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屋上緑化

【内容紹介】●本書「まえがき」より


 21世紀に向かって建築の世界も根底から変わろうとしている。
 「自然と共生する建築へ--」。いわゆる自然建築(ナチュラル・アーキテクチャー)。「環境共生」と呼ばれる方向へ世界の建築思想は大きく向かっているのだ。“緑の建築”へのトレンドである。建築とは、人生の“容れ物”……。そして、緑は生命を育み、癒してくれる。
 その奥深い緑の恵みに、人びとは驚きとともに、目覚めはじめた。

 「東京は、緑化すれば4℃下がります!」
 東北大学工学部の斎藤武雄教授は明快に言い切った。
 都市の熱化(ヒートアイランド現象)の世界的な権威。同教授は、コンピュータによるシミュレーションで、東京を47%緑化すれば、真夏の猛暑でも4℃気温が下がることを実証したのである。
 いまも地球温暖化の進行を、真夏のジリジリと灼きつく日照りに実感する。
 「東京は亜熱帯……」。これは2000年7月29日、「毎日新聞」の一面見出し。この夏、東京の真夏日は過去最多のペースで急増。炎天下の東京の街を歩くとアスファルトからの猛烈な照り返しに眩暈がする。

 緑化のシンボルが、屋上緑化である。
 その効果は驚異的だ。むろん灼熱都市(ヒートアイランド)を涼しくすることは、その1つにすぎない。
 まず断熱効果。建物は“緑の覆い”をまとう。そのため夏涼しく、冬暖かい。とうぜん冷暖房コストは、はるかに節約できる。30坪のマンションなら一夏で、クーラー代6万円浮く。冬の暖房費も大幅コストダウン。年10万円以上の節約になるはずだ。オフィスも約2〜3割冷房費削減。不況の昨今、これは経営者にとっても朗報だ。東京都239のビル群の陸屋根50%を屋上緑化しただけで、夏場は100億円冷房費が浮く。壁面緑化で120億円。あわせて一夏、220億円のおつりがくる計算。これは原発2基分の電力に相当する。日本全国の都市、建築緑化で原発25基分が不要になる。都市を緑化すれば、原発もいらなくなるのだ。
 緑化の断熱によって冬は「暖房効果」がある。いわば“緑のセーター”。東京都だけで、こうして冷房費あわせて、年に最低300億円の節約になるだろう。10年で3000億円……! 緑の効用は、これほどにすごい。ありがたい。

 屋上緑化等は大気汚染も浄化する。植物には二酸化チッソなど大気汚染の有毒物質を吸着、分解する作用がある。さらに激増する肺ガンの元凶ディーゼル粉塵から、鉛、CO2まで吸収してくれる。緑は驚異の“汚染浄化装置”であった。
 さらに、驚嘆すべきは建物の長寿命化。ビル劣化の最大原因は、屋上へ直射する紫外線。さらに昼夜の20〜30度もの温度差による膨張収縮、酸性雨……。これらは、コンクリート面を侵し、亀裂させ、蝕む。こうして、ムキだしビルはボロボロに朽ちていく。ところが、屋上、壁面緑化すると、“緑の保護層”が、これらをすべて防ぎ、ビル寿命を飛躍的に延ばす。「築18年でもコンクリート面は施工時とまったく同じ」という“奇跡”もじっさい確認されている。

 さらに緑化層による雨水の保水。都内のビル屋上50%を屋上緑化すると124万トンもの保水能力となる。まさに都内に巨大な“貯水ダム”が出現するのだ。これは集中豪雨による都市洪水の防止に大きなはたらきをする。
 緑化は都市の気象を変えてしまう。微気象(マイクロ・クライメット)と呼ばれる。温度や湿度はしのぎやすく、雨上がりに霧と虹が立つ幻想的な風景が楽しめるだろう。
水質浄化。屋上緑化の土壌に生活排水を通せば、水は浄化され中水としてリサイクル利用も可能になる。土は最高の水質浄化材だ。生態圏の復活。さまざまな鳥や蝶、昆虫が飛び交い、自然がよみがえる。屋上緑化した都心ビルに19種の野鳥、16種の蝶々がやってくるようになった例も。こうして屋上緑化は癒し空間となる。「緑で安らぐ」ことは様々な実験でも実証されている。都会人のイライラも、緑によって癒される。小学校の屋上を緑化して草花を咲かせれば、子どもたちには原っぱとしての遊び場、自然観察の場となる。さらに病院、老人ホームなど屋上緑化すれば、どんなに患者さんやお年よりは心を慰められるだろう。

 菜園都市(ビオシティ)へ。屋上に菜園、花壇、果樹園を作れば、毎日食卓に新鮮な野菜、果物さらに草花と自然の恵みをいただける。それは農村と都市が共生する新しい未来都市のイメージである。さらに緑化には「騒音の軽減」「火災の延焼防止」などなど、あげきれないほどのメリットがある。
 壁面緑化も同様。とくに戦後日本のビルが犯した“史上最大のミステーク”「内断熱」工法を改善する「外断熱」工法として、今後、建築業界から熱い視線を浴びるのは、まちがいない。

 東京都は2000年4月から、新築ビル屋上の緑化を義務化した。杉並区はふつうの住宅にも緑化を義務化。建設省は、緑を取り入れた「環境共生型」集合住宅を積極的に支援している。また「グリーン庁舎構想」を打ち出し、屋上、壁面を緑化した神戸、シャルレ本社ビルを理想のベストモデルとして選定した。
 日本の政府も、緑を志向しはじめた。
 東京タワーから見下ろすがいい。地平の果てまでの一面灰色のビル屋上群。想像して欲しい。それが地平まで緑に変貌した光景を……。そのとき東京は緑の沃野と化す。日本中の都市も、鮮烈な緑に輝く都市として再生するだろう。

 その未来へのマニュアルが本書である。ページを繰ってほしい。

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