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森なしには生きられない
ヨーロッパ・自然美とエコロジーの文化史

【内容紹介】●本書「訳者まえがき」より


 20世紀の社会や経済、文化を支配した内外の大きな枠組みが世紀末にいたって音を立てて崩壊している。そしてまた、差し迫った問題としてバブル経済とその崩壊でさまざまな面でいたんだ日本をいかに立て直すべきかが問われている。そうしたなかで、この国のかたちがどうあるべきかという議論がこのごろ盛んに行われている。
 まさにその意味では国の基本である自然、生存の基盤であり文化の母胎である自然、森とわたしたち一人ひとりの関係がどうあるべきかという問題や、自然をどう守り育むかという問題を、いままさに、これまでの小手先やうわべの話としてではなく、一人ひとりが真剣に考えるべきときなのではないだろうか。自然と人間との関係の再構築がせまられている現在、自然観、森林観や環境倫理にまでさかのぼって、この問題がさまざまな角度から議論され、真の国民意識の形成が図られ、具体的な行動に移されるべきではないだろうか。
 ドイツとその周辺諸国の森をはじめとする自然や風景の保護運動あるいは環境保護思想史を描いたこの本を訳して、日本の読者に提供しようと、切実に思うにいたったのは、まさにこの点にある。
 環境大国といわれるドイツやその周りの国々とわが国では、エコロジーに関する国や国民の意識や具体的対応がいささか様相を異にしているのに気づく。ヨーロッパの森や自然の豊かさ、田園や山村のたたずまいの美しさを支えているのは、数世紀におよんで醸成されてきた森や自然環境・国土保全に対する高い国民意識であり、これを背景とした国や地方の政策やNGOなどの活動であるように思われる。
 ドイツやスイスをはじめとするヨーロッパでの自然観の形成や自然環境・風景・国土保全運動や、その思想の成立過程は、これまで日本では紹介されることが少なかった。そこには、文学や哲学、社会思想が推力となった確固とした思潮が流れている。それらを浮き彫りにした本書は、自然と人間との関係の再構築のみならず、21世紀に向けてのわたしたちの生き方や、新しい社会や経済や文化のあり方についての議論に欠くことのできない豊富な材料を提供し、大きな示唆を与えてくれるのである。
【内容紹介】●本書「はじめに」より抜粋

 本書の各章は、古本を寄せ集めたようなものとは性格を異にする。各章は過去のエコロジーの諸問題を論じているが、同時に、この250年間に加速し続けてきた都市化や工業化を背景とする現代のエコロジーの諸問題を示唆しているのである。
 自然をたんに人間のための「環境」として見るような人間中心的な態度は、これからは改めなければならない。それゆえ、たんなる環境保護だけに力を尽くすのは、積極的なこととはいえない。人間のための有用性の観点だけから自然を見るのではなく、動物であろうと植物であろうと生きとし生けるものを純粋に人間がいのちあるものとして尊厳の念をもって見るという態度こそ高い価値を持つ。すなわち新しい倫理にもとづくものといえるのである。きわめて重要なことは兄弟姉妹に対するような心で人間が自分を地上のいきもののひとつと感じることであり、ほかのものを食いものとするような心、破壊するような心で、自分とほかのすべてのものとを遮断しないことである。
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