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イギリスで楽しむグリーンホリデー
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【内容紹介】●緑の巻「まえがき」より


 この本を書きたいという考えが初めて浮かんだのは1994年の夏だったと思う。その夏、イギリスでは例年になく気温が上がり、それでいて湿度は低いので、イギリス人も外国人旅行者もみな夏を満喫していた。さらに、イギリスの夏は夜10時近くまで明るいので、明るい日差しを思う存分、通常の2倍も楽しめるわけである。
 ピムズを片手にリラックスしている私たちの両側で、まるで映画の背景のようにテムズ川の両岸がスローモーションで動いている。ピムズはイギリスで昔から親しまれているスピリッツ。通常ソーダで割り、果物やキュウリのスライス等を浮かべて飲む夏のカクテルとして人気がある。下方から感じられるバージ(寝室、キッチン、シャワーなどをすべて備えた平底船)のエンジンの規則正しい音とかすかな振動が心地よい。バージの屋根の上に座って、よく冷えたピムズを口にしながら、その日一日の出来事をボーッと思い浮かべていたのである。
 ヒューと私の間に、ヨーロッパのチーズを並べた皿が置かれている。イギリスからはよく熟成され、なんともいえないこくのあるチェダー、青かびのはえた刺激的なスティルトン。フランスからはクリーミーなソフトチーズ、ブリー、日本でも大人気のカマンベール、そしてチャイブの刻み葉が表面にちりばめられた山羊のミルクからできたゴートチーズ。チーズには目のない私たちは、ヨーロッパに来ると日本では高価なチーズをできるだけたくさん食べる。私にとっては、イギリスはまさにおいしい国。日本に帰るときには、イギリスのスーパーで食料品を買い込んで、スーツケースの中に詰め込む。
 バージをレンタルしての旅行はイギリスを内側にある秘密の穴から覗くようなものである。バス、電車等の乗り物で旅をしている時や、ハイキングをしている時よりもさらに低い視点から、両岸の町並みやカントリーサイドを見ることができる。岸からボートを見下ろすとなんでもないが、ボートから岸を見上げた時というのは、目に映るもの1つ1つに新しい発見があるようなとても新鮮な気持ちになるのである。
 かの有名なテムズ川で、夏の盛りにバージ旅行をしていたわけだが、日本に住んでいる私たちからみれば不思議なほど静かである。
 有名なオックスフォードからウィンザーまで行く。イギリスの自然を満喫しながら、バージの中で料理を作り、ラジオを聞き、シャワーを浴び、ぐっすり眠る。そして、オックスフォードのような大きな町から、名前も聞いたことのないような小さな村まで、気が向いた時に気ままに訪れる。日本では考えられないようなこんなホリデーがイギリスでは簡単に、しかも格安に実行できるというのに、そのことを知る日本人が少なすぎると実感したのであった。
 そこで、イギリスに計2年半留学し、イギリス人の夫と親戚を持つことによって知ることができた、イギリスの内側に入り込んでいけるようなホリデーを紹介したいと考え、現地での情報集めを始めたのである。イギリスが多くの旅行者を引き付ける一番の魅力が、その伝統・歴史であろう。多くの歴史的建築物、王室、ダーウィン、ニュートン、ワット、シェークスピア、ケインズ、ワーズワース等、さまざまな学問分野で世界史上に名を連ねる賢人たち。イギリスはまさに成熟の国。数多くの成功や失敗を積み重ねてきた、いわば賢国なのである。
 もう一つのイギリスの魅力を挙げるとしたら、その景観の美しさである。歴史の影をところどころに残す町並みも美しいが、なんといっても自然の美しさ、自然と歴史の調和した美しさは格別だ。従来のガイドブックは、イギリスの歴史・伝統についてはよく解説しているが、イギリスの自然美についての記述は少ない。そこで、私たちの調査は、自然を存分に味わい、この老齢の国が培ってきた自然・文化財保護の経験を学ぶことのできるようなホリデー、そして、私たちに安らぎと喜びを与えてくれる自然を保全しようという活動になんらかの形で力になれるようなホリデーということをテーマにして、進められたのである。
 この本に紹介したホリデーはすべて、単なる観光客としてではなく、一人の人間としてイギリスの内側に入り込んでいくものである。それ故、イギリスという国の自然や文化、一般の人々との直接のふれあいを通して、真のイギリスの姿が見えてくるはずである。今まで気づかなかった、自然保護の問題や新しいアイデアを得ることもできるだろう。
 まずは、ページをめくってエッセーを楽しんでほしい。読みすすめるうちに、遠い昔からイギリスという国を知っているような気分になってくると思う。そして、読み終わった時に、「私もこんな経験をしてみたい」と思ったら、巻末の情報ノートを見てほしい。本文の中で紹介したすべてのホリデーを実現させるために必要な情報を掲載してある。
 この本の各章に記述したホリデーは単なるおとぎ話ではない。誰もが、同じ場所に行き、同じものを目にし、同じ匂いをかぐことができ、簡単に「イギリスで楽しむグリーンホリデー」の主人公になることができるのである。旅程の全部を使ってもいいし、一日でも半日でもいい。イギリスに行く機会があったら、少しでもその自然美に目をやってほしい。また、自然を守るために日々努力している人々の力になってほしい。
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