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アメリカはなぜダム開発をやめたのか

【内容紹介】本書「まえがきにかえて……小杉隆」より


 日本の政治・経済・社会は大きな転換期にさしかかっています。右肩上がりの経済成長に支えられ、大規模な土木・建築の分野への公共投資を続けてきた我が国の基本的な政策スタンスは、物質的な豊かさを国民生活にもたらした反面、生活環境全般にわたる長期的な負荷を後世に残してしまう結果を生みました。
 我々の「公共事業チェック機構を実現する議員の会」のメンバーがアメリカの現状をつぶさに視察したのとは別に、私は我が国最初の特別天然記念物であるアマミノクロウサギが棲息する鹿児島県奄美大島を訪れ、過疎と高齢化に悩む現状を見てきました。美しい海とマングローブを含む豊かな森林に囲まれ、多様な野生生物の宝庫とも言うべき地域が、20%を越える高齢化率に悩み、せっかくUターンしてきた若者の雇用の場すらない実情から、公共投資に依存する体質に追い込まれていました。
 日本全国の過疎地域が同じような苦しみを味わっています。深刻な財政難の時代を迎え、公共事業政策の方向を、自然との共生、持続可能な開発へ向けて立て直さなければなりません。そのためにも従来の実績踏襲主義に基づく公共事業政策から脱却し、地方の独自な文化と自然環境を守り、生活を重視した持続可能な開発と発展への道筋を、大胆な発想の転換によって構築していかなければならないと考えています。
 国内の状況を視野に置き、今回、「議員の会」のメンバーらがケーススタディとしてアメリカの河川行政の転換における議会・官僚・NGOの現状を実際に視察・調査・研究し、その成果をこのような形でまとめることに、重要な意味を感じています。そして、これを契機に、行政システム全般にわたる活発な議論が澎湃として巻き起こることを願っています。

【内容紹介】本書「今、政治に求められていること---あとがきにかえて……小泉晨一」より


 ダム建設、高速道路建設等。思えば建設省の事業のほとんどは、未来の国民への赤字国債を資金源として、自己膨張をし続けてきた結果である。私企業ならばこのような放漫経営は決して許されていないだろう。
 アメリカのダム造りをリードしてきた開墾局の総裁ビアード氏が2年前に「アメリカにおけるダム造りの時代は終わった」と発言した背景は、1つはアメリカ経済がダム造りを支えられなくなったこと、2つめは、環境を重視する世論がダム造りへの税金の支出を許さなくなったこと、3つめは、ダムに替わる代替案がいくつもあること、であった。
 日本経済を冷静にみると、やはり日本も、アメリカと同じ方向へ河川政策や公共事業政策を変革させるべきだということは、今や明白である。
 これまでのわが国には、政治家であれ、経済人であれ、あるいは教育や福祉の関係者でさえ、リーダーといわれる人たちの間には、そつのないメンテナンスの手法で切り抜けようという発想がはびこっていた。このたび、その中の1つ経済界から、「建設省の解体」という言葉が飛び出した。ことほどさように経済界では、現在の日本の“金のまわし方”に対する危機感があるのだろう。それは当たり前のことだ。
 2002年の春、建設省に初めて公共事業チェック部と解体部が設置される。そして建設省のOBが「日本環境検査院」総裁に就任。一方「環境を考える国民会議」議長が、「建設審議会」会長に就任。
 公共事業をリードしてきた建設省がチェックのポジションで活躍し、オルタナティブな活動をしてきたNGOのリーダーが公共事業を考える側の代表となる。この当たり前のことが、この数年内にわが国で起こらなければ、いや、わが国のニューリーダーと称される政治家や経済人の発想になければ、21世紀の日本は、世界最大の経済赤字国への道を歩むことになるだろう。
 今、まさに政治に求められているのは、官僚をコントロールする強いリーダーシップ。「公共事業チェック機構を実現する議員の会」は、この当たり前を実現することを目指す。
 21世紀に向け、この本の出版が、建設省を変身させるであろうことを確信する。
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