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アマゾンの畑で採れるメルセデス・ベンツ [環境ビジネス+社会開発]最前線

【内容紹介】本書「まえがき」より


 森林を破壊せずに、守り、再生していく。そしてそのことが、地域住民の経済的な自立と付加価値の高い高度な産業活動に結びついていく。アマゾンの奥地で始まった一つの試みは、森林保護か産業開発かという二者択一の選択肢に縛られた硬直的な考えから、私たちを解き放ってくれるかもしれない。
 農産物を自分たちで加工することで、アマゾンの小規模な農民は、安定した収入を得ることができるようになった。荒れていた農地は多種類の有用樹と作物を植えられて豊かな土壌を取りもどしつつあり、新たに熱帯林が焼かれることもない。そしてメルセデス・ベンツ社は、従来よりもコストが低く高機能の素材を手に入れることになった。クルマは鉄とプラスチックなどからできている。プラスチックを焼却することで発生するダイオキシン問題一つを考えても、リサイクルできるクルマづくりはどこのメーカーでも必至の命題だ。
 軽くて丈夫でリサイクル可能なクルマをつくり、軽量化によって燃費も向上する。そして、そうしたクルマづくりをすることが、アマゾン奥地の農村に職をもたらし、持続可能な村落開発を可能にする。そんなうまい話があるのだろうか。その試みをポエマ計画という。
 ポエマ計画では、「援助」ではなく、アマゾンの農村の村人たちと対等なビジネスパートナーとして取り引きするという。ドイツ最大規模の企業とブラジルの小農民が対等にビジネスするとは、にわかには信じがたかった。だがそうした興味をきっかけにポエマ計画について調べ始め、現地での調査も重ねた。
 取材してみると、そこには確かにアマゾンの熱帯林保全や第三世界の農村開発を進めるための、きわめて重要なコンセプトが見事に取り入れられ、実践されていた。それだけでなく、外国企業のいわゆる開発途上地域への直接投資や現地生産システムのあり方を考える上でも参考になることが多かった。参加型の社会開発と結びついた対等なビジネス関係を築くことは可能である、との確かな感触を得ることができた。
 その意味で、本書は環境保全や国際協力に関心をもつ人のみならず、自動車産業などのビジネスに携わる人たちにも読んでほしい。また、ここで紹介する地域開発の方法は、日本の行政機関や自治体などにとっても参考となる部分が多々あろう。
 ともあれ、ここはとりあえず、ポエマ計画が「持続可能な開発」の成功例だとか何とか、堅苦しい話はさておいて、この本を読む数時間のあいだ、スリリングで楽しい時間をすごしていただければ、このうえない幸せである。
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