トップページへ

海の生物多様性

大森 信ボイス・ソーンミラー[著]

3000円+税 A5判 ハードカバー 240頁 2006年8月発行 ISBN4-8067-1339-2

NHKスペシャル「海−−青き大自然」の総監修者で、
生物海洋学の第一人者が語る海の世界

いまだ謎の多い海の生物多様性−−−−
さんご礁、熱水噴出孔の生物群集から
漁業、国内外の政策、環境問題までを包括的に解説する

訳者によるあとがき→こちら

書評再録 読者の声
【主要目次】


第 1 章 海の生態系
 1. 生物多様性とはなんだろうか?
 2. 生物多様性はなぜ大切なのだろうか?
 3. 地球環境と海洋生物の相互作用
 4. なくてはならない海のいのち

第 2 章 ここまでわかった生物多様性の科学
 1. いくつかの用語
 2. 生物多様性に関する生態学の理論
  2-a. 種の多様性に影響する物理・化学的要因
  2-b. 種の多様性に影響する生物的要因
  2-c. 生物多様性の動態
 3. 種の多様性の変化をどう評価するか
 4. 遺伝的多様性
  4-a. 遺伝的集団
  4-b. 姉妹種
 5. 微生物の多様性
 6. 海と陸の生物多様性を比べてみれば
  6-a. 物理的特性
  6-b. 化学的・生化学的特性
 7. 生物多様性の分布スケールとパターン
  7-a. 種の多様性の傾き
  7-b. 海洋の生態的区分

第 3 章 沿岸域の生態系
 1. 河口域と塩生湿地
 2. 磯浜と砂浜
 3. さんご礁
 4. 沿岸域の底生生物
 5. 沿岸域の漂泳生物

第 4 章 外洋域の生態系
 1. 外洋域の漂泳生物
  1-a. 鉛直分布
  1-b. 水平分布
  1-c. 主要な循環流
  1-d. 海流、湧昇流、リング、渦
 2. 海底境界層
 3. 深海の底生生物
 4. 熱水噴出孔の生物群集
 5. 海底峡谷と海溝
 6. 極域の海

第 5 章 生物多様性への脅威
 1. 乱獲と養殖
 2. 生息場の物理的破壊
 3. 化学汚染
  3-a. 栄養汚染
  3-b. 有毒微小藻類の大発生
  3-c. 毒物汚染
  3-d. 油汚染
  3-e. 有毒金属と放射性核種による汚染
  3- f. 合成有機化合物による汚染
  3- g. 人工放射性核種による汚染
 4. 外来種の移入
 5. 外洋と深海への人間活動の影響
 6. 地球温暖化とオゾンホール

第 6 章 生物多様性と生態系の保全
 1. 海洋環境と生態系の特性および保全対策
 2. 海の生物多様性保護のためのアプローチ
  2-a. 種の保護
  2-b. 海洋保護区
  2-c. 統合沿岸域管理
  2-d. 漁業の規制
  2-e. 汚染物質の規制と防止
  2- f. クリーンプロダクションテクノロジ−
  2- g. リスクアセスメントと予防原則
  2-h. モニタリング
  2- i. 経済的な施策と制度
  2- j. 環境の修復

第 7 章 生物多様性と生態系の保全と回復に向けての国内外の取り組み
 1. 取り組みの道すじ
 2. 海洋の環境
  2-a. 国連海洋法条約
  2-b. 世界的な協議事項
  2-c. 関連する日本と米国の法律と行政機関
 3. 生物多様性
  3-a. 生物多様性条約
  3-b. 絶滅危惧種を保護するために
  3-c. 外来種の侵入を防止するために
  3-d. 海産哺乳類を保護するために
  3-e. 世界の漁業の規制と管理
 4. 海域の保護
  4-a. 極域の海
  4-b. 地域海計画
  4-c. 海洋保護区
  4-d. 日本と米国の水域保護と管理
 5. 海洋汚染
  5-a. 海上からの汚染
  5-b. 陸上からの汚染
 6. 開発支援事業と貿易
 7. 非政府組織の役割

第 8 章私たちの役割――生物多様性と生態系は護れるか
 1. このままでは危ない
 2. 保護・保全への道
 3. 希望に向かって

あとがき
略語一覧(条約名や機関名など)
引用文献の著者名と発行年
引用文献
索引

【あとがきより】

 大学を辞める前に、私がそれまでの講義や発表した小論などを編集して、海の生物多様性と環境問題についての総論として刊行したいと思っていた。生物多様性と環境問題について海洋に限って書かれたものは日本にはなかったし、科学と政策の両方を論じた著作は陸上を含めても少なかったからである。ちょうどそのころ、アリゾナでの学会で、ソーンミラーさんの“The Living Ocean”(Island Press, 2nd edition, 1999)をみつけた。そして内容の豊かさに感銘を受け、同時に私が準備しはじめていた著作の構成と似ているところをうれしく思った。その後、スクリップス海洋研究所の亡き友ミュリン教授に、先を越されたという思いを話したところ、ソーンミラーさんが広い考えを持つ研究者で、環境保護運動家としてもとても優れた人だからと、彼女を紹介してくれた。
 それで、私はソーンミラーさんの著作を翻訳出版するつもりで、ワシントンD.C.の環境NGO“SeaWeb”の事務所に、科学アドバイザーをしていた彼女を訪ねた。2000年7月のことである。しかし、そこで話し合い、また、翌年ワシントン州で催された「予防原則にかかわる国際ワークショップ」に招かれたときにも、再び出会って話をしているうちに、ソーンミラーさんは、環境問題に熱心な日本の人びとのために、私を主著者にして、共著の本を書こうと提案された。
 本書は“The Living Ocean”を基礎にして、私のノートから科学と政策の新しい展開を加え、ふたりの考えを何度も吟味して書き上げたものである。研究者の目で長く“いのち豊かな海”を眺め、国際機関に出向して海洋科学行政にも携わったことのある私と、NGOの立場で環境問題に深くかかわってきたソーンミラーさん、ふたりの海の生物多様性への思いがようやくひとつにまとまった。
 私たちの気づかないところでも、地球規模の生物多様性の低下と自然環境の悪化の影響はもう現れているし、やがては大変なことがおきそうだというおそれはみんなが感じている。しかし、成り行きを科学的、包括的に立証することが難しいために、人びとはまだ行動をためらっているようにみえる。本書が市民と政策にかかわる人たちを喚起し、地球規模で生物多様性と自然環境の保全保護に真剣に取り組むという、わが国の、そして世界の国々の明確な意思決定につながるきっかけになることを望んでいる。
(大森 信)