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農を守って水を守る
新しい地下水の社会学

柴崎達雄[編著]

1800円+税 四六判 200頁(カラー口絵4頁) 2004年6月発行 ISBN4-8067-1288-4


水の都「熊本」には、地下を流れる大きな川があった!
中流の水田がなくなったら、都市の水が不足した!?
都市生活者こそ知っておきたい地下水と農業の関係

熊本は阿蘇の天然水などでも有名で、「水の都」として知られます。
なんと人口100万人の都市圏の水はすべて地下水なのです。
浄水施設いらずの格安で、おいしい水はどこから来るのか?
そのメカニズムを水文学、地下水学、歴史、社会経済学など多方面から解き明かした「新しい地下水」の本。

「水の都」として知られる熊本は、
約90万人の生活用水をすべて地下水によっている特異な地域である。
その水道水のおいしさは驚嘆すべきほどで、
浄水施設も必要とせず、ほかの地域にくらべ格安である。
しかし、近年になり、
水不足、涵養低下、水質汚染の恐れが生じている……。

実は、この豊富な地下水は、
加藤清正にはじまる藩政によって開発された
白川中流域の水田からの
巨大人工地下水脈によって
供給されていたことが明らかになった。
農民の絶え間ない水田耕作のおかげで、
豊富で清涼な水を得ていたのである。
これは水田の多面的機能を活用した
自然−人間システムの理想といえる。

近年の減反政策、都市化によって、失われつつある
理想の浄水システムを取り戻すために、
水文学、地質学、地下水学、水道工学にとどまらない、
歴史、農学、社会経済学、財政学などの諸分野から
専門家集団が立ち上がった!

書評再録 読者の声
【主要目次】

「水の都」には地下を流れる大きな川があった!
はじめに――地下水の社会学とは?

第1章  地下水の社会学入門
地下水とはなにか?
 熊本の水はなぜおいしいのか?
 カタツムリの歩みのように遅い地下水の流れ
 水田が天然の浄水場だった
 地下水は夏冷たく、冬温かいのはなぜ?
地下水の帳簿をつくろう――水収支の話
 お金の会計簿と地下水の会計簿
 地下水の入れ物と流れ
 地下水の流れは変化する
 「砂場の落とし穴」で地下水の動きがわかった
 地下水の健全財政を保つためには
 地下水シミュレーションとは
 シミュレーション・モデルはあくまでも偽者
地下水はどこまで利用できるのか?
 地下水が「ある」ことと、「くめる」ことの違い
 貯留量以上にくみ上げられる地下水
 時代とともに変化する「社会量」
 不明瞭な地下水くみ上げ基準
 「安全揚水量」論争
 地下水のくみ上げに安全な量はあるのか?

第2章  「水の都」の地下水はこうしてできた
「白川地下水バイパス」物語
 泉の底のモミガラはどこから来るのか?
 水の都「熊本」の水
 加藤清正によって開発された人工の地下水流
白川中流域の水田開発史
 それは小規模な開田から始まった(近世以前)
 急激に増えた水田(近世以降)
 加藤清正が着工した白川中流部の「ザル田」
「白川地下水バイパス」と水争い
 水をめぐる中流と下流の対立
 水争いのあげくにできた分水慣行
 水争いの解決策としての白川補給水
近代的な上水道の開設
 軍人たちにも恐れられた悪疫のはびこる土地
 波瀾万丈の上水道計画
 自噴する健軍水源地
 きわめて優秀な地下水層
 現在の熊本市上水道
 熊本の地下水について

第3章 地下水バイパスとはなにか?
人工的な地下水流動系
 地下水バイパスが現われた
 地下水バイパスを歴史からみる
 すばらしい地下水バイパスの恩恵
水田の多面的機能
 これからの熊本地域の地下水
 農地の多面的な機能を活用する

第4章  それぞれの井戸から広域地下水へ
新しい地下水管理への試み
 広域地下水管理の萌芽
 畑地帯深層地下水調査の成果
 熊本上水道第三次拡張計画がもたらしたもの
 健軍住宅団地建設問題から学んだもの
 地下水の入れ物となっているのは?
 地下水頭分布からみた地下水の流れ
減反政策による地下水かん養量の減少とその対策
 減水深・慣行水利権、地下水かん養をめぐって
 減少している地下水かん養量
 四八パーセントにたっした生産調整田
 生産調整の中身
 飼料イネ導入の取り組み
 ニンジン畑の「水張り」

第5章  農民・市民ネットワーク
コメあまりが生んだ地下水の危機
 水田農家がもつ悩み
 代案としての飼料イネ作付けの導入
 下流側の無関心さの原因
地下水について知ってもらう
 ボトムアップ方式の採用と専門家の役割
 これからの取り組み方――ボトムアップ方式
 まず下流側住民の意識改革から
 地下水に関する啓蒙活動
 中・下流コミュニティー間の交流の促進
 新しい交流の試み

第6章  白川地下水バイパスの保全
地下水バイパスが荒廃したのはなぜか?
 白川地下水バイパスの保全策の流れ図で解明する
 台地の地下水汚染対策
 水田は地下水貯水池(ダム)の役割をはたしている
 時の農政の影響を受ける白川地下水バイパス
 どのくらいかん養面積が減ったのか
 地下水バイパスの湛水面積の減少をどう防ぐか?
 米政策改革大綱が地下水利用に与える影響
地下水税か上水道料金の値上げか
 「法定外目的税」としての「地下水税」
 水道料金への上乗せ額

第7章 これからの地下水
環境創造について考える
 地質学からみた自然史的過程
 変化する自然へどのように働きかけるか
 環境問題の根源は社会制度の矛盾にある
 新しい環境創造をめざして
残された課題と問題点

第8章 水循環型営農へ
まずは、自治体・農業者団体が動いた  コメ生産調整の険しい道
 熊本市と大津・菊陽町との地下水保全協定
企業、市民の挑戦
 地下水かん養プロジェクト
 市民が動く

あとがき――熊本との出会い
 初めての地方勤務
 農政の転換期に
 肌で感じた農政の欠陥
 再び熊本の地下水に取り組む
 災い転じて福となす
 熊本開発研究センターとともに
 熊本地下水研究会について
 メンバーズリスト
 感謝の意をこめて

主要な参考文献
巻末資料「熊本地下水量保全プラン」