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公共事業と環境の価値 CVMガイドブック

【内容紹介】●本書「はじめに」より


 今日、世界的規模で生態系に対する関心が高まる中、生態系をめぐって開発と自然保護の対立が全国各地に広がっている。なぜ開発と自然保護が対立するのか。この対立を解決するためには何が必要なのか。本書の課題はここにある。
 私は、これまでに釧路湿原や屋久島など様々な自然環境を調査してきたが、環境破壊をめぐる開発と保護の対立を調べていく中で、我々の社会経済システムでは環境の価値が適正に評価されていないことが対立の大きな要因になっていると痛感した。多くの人が自然環境を守りたいと願っているが、環境には値段がないため、いわば「タダ」同然として扱われてきた。
 本書の目的は、環境の持っている価値を金額で評価することで、環境破壊をめぐる開発と保護の対立を解決するための一つの方向性を示すことである。これまで、環境を守れという要求は、理念的あるいは情緒的なものが大半であった。だが、現実社会が市場メカニズムによって動いている以上、ただ感情的に環境を守れと訴えるだけでは、現実の環境問題の解決にはならない。
 そこで、環境の価値を評価する手法として、CVM(仮想評価法)をとりあげる。CVMはアンケートを用いて一般市民にたずねることで、環境の価値を金額で評価する手法である。CVMは生態系の価値を評価できる数少ない手法として、世界的に注目を集めている。例えば、1989年にアメリカ・アラスカ沖で発生したタンカーの原油流出事故による生態系破壊の損害額がCVMによって28億ドルと評価され、生態系破壊が社会に及ぼす影響が極めて大きいものであることが示された。
 本書は、環境問題に関心のある読者を対象に、このCVMを紹介することを目的としている。なぜ環境破壊が進むのか、環境の価値とは何か、そしてどのようにしてCVMが環境の価値を評価するのかなど、CVMについて詳細な解説を行う。CVMは経済学の手法であるが、本書は経済学の専門知識は必要としなくても読むことができるように配慮を行っている。経済学を専攻する人だけではなく、市民団体、環境行政、開発企業、コンサルタントなど環境問題に関心のある多くの一般市民を対象としている。
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