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日曜の地学4 東京の自然をたずねて

【内容紹介】●本書「まえがき」より


 東京の都市化は年毎に進み、今では周辺の都市を含めて近代的なメガロポリスの構築が計画されている。そのため、東京周辺の自然は著しく破壊され、新たにメガロポリスの景観と調和するように造られた自然におきかえられつつある。
 自然の生い立ちと変化についてのじゅうぶんな知識にもとづいた対策を欠いた開発が、思いがけない新たな災害を招いた例が多い。例えば、コンクリートやアスファルトでおおいつくされた東京の地表に降った雨水が、同じようにコンクリートで堤防や川底をかためられた水路にそのまま流れ込むため、たちまちあふれてまわりの家屋に浸水の災害を与えるようになっている。コンクリートで遮蔽された土壌の大気や水の浄化と移動を阻害された都市の自然環境が、住民や生物の生命にあたえる害は計り知れないものがある。
 私たち東京に住むものが“東京の自然”の生い立ちについて、正しい知識と理解をもつことは、私たちの健康な生活を保証するような都市開発を実現するために必須の前提であり、また私たちの責任ともなっている。そのため、本書は家族そろっての日曜の散歩や、学校での地学実習に際しての必携の書となるよう構成に配慮している。
 本書は、とくに東京の地学の教育・研究にたずさわる人たちが、旧版の内容について、開発によって変えられた東京の自然の姿を実際に歩いて確かめた結果にもとづいて、改めて執筆されたものである。そのため、旧版の内容と比較することによって東京の開発の進みぐあいと、それが都民におよぼしている功罪の内容も知ることができよう。
【内容紹介】●本書「新訂版のまえがき」より

 東京は2度の災害によって、破壊的な打撃をこうむっている。1度は1923年の関東大震災であり、2度目は1945年3月にこうむったアメリカ空軍による大空襲である。前者は自然災害で、後者は戦争による人為的災害であった。
 幸いにして東京都民のたくましい復興の気力により、とくに後者の場合は戦後の日本経済界におけるGNPの向上に支えられ、高層建築の立ち並ぶ新宿副都心や、東京湾を埋め立てて構築された臨海副都心の実現によって東京の様相を大きく変えている。
 しかしながらその反面で、東京の自然は著しく失われ、さまざまな新しい公害を生み出している。とりわけ1995年1月の未明に発生した兵庫県南部地震は、6000人の尊い生命を奪い市民の生活基盤に膨大な被害を与えたことは、東京の自然とくに基盤地質の性質と地上の構築物との関連にたいして強い関心を向けるようになっている。
 本書は東京都民の生活基盤である「東京の自然」の生い立ちを、地球発達史の視野から説きながら、自然との調和を保った都民生活のあり方を考える契機となることを願って編集したものである。
 前述のように災害は自然災害と人為的災害とがあり、人間はどんな災害からも復興する気力と技術を持っている。自然災害を予知防衛し、人為的災害を取り除くためには、私たちの身のまわりの自然の働きの仕組みや生い立ちを知って、適正な開発のあり方を考えることが必要である。本書がそのための支えとなることを願ってやまない。
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