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日本人はどのように森をつくってきたのか

【内容紹介】本書「訳者まえがき」より抜粋


 育成林業はいま崩壊の瀬戸際にある。かつて「世界に冠たる」と言われた人工林林業がなぜ崩壊することになったのか。列島の森林と林業はこれからどうあるべきか。将来を展望するには、何よりも過去を顧みて歴史の大きな流れをつかまなければならない。それはまた現在の問題に照らして過去の歴史を解釈し直すことでもある。本文に先立って差し出がましくこの「訳者まえがき」をつけたのは、現在の日本がどのような森林・林業問題に直面しているかを大急ぎで概観し、本書を読む視点のようなものを読者諸賢に提供したかったからである。
 原著は「緑の列島」というタイトルで1989年にカリフォルニア大学の出版局から刊行された。有史以来明治維新までの日本の森林と林業の歴史を包括的に扱った著作として国際的に評価が高い。英語で書かれた類書がないだけに、出版されて以来この分野の必読文献となり、独占的な地位を確立している。それと同時に近世日本林業の世界的な再評価にも一役買ってきた。
 日本列島におけるヒトと森との歴史的なかかわりについて、近年の研究成果を広く取り入れながら、その全体像を鮮明に描き出した「通史」としては唯一のものである…(中略)…もう一つ無視できないのが視点の新しさである。
 ここでは森林の問題が、基本的にはエコロジーの問題としてとらえられているように思う。人口が増え、経済活動が盛んになれば、森が開かれて農地になり、奥地の山林からも大量の木材が伐り出されるようになる。やがて木材不足が起こり、自然植生の減少と生態系そのものの貧弱化が進展するだろう。こうした問題に直面したとき社会はどのような反応を示すか、それを日本について検証したのである。いうまでもなく、生態系の劣化とその回復をめぐる問題は、いわば人類共通の問題であり、そのような視点から日本の森林史を見直したところに本書の最大の意義があるように思う。
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