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防災学原論

ベン・ワイズナーほか(著)
岡田憲夫(監訳) 渡辺正幸,石渡幹夫,諏訪義雄ほか(訳)

28,000円+税 A4判変型/上製 384頁 ISBN978-4-8067-1412-5


『自然災害』という言葉は、一般に、地震・台風・洪水といった『自然現象』そのものと同じ意味で用いられている。
しかし、自然現象である加害力のマグニチュードがどれだけ大きくても、人間社会側の対抗能力が大きければ、決して災害にはならない。

人々を死に追いやってしまう仕組みとは何か。
何が人間の社会を『脆弱』にしているのか。

防災は、単なる一特殊分野の専門家にゆだねられる事業ではない。社会全体に関連する根源的な問題を含む事業である。
『脆弱性の根源的な原因(root causes)』と『危険な環境(unsafe conditions)』、『資源や機会の得やすさ(access)』と『生業(livelihood)』という二つの概念から得られた分析成果を用いて、より安全な社会を作るための指針を示す。


【本書の特徴】
●アジア、アフリカ、ラテンアメリカなど各国のさまざまな災害事例を取り上げ、加害力の種類ごとに詳述している
●災害に対する脆弱性の現状、対応、問題点等を分析・追究している
●地域社会における防災政策、脆弱性削減への具体的な指針を示す

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【内容】


【目次より】
第1部 全体の枠組みならびに基本となる考え方
  第1章 防災・減災のための事業と我々のアプローチ
       防災の核になる概念
       これまでの災害の理解の仕方
       脆弱性とは何か
       基本的な考え方と脆弱性の類型
       多様で重い意味を持つ脆弱性(vulnerability)という術語
       リスク社会とは
       脱構造主義アプローチ
       日常の平穏な生活の中にある脆弱性
       第1版以降の変化
       国際防災の10年事業(IDNDR)
       都市化の進行と増大する都市問題
       地球環境に関する関心の変化
       『予防』という概念の出現
       経済の国際化に対する批判
       人間開発と福祉に関する変化
       戦争と人道支援
       報道と政策の偏向
       概念の定着と批判
       概念の定着
       本書に対する批判
       本書が意図している読者層
       本書の構成と内容
       本書の内容の限界と用いている仮定
       スケールの限界
       生産技術に起因する加害力
Box 1.1 災害の原因の自然性と人為性


  第2章 加害力を災害にする圧力ならびに減圧策の一般モデル
       脆弱性の特質
       二つのモデル
       災害の増圧と減圧モデルで用いる原因と結果について
       因果関係の連鎖――災害の増圧と減圧モデル(PAR)の説明
       時間とともに変わっていく危機的な状況(unsafe conditions)
       我々の知識の限界
       防災努力の世界的な傾向と動的な圧力
       人口の変化
       都市化
       戦争――脆弱性を大きくする重要な圧力要素
       国際化する経済による圧力
       農業政策の逆行性と生計手段の多様化
       資源の消耗
       地球規模の環境変化
       PARモデルの活用
Box 2.1 ダッカに住む土地なし住民
Box 2.2 カラコルム地域でみられた家屋の倒壊
Box 2.3 災害統計の問題点
Box 2.4 年齢構成と加害力に対する脆弱性


  第3章 資源へのアクセスと逆境の克服  
       防災資源をどのようにして獲得するか――はじめに
       アクセス・モデルの目的
       アクセスに関するさらに詳しい検討
       1994年以降に得られた新しい発想
       平常時の生活――アクセス・モデル――
       世帯と政治経済分野におけるアクセス
       日常生活が災害に変わる過程
       加害力の時空間的な変化
       時間の要素と災害
       第一撃の後に災害が深刻化していく
       アクセスと事態の推移ならびに安全
       対処能力(coping)と安全へのアクセス
       対処行動(coping)を定義する
       対応戦略のさまざまなタイプ
       災害抑止戦略
       被害を最小化する方法
       食糧の貯蔵所を作ることと売れる物を作ること
       生産を多様化する
       収入源の多様化
       社会的な支援のネットワークの構築
       災害後の対処戦略
       危機対処能力と脆弱性分析
       対処戦略と災害への移行
       研究の枠組みとしてのアクセス・モデル


第2部 加害力に対する脆弱性と加害力のタイプ
  第4章 飢饉と自然災害
       はじめに
       飢饉とその原因
       飢饉の説明
       ネオ・マルサス主義の説明
       環境論を用いた「供給側」の説明
       飢饉の経済理論
       複合災害と政策飢饉と人権
       原因と圧力ならびに不安全な条件,そして飢餓
       アクセスと飢饉
       政策
       早期警報システム
       生計手段を強化する
       草の根レベルの飢饉対応
       結論
Box 4.1 マラウイ共和国の飢饉(2002年)


  第5章 バイオハザード(生物起源の加害力)
       はじめに
       人の健康と日常生活と脆弱性
       バイオハザードとは何か
       バイオハザードに対する対応の限界
       生物が媒介する多様な加害要因
       生業とその基本である資源ならびに病気
       アクセスする・アクセスできるということ
       脆弱性が作り上げられていく過程
       環境の微視的な要素
       人口移動と生物起源の災害
       地域に特有の物理的環境
       生物起源の加害力に対する抵抗力に影響する圧力
       遺伝子レベルの対応能力
       環境と文化による防御
       根源的な原因と圧力
       アフリカにおける生物起源の加害力と脆弱性
       リスクを削減するための具体的な行動
       初期の成功事例
       政策を策定するための指針
       危機の予知に役立つ科学
Box 5.1 1845年から1848年の間に起きたアイルランドのジャガイモ飢饉
Box 5.2 アフリカのHIV-AIDSの問題


  第6章 洪水
       はじめに
       洪水災害,これまでの課題と考え方の変化
       リスクとして認識されている洪水
       治水のパラドックス(治水対策が抱える矛盾)
       天然ダム
       鉄砲水(フラッシュフラッド)と地すべり災害
       災害が脆弱な人々にもたらすもの
       死亡, 疾病そして負傷
       暮らしの崩壊
       結論 洪水と脆弱性
       洪水の抑止と被害軽減
       草の根の被害軽減
       公助と洪水予防措置
       洪水の減災と事前準備
Box 6.1 1998年の中国における洪水災害
Box 6.2 『小さな』洪水 ――隠れて見えにくい問題――
Box 6.3 バングラデシュ――洪水に対する脆弱性を減少させることと洪水を防止することは同じではない――
Box 6.4 洪水被害と森林伐採――因果関係に関する論争


  第7章 高浪による海岸地域の災害
       はじめに
       加害力の物理的特性
       脆弱性の実態
       現代における沿岸部への定住とサイクロンの加害力
       海岸地域の住民の生計
       事例の紹介
       過疎地域の海岸  内陸山地の農村
       海岸に立地する人口過密地域
       インドの場合
       バングラデシュ
       フィリピン
       メキシコ
       島々と小島嶼国
       フィジー
       キューバ
       対応政策


  第8章 地震と火山活動による災害
       はじめに
       地震に対する脆弱性を決定する要素
       日常における資源へのアクセスと災害事態への変移
       古典的な研究事例:グアテマラとメキシコ市  
       グアテマラ地震,1976年2月4日,午前2時58分
       メキシコ市の地震, 1985年9月19日,午前7時00分
       土地の工学的性質と土地利用の歴史的経緯
       危険度の大きい建築物
       高い危険度に曝されている人々
       危機にさらされる地域社会の経済
       最近の事例に関する研究
       阪神淡路大震災,1995年1月17日,午前5時46分
       社会的脆弱性:社会的ハイリスクグループの存在
       危険な住居
       経済的脆弱性
       防災対策の失敗
       コミュニティの抵抗力
       グジャラート地震,2001年1月26日,午前8時45分
       社会的脆弱性:脆弱性が大きいグループの存在
       危険な建物
       経済的脆弱性
       コミュニティの抵抗力
       火山と災害
       コロンビアのネバド・デル・ルイス(Navado del Ruiz) 火山の噴火,1985年11月13日,午後3時15分
       モントセラット(Montserrat)火山の噴火(1995〜1998年)
       地理的条件と脆弱性
       ハイリスクグループの社会的脆弱性
       増大する危険度
       経済的な脆弱性
       防災事業の失敗
       生計と警報と統治と火山
       社会的脆弱性――高いリスクを抱えたグループの存在
       危険度を大きくする条件
       経済の脆弱性
       保護対策の失敗
       コミュニティの抵抗力
       対応政策と減災
Box 8.1 阪神淡路大震災にみる脆弱性の生成と増大過程
Box 8.2  脆弱性の増大過程――グジャラート地震災害の場合
Box 8.3 モントセラット火山噴火災害の時系列推移
Box 8.4 災害にみる脆弱性の増大過程


第3部 安全で安心な環境を作る
  第9章 安全・安心な環境
       『安全・安心な環境』は空手形か
       横浜からジュネーブを経てヨハネスブルグへいたる道のり
       1994年の横浜会議
       1999年の IDNDR 計画のフォーラム
       2000年に発表されたミレニアム宣言
       2002年にヨハネスブルグで行われた持続可能な開発に関する首脳会議
       リスク削減という目標  
       第1番目のリスク削減目標
       第2番目のリスク削減目標
       第3番目のリスク削減目標
       PARモデルを逆行させるためにどのような統治をすればよいか
       第4番目のリスク削減目標
       第5番目のリスク削減目標
       第6番目のリスク削減目標
       復旧とはどういう現実か,復旧にはどれほどの時間がかかるか
       復旧すれば生業は強くなるのか
       災害復旧は持続的発展につながるものか
       復旧事業は動的な圧力と災害に対する脆弱性の根源的な原因を削減する効果を持つか
       第7番目のリスク削減目標
       住民参加の前提条件
Box 9.1 オーストラリアの防災対応 
Box 9.2 より安全な世界を築くための4項目からなる計画
Box 9.3 中米諸国で行われた復旧事業は総合的に行われたか
Box 9.4  1993年中国安徽省で起きた洪水災害からの復旧
Box 9.5 2000年に起きたモザンビーク洪水災害からの復旧


【訳者まえがきより】


雨が降るという自然現象の後に起きる災害は、明らかに『人災』であった。人災は、人間が考え方と振る舞いを改めれば、防いだり損害を軽くすることができる。
自然現象を災害に変えて災害死の順番待ち行列が長くなる原因は、人とその社会がつくる脆弱性である。したがって防災と減災は、脆弱性を減らす努力をすれば可能なのだ。
――渡辺正幸(国際社会開発協力研究所 代表)


 世界でも有数の、自然災害の発生と被災を経験してきた国であるにも関わらず、防災を互いに議論し、検討するための日本語が、我が国には不足しているのである。邦訳された本書はその点でまず、防災の共通語や概念を豊かにすることにつながること請け合いである。つまり防災に従事したり、関心を寄せたりするいろいろな職種や立場の人たちに、母国語であっても、もっと明瞭な言葉の使い方と厳密性の高いコミュニケーションを促すための共通の語彙を豊かにするガイドブックとなりうる。
――岡田憲夫(京都大学防災研究所 所長/教授)