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エコシステムマネジメント

【内容紹介】●本書「おわりに」より


 今日の自然資源管理のあり方は根本的に問いなおされている。それは単に、技術的な問題にとどまるものではなく、社会や経済のあり方、自然と人間の関係のあり方自体が問題とされている。そうした点で、地球温暖化・廃棄物・エネルギーなどと共通の問題基盤をもっており、持続可能な社会の構築という大きな課題の一環をなすものといえよう。
 こうした課題を達成するためには、人々の「意識改革」と、社会経済構造の根本的な転換が必要とされるが、当然のことながらそれは一朝一夕に可能なものではない。現実を踏まえたうえでの着実な歩みが求められているが、それはこれまで経験したことのない領域に踏み込むことを意味しており、手探りで進むことを強いられることとなる。
 日本における持続可能な社会構築へのあゆみは、残念ながら遅々としたものである。政策形成にしても、専門家の育成にしても、社会運動の広がりにしても他の先進国に大きく後れをとっていることは疑いようがない。一方、後れをとっているということは、他国でどのような試みが行われ、それがどのような成果をあげ、どのような問題を残したのかを学ぶことができるという利点をもっていることも意味している。そしてその「利点」を最大限生かすためには、他国の試みをお手本としてまつりあげるのではなく、その成果と問題をリアルに見極めることが重要である。
 私は、これまで国内外で数多くの自然資源に関わる専門家・研究者、あるいは市民活動家に対する聞き取りを続けてきたが、多くの人が共通して語っていたのは「こうすればうまくいくということはいえない。これをやってはいけない、これに気をつけなくてはいけない、ということならいえる」ということだ。最先端にたって道をきりひらいている人々の活動をマニュアル化することは極めて難しい作業であるし、後に続くものがマニュアルどおりにやってうまくいくような、なまやさしい仕事ではない。そうであるなら、こうした人々の仕事を「お手本」として学ぶというよりは、その人々の「苦悩」を理解できるようになることが大切なのではないだろうか。
 本書は、アメリカ合衆国自然資源管理に携わる人々の「苦悩」を描こうとしたものである。合衆国の自然資源管理は長い実践の蓄積、活発な研究活動、強い影響力をもった環境保護運動が相まって、世界でも最前線の試みを展開してきた。そのなかで、それに関わる人々は、新しい考え方を実行するための政策や計画を作成するために産みの苦しみを味わい、実行するにあたっては社会的・制度的な軋轢や不確実な科学知識に翻弄されてきた。彼らはどのようなことに悩み、それをどのように解決しようとしているのだろうか。この悩みを「共感」できるようになること、そのなかで持続可能な社会を構築する道すじを探ろうとすることが本書の目的である。これから本格化するであろう日本における自然資源管理の転換において、何らかの参考になれば幸いである。
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