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みんなの保育大学シリーズ3
手のうごきと脳のはたらき

【内容紹介】本書「手と保育の問題」より


 手、指の発達のおくれはなんらか脳の発達のおくれにつながっている場合が多く、「手はつき出た脳ずい」ということがうなずかれる。
 ところが最近は、健常児として生まれてきた子どもたちのなかに、この手指の開きや操作のおくれなどの子どもが見えるようになってきた。ハイハイさせても手指を開かず、握りこぶしで床についていたり、ぞうきんがけのとき、布を指先を使わず手首のところで押したり、でんぐり返りをするとき、手の甲を床につけたりする子どもが何人も観察される。こうした子どもたちは、やはり他の面でも同年齢の子どもたちにくらべて劣りが見え、「手」だけでなく、足うらの土ふまずの形成もおくれが見える。ペタペタと足うら全体をつけて歩く。両足を床から同時にあげてピョンピョンとぶウサギとびのときも、爪先だけでとべず、足うら全体を床につけてとぶ。アヒル歩きでも、かかとがあげられない。腰をあげての高這いでもかかとをあげられず、足うら全体をつけてしまう。したがってひざが曲がるなど観察され、描画の線は弱く、内容も幼いことがわかる。集中力も弱さがみられる。
 これらの子どもたちの母親の妊娠時、出産時の調査表をみると、ほとんどが、貧血、中毒症、尿蛋白がでた、などの記載があり、出産の際は陣痛微弱のため促進剤の注射をうけたり、吸引分べん、帝王切開であったり、早期破水、羊水のにごりがあった、等々、あわや障害につながりかねない危険な出産であったことも記載されており、おどろくのである。このことについては「こどもの発達とヒトの進化」でもふれたが、母体のほとんどが、無事に胎内で子育てができる状態ではなくなってきていることを物語っている。
 発達のおくれを早期に発見し、そのおくれを克服させ発達をうながしていくための方法は、ヒトの子を科学の目を通してとらえ直し、生物の進化にまでさかのぼって、その進化のみちすじを学ぶことによって、あるいは探り出していくことができるかもしれないと考えるからである。私はこのことによって、子育てのうえに、障害児保育のうえに、すばらしいヒントを得ることができた。
 たとえば満4歳をすぎた重い脳性マヒの子どもは、入園した当初は、手指も足指も硬直して内側に曲がりがちであった。が、私が芝生の上にあおむけに寝た子どもの両足首をもって、魚類の前身運動をまねて、くねくねと背骨をくねらせてやると、それは気持ちよさそうに目をつむり、ウトウトしていたが、やがて硬直状態の両手、両足の指がやわらかく開き、いままで、足の親指をそらせて地につけることができなかったのに、素直に開いて、親指を地につけ、手をひっぱると立ち上がろうとしたのに、私自身もおどろいた。
 生き抜くために、さまざまに自らの体を変えてきた長い生物の歴史は、学べば学ぶほどおもしろいが、単に興味あることとしてだけでなく、私たちにとって、すべての子どもの発達の可能性の展望をきりひらいてくれるものである。
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