半農半林で暮らしを立てる

半農半林で暮らしを立てる資金ゼロからのIターン田舎暮らし入門

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市井晴也［著］
1,800円+税　四六判並製　184頁+カラー口絵24頁　2020年3月刊行　ISBN978-4-8067-1595-5

28歳で新卒の新妻と手ぶら（貯金ゼロ）で
東京から積雪4ｍの新潟・魚沼の山村(旧守門村)へ移住して25年。

顧客をガッチリ掴んだブランド米作り・みそづくりと林業で
子ども3人を育て上げ、自宅は地元材でセルフビルド。

国土の7割が森林におおわれた日本列島で自然によりそって暮らすには、
「半農半林」が最も自然なのでは、と語る著者が、
あなたにもできる
『動物たちに囲まれて、大自然に抱かれて、ゆったり子育て、通勤ラッシュなし（腰痛はあり）』
の暮らしぶりを描く。

著者紹介

はじめに

28歳の時、炭焼きと農業をしようと魚沼の山の中へ移住を決めた。

東京で悶々と暮らしながらも、ちゃっかりと付き合っていた彼女は6歳下で大学卒業を控えていた。北海道の福祉施設に仕事も決まりそうだった。さすがに無理強いはできないので、一応「自分はこうするつもりなんだけど一緒に行く？」と聞いたら「行く」と言う。うかつにも。

就職先に対する躊躇や田舎暮らしへの憧れもあった模様。

驚いたのは彼女の親。特に会社の経営者である父親。
「炭焼きしたことあるんですか？」「ないです」
「農業したことあるんですか？」「ないです」
「大丈夫なんですか？」「は～、多分」

ひどい話だ。こんなわけの分からないのに、大学まで育て上げた娘を山の中へ連れていかれてしまうのだ。しかもあるのは急遽取った車の免許のローンだけ。でもあからさまな反対はされなかった。懐大きい。彼女の母親も応援してくれてありがたい限りでありました。

私の親も驚いていたに違いない。私が教員免許を取得していたので学校の先生になるとばかり思っていた様子。
「どうせすぐ帰ってくるんだろ」と父親。
「言っても聞かないから」と母親。
長男なのにごめんなさい。1995年からこれまで、実家に帰りたいと思ったことはありません。

結婚しないで、彼女が大丈夫かどうか一緒に来てしばらく試した方が良いんじゃないかと提案したが、それはならないということで、結婚。結納なし。指輪なし。彼女の親父さんの望んだ赤いじゅうたんを歩く華々しい結婚式もなし。これを読んでいる人の同情の声が聞こえてきそう……。

食うや食わずになるのも覚悟で来た山の中。予想外の普通っぽい暮らし。ここで授かった子ども3人も大きくなった。クワもナタも持ったことのないやせっぽち夫婦が山の中でなんとか暮らしていけている理由を考える。もちろん親や周りの人の助けがあったのは言わずもがな。それだけでなく、ここには作物を作るために先人たちにより培われてきた田畑があった。薪や仕事や食材を生み出す山々があった。

明らかに「地の力」があったのだと思う。

私たちはたまたまこの土地であったけれども、元来日本の地には人を養える力がきっとある。海も含め。第一次産業は国の根幹だと思ってきたけれど、それは同時に個々の生活の基盤となるわけで、うちの暮らしが成り立っているのもその証しの一つ。

農林業を生業（なりわい）にするのは時として大変なことのように思われるけれど、ノルマはないしその人なりのペースで成長すればいい。そもそもどんな仕事でも大変だし、誰かにやらされるのではなく、自分の意思でやることは、うまくいかなくてもたいていのことは納得できるもの。自分の活動が直接生活に響くのは実に分かりやすい。農業に携わると自然に添うことで暮らしは展開していく。やるべきことが目の前に見えてくるから、ある意味、迷いがなくて済む。飢え死にすることもない。田舎では住処（すみか）も安く手に入る。今は雪国でも出稼ぎをしなくてよくなったし。

自然の豊かな日本列島は本来、農林水産業で人間を維持させることが得意なのではないか。うちはそれに乗っかった。良かった。山に生かされている。この地特有の職業、かつてはたくさんいた林業との兼業農家はもはや絶滅危惧種。そこにはやりがいと中山間（ちゅうさんかん）地における活路が潜んでいるんじゃないか、と私は思っている。