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不老不死と薬 薬を求めた人間の歴史 【内容紹介】本書「まえがき」より | |||
人類文明史上、古代中国の科学技術によって多くの貴重な発見をしている。中国の四大発明は“紙の発見・火薬の発見・羅針盤・印刷の始まり”であるが、そのほか、ウルシ・カイコ・陶磁器など枚挙に限りがない。これらの技術は、古代道教の錬丹術が基礎となっていると思われる。 クスリを欲する人間の願いは、その時代の思想的背景によって異なっている。かつて、古代中国を統一した秦の始皇帝は権力と富をほしいままにしたが、ただひとつの不安は年とともに衰える体力とやがて訪れる死にあった。彼は、古代道教の方士であった徐福に命じて不老不死のクスリを求めさせた。徐福は童男童女と多くの技術集団を加えて3000人の船団をつくり、東海の国に出発した。それは金銀珠玉と五穀器材を積んだ文化集団であった。クスリを求める心が、わが国の弥生時代への橋渡しとなったロマンである。このように人間の歴史をみなおすと、クスリに対する願いは意外にも重要な歴史の裏面史でもある。 徐福は不老不死の薬のみではなく、理想の国を求めたか、建設しようとしたに違いない。そのような理想を求めたのは、奈良時代に渡来した鑑真和上であり、黄金の国または理想の国であるジパングを求めて渡航したコロンブスも同じ心であったろう。 西洋の錬金術は近代化学に変身して、多くの貴重な化学薬品と医薬品を発見した。これらの薬品の発見には多くのエピソードがあるが、現代人の生活様式を変えるとともに、人間の生命を大きく延長したのである。 合理的な近代科学による多くのクスリの発見は、やがて癌に対する特効薬も発見されて、人類を無限に幸福に導いてくれるように思われる。しかし、クスリの不思議な作用は、現代でもすべてが解明されているわけではない。昔からクスリは同時に“毒物”でもある。毒という言葉は、古代から魔術や妖術として関係して歴史の裏面に登場している。“クスリと人間”の関係は、また“毒と人間”の関係でもある。 近代文明は今世紀半ばから、大衆には理解されない巨大な宇宙科学時代に突入した。同時に、医薬品の産業は強力な作用をもつ多品種のクスリを大量に生産することを可能にした。このことは、また人類がかつて予測すらしなかった毒物の大量生産を意味している。21世紀には、古代や中世の毒物以上に、クスリの不思議な作用が人類を危険にさらしている。“クスリか毒か”は人類の選択に依存している。 神から与えられた貴重なクスリは、人類の未来の幸福を約束しているのではない。現代こそ、貴重なクスリの適用には謙虚な真の医療が求められている。これを誤ると、クスリは人類を滅亡させる毒物でもある。これに対する神の警告も本書で解説した。 おわりに、人類の滅亡を救う課題のひとつは“クスリに対する真の理解”を求めることである。少なくとも、わが国においては医薬分業が早く確立されることが必要であることを、読者が理解していただければ幸いである。 | |||
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