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| キノコは安全な食品か 著者……小川真
かつては季節、季節に少量を食べていたキノコは、いつの間にか、工場で大量栽培され、一年を通して大量に消費される工業的食品になった。
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【主要目次】 | |
はじめに | |
衣川堅二郎 評 | |
一つのことに関する解説書は畑の作物にも例えられる。つまり、肥料の効いた美味しいものから栄養不良まで色々ある。寺田寅彦の随筆には科学解説が多いが、それは、テーマの周りに広い知識を集め、相互の関連を掘りだし、読者の創造を刺激して知的世界に遊ばせてくれる美味しい文学でもあった。本書はまさにそれである。単なるキノコの安全性の話に終わらない。さまざまのキノコを取り上げ、林野での発生を含む生物学、栽培の成功や失敗談義、菌根菌や腐生菌、腐食菌、キノコの栄養、市場のキノコは近代工場の大量生産である話、など面白く読ませているうちにキノコの毒性とは何か、食品として危険とは、味は何によって決まるかなどを、解らせてくれる。 人間に有害なキノコの毒は固有の毒成分だけではない。キノコが選択的に吸収する重金属、培養基に添加する栄養剤中の毒物、栽培中に使われる殺菌剤や害虫防除用殺虫剤の残留毒(特に輸入キノコ)、栽培の不衛生から来る中毒細菌などさまざまあって、ヨーロッパでは野生キノコが放射能まで取り込んでいる。チェルノブイリ事故から飛散した放射能がもう何年もたつのに世界中の菌根菌キノコと宿主樹木との間を循環している悲しい環境汚染の話もある。安全か危険かは個々のキノコをよく知って判断しなければならない。日本でのマツタケ高値もアメリカマツタケ採取人の間で殺人劇まで引き起こしたというから、倫理毒と言えるかもしれない。 著者は危険ばかりを強調するわけではない。往々ありがちなキノコ礼賛的贔屓などしないのである。菌類の生態的地位という学術的な話題から、抗癌性キノコの研究事情、公式に認定されている三種のキノコ抗がん剤や、世界の栽培事情も述べ、往年、日本で研究や栽培に努力した先輩を懐かしそうに回顧している。世界のキノコを視野に、その全体像から、安全性危険性に言及している。評者も他書では得られない多くを教えられた。少し誉めすぎたかもしれないが、一般人や学生には夢と示唆を、研究者には研究課題のヒントを提供できるかもしれない。それにしても題名の付け方が内容に比べ狭いような気がする。 衣川堅二郎(近畿大学名誉教授、農学博士) |