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開発プロジェクトの評価 公共事業の経済・社会分析手法

【内容紹介】●本書「序--石塚喜明(日本学士院会員・北海道大学名誉教授)」より


 開発途上国に対してなされている国際機関および先進国の政府開発援助(ODA)が、著しい成果をあげていることは多くの人の認めているところである。しかし、開発途上国に対する各国の対応はそれぞれ異なっており一部批判の対象となっていることも事実である。
 このような状況下において、1997年の我が国のODAの実績額は93億5480万ドルであり、7年連続世界第1位となっている。従って、この中で開発プロジェクトの占める割合も高く、そのプロジェクトが実際に実現可能か否かの点は経済・財務サイドの査定によって決定されることとなる。
 この場合、開発プロジェクトの経済・財務評価の方法は主として世界銀行、国連等の国際機関の主導によって開発され、先進国のODAもそれを基準としており日本の国際協力事業団もその例に漏れない。しかし、その方法が、背景をなす理論も含めて、十分に理解されていない事例が多々見受けられる。
 著者等は各国の開発プロジェクトに長年携わってきており、本書は彼らの豊かな実務経験に基づいて書かれたものである。加えて、著者の一人の尊父は北海道開拓の初期、今日の酪農地帯である根釧原野が熊の王国であった時代から北海道開拓の先駆者として活躍された方であり、行政の立場のみならず、そこに生活する人々の立場をも良く理解されたヒューマニズムの精神に富んだ方であった。著者はその背中を見て育っており、その精神は脈々と受け継がれているものと考える。
 他の著者の一人は外地(台湾)育ちであり、学生時代から海外志向が強かった。大学卒業後はコンサルタント会社にて、途上国の開発プロジェクトに関わる業務に従事したが、その後世界銀行に転じ、南アジア地域の開発プロジェクトを担当し、多くの成果をあげたとのことである。
 このように、本書は適任者の手になるものであり、開発援助に携わる方、あるいはこの方面に興味を有する方に、是非一読をお勧めする次第である。
【内容紹介】●本書「あとがき」より

 発展途上国における開発プロジェクトが、世界銀行、アジア開発銀行等の国際機関および先進諸国の、いわゆる「政府開発援助」(ODA)によって、本格的に開始されたのは1960年代である。爾来、40年近くの歴史を経て、開発援助は質量ともに飛躍的に向上・増大するに至った。
 プロジェクトの評価に関する理論および手法も、この開発援助の歴史と轍を一つにして発展してきたといえる。当初は、理論もないに等しく、経済分析と財務分析の区別さえも明瞭ではなかったように記憶するが、その後、1970年から80年代にかけて、主として、世界銀行、国連等の主導によって、理論の構築、手法の開発が目覚ましい速度で行われた。「外部効果」「シャドウ プライス」「機会費用」「変換係数」等、今日、世界で適用されている主要な概念の、ほぼすべてが、その当時に導入・確立されたものといってよい。
 今日では、国際機関、政府間援助を問わず、すべての開発プロジェクトが、これらの概念に基づく共通の理論・手法にしたがって評価されているといって過言ではない。当然のことだが、日本のODAも例外ではない。したがって、これらの概念も日本のODA関係者にとって決して目新しいものではなく、手法(計算自体は極めて簡単であることも相まって)も広く普及しているといえる。しかし、概念と手法の基礎をなす理論が正確に理解されているか否かについては、疑問なしとはしない。なぜなら、巷間、手法の誤用、用語の誤解釈が多々見受けられるからである。
 本書がこれらの是正にいささかでも貢献できれば著者らにとって最大の喜びである。また、従来、日本ではこの種の評価をあまり重視しない風潮があり、極端な場合には、「IRR等は鉛筆を嘗めれば、どのようにでもなる」等と豪語する向きもあるが、これほど理論無視、独善的な態度もないであろう。もちろん、現在行われている評価理論・手法にも問題がないわけではないが、それらは改善・克服すべきものであり、評価そのものを無視・軽視してよい理由にはなりえないこと自明であると思われる。本書を通読することによって、評価の重要性に対する認識が高まることを著者らは強く望んでいる。
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