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[新]文明のなかの未開 レリックの世界

【内容紹介】●本書「はじめに」より


 この地球上には、なんと多くの生物が生きていることであろう。その数は既知のものだけでも150万種以上、最近の推定では1000万〜2000万種にもおよぶであろうといわれている。これらすべての生物は、みなそれぞれ長い時間をへた進化の道筋のなかであらわれ、現在にいたっている。
 そのような生物界にあって「生きている化石」(レリック)と呼ばれている生き物がいる。過去には繁栄していたが、その後いろいろな原因で衰退し、現在もなお細々と生き残っている生き物のことである。かといって、今にも死に絶えてしまうといったものではなく現在も子孫を残しながら、生物界の一隅をしめて、その立派な構成員として生きているのである。
 これらの生物が過去にはこの地球上で栄え、世界のどこにでも見かけられたふつうの生き物であったことは、世界各地から産出する化石の記録をとおして知ることができる。
 このように現在の生物界は、今この世界各地で栄えている種類ばかりでなく、過去のいろいろな時代に栄えて、その当時の栄華をしのばせながら、なお生きながらえている数々の生き物もその仲間に加えたものからなっているのである。おかげで、私たちはこうした生き物を通じて、過去のある時代に栄えた生物について、化石よりももっと生々しくくわしい情報をえることができる。
 いっぽう、生物界における「生きている化石」と似たような事柄は、生物界の一員であり、その生物界での長い進化の果てに出現した、私たち人間自身の中のいろいろな面にも見いだすことができる。
 本書の第1章では、いろいろな地質時代にあらわれ、その時代を生き抜き、そして現代にも生きる数々の生き物のなかで「生きている化石」にあたる例をまず紹介することにしたい。
 第2、3章では、この「生きている化石」の人間版を紹介することにしたい。すなわち、私たち人間の社会や心の中にも、生きている化石に似た、今では時代遅れとか、幼稚などと感じられるような、社会の仕組みや心の状態が生き残っていることを紹介したい。
 第2章では、世界各地に散見する先住民の生活を調べることによって、現代人の祖先が通過したであろう社会発展の歴史の一こまをうかがい知ることができるものである。これは現代の人間の共有する貴重な遺産であり、このような経歴を経ることなく、現代人の今日はなかったものであることを察知していただけるものと思う。
 第3章は人間の「心」の中にある「生きている化石」である。それは心情の世界に属する事柄であり、母性愛のようなものもその一部であろう。世界の人の誰もが共通に感じるもの、あるいはアジア、日本といったところにだけ共通するもの、あるいはある時代に特有であったものなどいずれも、人類出現以来の「心の進化」に起因するものであることも理解していただけると思う。
 このような、数々の例をみなさんに提示し、あらためて、ご自身の内なるもの、身近なものを見直してみる機会になれば、この上ない喜びである。
 巻末には、参考までに社会や植物や動物のレリックの一覧表などを付したので、参考にしていただければ幸いである。
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