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東京湾シリーズ
東京湾の歴史

【内容紹介】本書「東京湾シリーズ監修の序」より


 東京湾は、古東京湾から現東京湾にかけて注目すべき位置にあり、地形、地質、気象、生物相、人々の生活、開発、環境問題などについて多くの研究が行われてきた。ことに近年は人間生活の影響によって、人工海岸が増大し、海に面した陸域の土地利用状況では市街地・工業地が増大した。房総半島南半部の湾岸都市の過去10年間の土地利用の変化は、もっとも激しい市では50%であり、その約半分は都市化、後の半分はゴルフ場化によるものであった。
 東京湾域でも東京は一番奥まったところにあるが、神奈川県、千葉県は南部を黒潮に洗われ、広義の黒潮文化圏に属するといえよう。富津岬を坂井にして、東京湾は内湾と外湾に分けられるが、関東大震災後洲が隆起して、第一海堡(明治時代に作られた人工島)との間に真っすぐな洲を作っていた。第一海堡や第二海堡は明治時代に東京湾要塞として構想されたが、第二次大戦後はその付近に米軍の敷設した機雷が1000個以上もあったという。
 その後千葉県側の京葉工業地帯の埋め立てがすすみ、また湾の南岸のコンクリート防波堤やテトラポットの配置により、外湾と内湾の海流のバランスがくずれ、今日ではくねくねと曲がった洲により、第一海堡との連絡も切れてしまった。
 この富津岬の北岸は内湾型の植生、南岸は外洋型の植生で、海流がもたらしたこの特色のある植生配置から早く県の天然記念物指定された。しかし人の住んでいない洲に砂防造林を拡大し、天然記念物の、全国でも珍しい植生は破壊された。一方、南房総国定公園という自然公園であるところに、後から都市公園の網をかぶせ、展望塔、舗装道路、プールなどで自然公園は名ばかりのものになってしまった。このようないろいろの形の自然破壊は一例にすぎないが、今後のために一言ふれておきたい。
 東京湾をめぐる交通網としては、湾岸道路の他東京湾横断道などがすすめられ、それらに関連して、わずかに残された干潟、浅瀬が危機にさらされている。東京湾と陸域をあわせて、今後はどのように対処していくか、諸種の計画の見直しが必要であろう。とくに最近は阪神大震災のほか、関東地域でも地震が次々起こり、また、かつて計画された世界都市博覧会の中止、東京の生命線といわれる東京湾埋立て処分場、臨海副都心に森をつくろうという提案など多くの問題をかかえている。かつて東京の半分を埋立てたり、東京湾と太平洋を水路でつなぐ計画が提案されたことがあったが、このシリーズが、東京湾の今日の姿とかかえている問題点を検討する上での大きなより所として役立つことを期待したい。
【内容紹介】本書「はじめに」より

 東京湾の水土と文化は多彩な年輪を秘めたまま変化を続け、普通の人たちとの縁が極端に薄くなってしまい、共生してきた日がなつかしい。「東京湾シリーズ」が企画され歴史編を担当することになり、まず冒頭のことを連想しながら構想を固める努力をしてきた。
 こうして近い過去の文化史に重点をおきながら、「江戸前の形成と生活史」と「東京湾の生活と光景史」を考察することにした。それぞれ分担をお願いする際に提示したことは、東京湾の水土に関連した普通の人たちの日常的な文化史のとりまとめであった。さいわいにも執筆分担者の合意と協力を得ることができ、東京湾の海上と沿岸での文化史が提供できるようになった。これまで東京湾総体の歴史を解明した成果は極めて少なく、編者としては視点と課題の具体化のために苦心をした。
 歴史とは背にまわった未来だと教えられてきたが、本書で解明された東京湾と人間の共生の歴史はこのことを証明している。これこそ最大の東京湾の効用であり発見であるかもしれないが、共生を基本にした新東京湾文化の創造にはこのことは重要である。しかも久しい間ひそかに地域学としての東京湾学を構想してきたが、ようやくこの可能性まで実感することができた。
 東京湾の風に吹かれながらの探索と思索の成果提供に感謝しながら、本書が東京湾の再発見に役立ち、社会的な認知が得られるよう念願している。
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