6つの化石・人類への道［新生代］

6つの化石・人類への道［新生代］化石が語る生命の歴史

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ドナルド・R・プロセロ［著］　江口あとか［訳］
1,800円＋税　四六判上製　192頁　2018年5月刊行　ISBN978-4-8067-1558-0

この化石の発見が、世界を変えた

いよいよ人類が登場する。
泳ぎ歩くクジラ、海に帰る陸生動物のミッシングリンクの発見、
流砂にとらわれたパラケラテリウム、
果たして人類発祥の地はユーラシアか、ブリテンか、アフリカか。
無視されたアフリカでの大発見、戦禍から避難させる途中で行方不明になった北京原人。
科学界にもおよんでいた人種差別、固定観念を乗り越えて、
次々と発見される化石から浮かび上がる人類進化の道。

【化石が語る生命の歴史シリーズ】

著者紹介

訳者紹介

著者あとがき

　地球の生命史はきわめて複雑な物語だ。現在、地球上にはおよそ500万から1500万種が生息している。今までに生息していたすべての種の99パーセント以上が絶滅したので、35億年かそれよりも昔に生命が誕生して以来、地球には数億種かそれ以上いたことになる。

　そのため、絶滅した数億種の代表として、化石をたった25個（『11の化石・生命誕生を語る』『8つの化石・進化の謎を解く』『6つの化石・人類への道』３巻合わせた数）だけ選ぶのは簡単ではない。わたしは、進化の上で画期的な出来事を表す化石に重点をおくことにした。それらは、主要なグループがどうやってはじめに進化したのかという決定的な局面を表していたり、一つのグループから別のグループへの進化的な移行を明確に示していたりするものだ。それに加えて、生命というものは単に新しいグループの出現だけではない。驚くほど多様な体の大きさ、生態的地位や生息環境への適応が見られる。というわけで、最大の陸生動物から最大の陸生捕食者、絶滅した巨大な海の生物まで、生命が達成しうるもっとも極端な例をあげることにした。

　当然のことながら、数個だけ選ぶには、多くの生物を泣く泣く除外しなければならず、何を含めて何を省くかひどく悩んだ。比較的完全でよくわかっている化石に重きをおいて、確実に解釈するのが難しい多くの断片的な標本を除外した。科学者ではない一般の読者のことを考え、おもに恐竜と脊椎動物を選んだ。そのため、古植物学者と微古生物学者の友人たちには、彼らの分野をそれぞれ一章ずつ簡単にしか扱わなかったことを謝らなければならない。

　どうかこの選択の難しさを理解し、本書で語ることにした物語の生物を受け入れてほしい。それらの化石があなたの人生を明るく照らしますように。

訳者あとがき（抜粋）

　本書はアメリカの古生物学者ドナルド・Ｒ・プロセロ著"The Story of Life in 25 Fossils : Tales of Intrepid Fossil Hunters and the Wonders of Evolution"（2015年、コロンビア大学出版）を３分冊したうちの第３巻です。原著は生物の多様性や進化上の画期的な出来事を表す化石を二五個取り上げた長編なのですが、分量が多いため、日本語版では『11の化石・生命誕生を語る[古生代]』『8つの化石・進化の謎を解く[中生代]』『6つの化石・人類への道[新生代]』の３巻に分けました。
　その第３巻である本書では新生代、年代でいうと約6600万年前からおよそ300万年前までを扱います。新生代は恐竜やアンモナイトなどが絶滅した後の時代で、哺乳類と鳥類が繁栄しました。
　著者のプロセロ博士はカリフォルニア工科大学やコロンビア大学などで古生物学と地質学を教えてきた経験があり、論文も数多く執筆しています。また、ライターとしても活躍し、地質学の教科書や一般書を含め35冊以上の著書があります。おもな専門分野は３つあり、そのうちの２つは新生代に関するもので、特に、本書でも取り上げられている四肢の先端に蹄を持つ動物（ウシ目やウマ目）の進化に関する研究を精力的に行ってきました。
　では、おおまかに本巻の流れを追ってみましょう。

　第1章ではクジラの起源に迫ります。陸から海に帰っていった哺乳類のクジラですが、どうやって水生になったのか、化石記録からはどのようなことがわかっているのでしょうか。そして、どの陸生動物に一番近いのでしょうか。第2章はカイギュウです。人魚の正体とされるマナティーやジュゴンもまた、海に帰っていった哺乳類です。彼らはどのような動物に近いのでしょうか。水生のカイギュウ類と陸生の祖先をつなぐ化石は見つかっているのでしょうか。第3章はウマの起源について考えます。最初期のウマはどのような姿をしていたのでしょうか。どこでどのように進化していったのでしょうか。第4章では、最大の陸生哺乳類として過去に存在した巨大なサイを取り上げます。彼らはなぜ絶滅したのでしょうか。
　最後の２章はヒトの化石記録を追います。第5章では最古のヒト族の化石トゥーマイ（サヘラントロプス）を取り上げ、第6章では最古の人類の骨格であるルーシー（アウストラロピテクス・アファレンシス）が発見されるまでの歴史をふり返ります。ヒトの化石が正しく理解されるまで、人種差別や帝国主義、固定観念がじゃまをして、回り道が多くあったことがよくわかります。そして、人類の進化で最初に起こった適応の一つとは、いったい何だったのでしょうか。次々と発見される標本から、人類の進化についてどのような事実が浮かび上がってきたのでしょうか。
　毎日、世界のどこかで、古生物学者が地面に這いつくばって、化石という過去の貴重な記録を掘り出しています。化石記録は時間とともによりよいものになります。研究が進むにつれて、当たり前だと思われていたものがそうではなくなったり、それとは逆に、不可能だと思われていたことが案外簡単なことであるとわかったりします。そして、認識が変われば、分類も呼び名も変わります。著者は全体を通して、科学は常に進んでいると言っています。解剖学的証拠と分子学的証拠と化石記録が織りなす物語は、新しい証拠によって常に書きかえられていくのです。
　変わるといえば、地質年代もしかりで、翻訳にあたって著者とやりとりをするなかで、地質年代が常に調整され変化していることに改めて気づかされました。本書の年代も後年には改訂されているかもしれません。なお、古生物の学名で日本語になっていないものや訳語が見あたらないものに関しては、カタカナで表記しました。索引に採用した古生物で、原著に学名表記のあるものは、調べ物などに活用していただけるように、学名も載せました。
　さあ、６つの化石を追いながら、過去の世界を旅しましょう。地球上で起こった長い生物進化の痕跡が、わたしたち自身の中にも眠っています。