方で、マリファナを所持し、娯楽目的で使用することは、五〇州すべてで違法である。（ただし、事実の正確性を期するために付け加えるが、アラスカ州では州立裁判所の裁定により、自宅で個人的にマリファナを使用することはプライバシー保護の権利によって守られており、合法である。さらに、これを書いている時点で、医療大麻の使用は一三州で認可されている。）

米国麻薬取締局（ＤＥＡ）の行政法判事自らが、カンナビス（マリファナ）を「人間の知る治療効果のある物質の中で、最も安全なものの一つ」と呼んでい。それなのに連邦政府は頑なに、連邦法でマリファナを社会的に最も危険な薬物の一つと分類している。

ハリウッドの俳優たちが映画やテレビで堂々とマリファナを吸う演技をするのを見て視聴者は喜ぶ。一方同じスクリーン上で、政府による公共広告が、それと同じ行動を批判し、禁止するのである。

政府によってこれほど例外なく悪者扱いされてきたものが、アメリカの一般市民の間でこんなにも人気を保ち続けるのは何故なのか、と不思議に思うかもしれない。それは、政府や主要メディアは互いに互いの論点を補強し合っているにすぎず、その一方でアメリカ国民の大部分はすでに、「何百万という人が節度を保ちつつ頻繁に使用している比較的無害な薬物」という、マリファナの本当の姿を受け入れている、ということだろうか？　アメリカ国民の一部についてはそうかもしれないが、一般通念は、こうした見識ある態度とはほど遠い。

マリファナの普及率の高さにもかかわらず、調査によれば、多くの人、中でもマリファナを使用しない人の多くが、マリファナの害を誇張して考えている。連邦政府ほどではないとはいえ、一般大衆の多くが未だにマリファナとその効果についてさまざまな誤解をしているのだ。事実、アメリカ人の五分の一から三分の一が、マリファナは「酒よりも害が大きい」と思っている。また三分の一は、マリファナは酒と同程度に有害である、と考えている。

我々の論点は、マリファナは危険だというこの誤解が、この国のマリファナ法の改革を妨げている、ということだ。したがって、マリファナの使用は飲酒よりも害が少なく、またその差は非常に大きい、ということを読者に立証することが我々の目指すところである。

マリファナがまったくの無害だと言っているのではない。理性的な人なら誰もそんなことは主張しないし、実際本書の一部は、マリファナの使用が人の健康に与える可能性のある害について論じている。だが、合法であるものも含めたほとんどの薬が、人の健康を害する危険度はマリファナよりも高いのである。この点については、今日までに連邦政府の依頼によって行なわれたほぼすべての研究が同じ結論に達している。

しかし、政府がこの事実に注目したり、中立の態度をとることさえ期待してはいけない。それどころか現在、政治家や取締官のほとんどは、すでに破綻した壊滅的なマリファナ禁止政策を正当化するために、マリファナの危険度を激しく歪め、誇張しているのである。

本書は、政府によるマリファナについての一般的でバカバカしい?の数々を否定する、科学的証拠をたっぷりと提供する。非常に強力だとされる今日のマリファナの「新たな危険」と呼ばれるものについても、読者はその真実を知るだろう。マリファナを喫煙する際の煙が肺に与える害について、また、マリファナの使用と他のハードドラッグ［訳注：ヘロイン、コカイン・メタンフェタミン（覚醒剤）、アンフェタミン、モルヒネ、ＬＳＤなど］の使用に何らかの相関関係があるかどうかについても検証する。その答えは、読者を驚かせるかもしれない。

マリファナが人体や社会に与える害がそれほど少ない――事実、アルコールが与える害よりもはるかに少ない――のならば、連邦政府は何故、マリファナを非合法のままにしておくために作られたウェブサイトや公共広告キャンペーンに、毎年何十億ドルも費やしているのだろう、とあなたは疑問に思うかもしれない。

連邦政府がマリファナに執着するのは倫理的使命感からか、それとももっと大きな、文化的な闘いの一部なのだろうか？

政府の行動の裏に隠された動機が何であれ、アメリカ人の多くが今もマリファナの娯楽目的の使用を禁じることを支持している（たとえそれが、友人、知人、家族さえをも逮捕・投獄の危険に晒すとしても）のは、政治家や取締機関のメンバーが組織ぐるみでマリファナを悪者にしてきたからである、というのは疑いようのない事実なのだ。

もちろん、政府がマリファナを悪者にする方法は、反マリファナのプロパガンダの流布だけではない。説得で十分でなければ、刑罰で脅かせばいいのだ。連邦政府も、（アラスカを除く）すべての州政府も、娯楽目的のマリファナの所持と栽培を禁じ、州法で科せられる刑罰は一〇〇ドルの罰金（オハイオ州）から終身刑（オクラホマ州）までさまざまである。

一九六五年以降、アメリカでマリファナ関連の逮捕は推定二〇〇〇万件にのぼり、その大部分が単なる所持によるものだ。この数字は、コロラド州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州の人口を足した数字とほぼ等しい。マリファナ所持で逮捕された初犯のうち懲役刑に処せられる人の数は比較的少ないが、逮捕されたことがその後の生活に与える影響はそれだけで重大である。たとえば次のようなことが挙げられる。

・自家用運転免許停止
・連邦政府からの奨学金の停止
・個人資産没収
・営業用運転免許の取り消し
・食糧配給券などの生活保護手当の停止
・公営住宅からの立ち退き
・子どもに対する親権の喪失

それだけでなく、マリファナを使用する人は、現在では至る所で行なわれる薬物検査の結果によっても懲罰を受けることがある。いつとは特定できなくても、過去のある時点でマリファナを使用した、という検査結果が出た場合、状況しだいでは、職を失ったり、停学処分になったり、課外活動への参加を禁じられたり、「薬物矯正」プログラムへの参加を強制されたり、執行猶予が無効になったり、オリンピックで獲得したメダルを?奪されることすらあるのだ。

意図したことではないかもしれないが、政府による反マリファナ法とプロパガンダの影響の最たるものは、それが人々をマリファナから遠ざけ、飲酒に走らせることにある、と我々は考える。

もしも学生が、マリファナを使うと奨学金を失うかもしれないが、飲酒年齢に達する前に酒を飲んでも、せいぜい軽くたしなめられるだけだということを知ったならば、どちらの選択肢を取るだろうか？

不意打ちの薬物検査を強要する多くの職場でも同様のことが言える。従業員は、就業時間外にべろんべろんに酔っぱらっても、次の日二日酔いで仕事の効率が悪くなることを除けば、何も恐れることはない、ということを知っている。ところが同じ会社の社員が仮に、金曜日に友人とくつろいでいてマリファナを吸い、週明けの月曜日に不意打ちの薬物検査があったとしたら、その人は間もなく職探しをする羽目になるかもしれないのだ。

皮肉なのは、こうした政策が、暗黙のうちに、客観的に見てより有害な薬物を使う動機を人々に与えている、ということだ。米国科学アカデミーやその他の機関が行なった研究は、アルコールの依存性はマリファナよりもかなり高いことを実証している。さらに、慢性的な飲酒や急性アルコール中毒は、臓器にダメージを与えたり死につながったりもする。国立アルコール乱用・依存症研究所によれば、毎年三万五〇〇〇人以上のアメリカ人が、飲酒が直接の原因で亡くなっているのであ。それに比べ、今日まで、マリファナの長期的な使用と死亡率の上昇を関連づけた研究は一つもない――すなわち、研究者たちは、長期的なマリファナの使用が死を早めるいかなる仕組みも確定できていないのだ。

また、マリファナとは逆に、アルコールが攻撃的で暴力的な行動を増幅させるということもわかっている。家庭内暴力に関するある研究によれば、男性は、酒を飲んだ日は飲まなかった日の八倍の確率で暴力をふるうということがわかっ。全体として、暴力を伴うすべての犯罪のうちの二五〜三〇パーセントはアルコールが一因となっている、と政府は推定してい。イギリスの場合、アルコールと暴力の関係性はさらに明白かもしれない。二〇〇四年、「ガーディアン」紙は、「暴力を伴うすべての犯罪の約半数、また、病院の救急病棟にかつぎこまれる患者と事故による入院のうち、多いときには七〇パーセントは、飲酒が根本的な原因である、という内務省の調査結果を受けて」、警察はこの夏、アルコールによる暴力を集中的に取り締まる計画である、と報じ。

では、逮捕や投獄、生活の糧を失うことを恐れずに、アルコールの代わりにマリファナを選ぶ自由を個々人がもてるようにするために、我々にできることは何だろうか？

答えは明白。

成人によるマリファナの所持と使用を犯罪とする連邦および州法を改正しなければならない。だが、一体どうやって？

これについては、我々三人は、マリファナ法改正を目的とするアメリカで最も有名な組織のうちの三つ、すなわちＭＰＰ（Marijuana Policy Project）、ＮＯＲＭＬ（National Organization for the Reform of Marijuana Laws）、ＳＡＦＥＲ（Safer Alternative for Enjoyable Recreation）で、のべ二三年以上働いた経験をもっている。

この三つの組織は、公共広告、州議会や連邦議会へのロビー活動、州単位、市町村単位での住民投票キャンペーンなどを通して、アメリカの反マリファナ感情を弱めることに尽力してきた。だが、二〇〇五年にＳＡＦＥＲが設立されるまで、本書にまとめられた戦略のみに集中して活動を展開する組織は存在しなかった。その戦略というのは、「客観的に見てマリファナは、ユーザーにとっても社会にとってもアルコールより安全である」という事実だけに的を絞った、大々的な啓蒙キャンペーンを展開する、というものである。

アメリカでこれまで行なわれてきたマリファナ法改正のための取り組みは概して、マリファナ対アルコールの比較にはほんのわずかに触れるだけで、その代わりに、他のもっと伝統的な議論に重点が置かれてきた。それらの多くについては本書でも詳細に検証するが、その議論の一つは、マリファナのユーザーを逮捕・起訴するのは警察の人的資源の無駄遣いだ、というものだ。

こうした議論は正当ではあるのだが、これまでは、議員や、一般アメリカ市民の半数以上を、マリファナを合法化し、課税し、合法的に管理することに賛成するよう説得することはできなかった。改革派に向かって市民や議員たちは、「何故別の悪習を合法化しなければいけないの？」というお決まりの文句を繰り返してきたのだ。 要するに、市民や議員たちの多くは、アルコールにまつわるさまざまな問題をじかに目撃してきているため、人を酔わせるものをまた一つ合法化することをためらうのである。その害がアルコールと比較してどういうものであるかは関係ないのだ。

そのため、改革派の多くはこの二つの薬物の害についての比較をないがしろにしてきた。その代わり、単に、マリファナは「アルコールと同じように扱う」べきで、したがってマリファナは合法的に販売し、規制されるべきだ、と主張してきたのである。

この結論には我々も賛成する。しかし、マリファナをアルコールと同等に扱うべき、という主張は、一般市民が心の底に抱いている、マリファナは「悪いもの」「危険なもの」、したがって不必要な悪習にすぎない、という認識を変える役には立たない。マリファナの合法化は「悪習を増やす」ということではなく、より害の少ない娯楽のためのオプションを成人に提供するということなのだ、と大衆に理解させない限り、合法化は夢物語のままだろう。

もちろん、マリファナとアルコールの害の比較についての市民の啓蒙活動は、上意の、政府による広告キャンペーンでは成功しない。そのためには、この二つの薬物の害と恩恵について、正直かつオープンに発言することを厭わない市民による、大きなムーヴメントが必要だ。 情報を伝え、刺激を与えることを目的に書かれた本書が、そのムーヴメントに欠かせない一部となることを願っている。あなたがマリファナ通で、友人や家族を啓蒙しようとしているのであっても、あるいはテレビや映画のスクリーン以外では実際のマリファナという植物を目にしたことすらない人であっても、本書はきっと役に立つと我々は確信している。

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本書は三つのパートに分かれている。

パート１では、マリファナとアルコールが、社会的・公衆衛生的に与える影響を比較対照させる。また二つの薬物の人気度、それぞれがその使用者や社会に対して与え得る害についても検証する。

パート２は、過去七十数年間にわたり、政府がマリファナを非合法化し、悪者扱いしてきたあの手この手を詳細に紹介し、こうした政策がいかに人々を飲酒に追い立てているかを説明する。

パート３では、アメリカのマリファナ法を改正しようとするこれまでの取り組みをまとめ、代案として、市民主導型の、「マリファナは酒よりも安全である」というメッセージにもとづいた公共教育キャンペーンを提案する。最後に、マリファナの販売は認可を受けた店に限り、適切な年齢制限を遵守することを規定した法規制のもとで、マリファナがアルコールと同様に規制・管理される未来の社会についての我々のビジョンを紹介する。

付録には、友人たちの間で、学校で、あるいは自分が住む町で「マリファナは酒よりも安全である」というメッセージを広めたいと思う人に役立つ助言や資料を提供している。

もしもこの本があなたの心に触れたならば、人々にこの情報を伝えるという我々の活動に参加し、マリファナ禁止の歴史にピリオドを打つのを助けてほしい。


スティーブ・フォックス（ＭＰＰ代表）
ポール・アーメンターノ（ＮＯＲＭＬ副代表）
メーソン・トヴェルト（ＳＡＦＥＲ事務局長）