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河川の生態学

【内容紹介】●本書「補訂版への監修者の序文」より


 本書はもともと「生態学研究シリーズ」の一巻として1971年に刊行され、そのあと版を重ねてまいりましたが、ここ数年は品切の状態が続いておりました。しかし最近になって復刊の要望が強いので、その要望にこたえて復刊をすることになりました。
 20年も前の本をという感じをおもちの方もありましょうが、河川の生態学についてこのようによくまとめられた本はその後もでていません。
 一方において、その後、河川の環境問題がぞくぞくとあらわれ、本書に記されているような河川環境と生物群集に関する基礎的な知識の必要性が痛感されるようになってきました。
 水の文化情報誌といわれる「Front」の1990年5月号に私は「川を守るとはどういうことか」というエッセーを書いたことがあります。上高地の梓川で洪水防止のためにいくつもの堰堤を作ろうという案がおこったのですが、上高地の特色ある景観を作っているケショウヤナギやハンノキの林は氾濫原の植生ですから、コンクリートの護岸と堰堤で固めてしまえば上高地的景観はやがて消滅するであろう、というのがその一つの内容でした。
 また私の住んでいる千葉県のあちこちの小河川に住んでいた国の天然記念物のミヤコタナゴが最近絶滅に瀕しています。環境庁が編した「日本の絶滅のおそれのある野生生物、脊椎動物編」にものっており、「栃木県、千葉県、埼玉県にわずかの生息地を残すだけとなった」と記されています。
 水田の間にちょろちょろと流れているような小川に、かつてはふつうにみられたものですが、マツカサガイなどの二枚貝に卵を産みつけて繁殖するので、これらの条件を充たすところでないと棲めません。ところが、農業生産を高めるための農業構造改善事業に伴って、水路の直線化ないしは人工河川へのつけかえ、洪水防止のためと称して、小川の場合でもコンクリート三面ばりで、少なくとも120センチメートルの垂直の側壁をつけることなどで、ミヤコタナゴは生息できなくなってしまいました。ここには二つの、私が経験した例をあげるにとどめますが、長良川の河口堰など多くの問題が未だに解決をせずに尾を引いています。
 本書が、河川生態の問題に関心のある多くの方々に少しでもお役に立てば誠に幸いだと思います。
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