![]() | 島津光夫[著] 2,400円+税 四六判並製 256頁 2018年3月刊行 ISBN978-4-8067-1552-8 どこでどんな石や地層がみられるのか。 山や海岸の成り立ちがわかれば、登山や観光の楽しみ倍増! 3000メートル級の山々、急流河川、深い渓谷、変化に富んだ海岸線…… 狭い日本列島の多様な自然景観。 北海道から沖縄まで、おもな景勝地を、 山や海岸をつくっている岩石や地質など、地学の観点から解説する。 |
島津光夫(しまづ・みつお)
1926年、岩手県一関市生まれ。
1951年、東北大学理学部岩石鉱物鉱床学科卒業。
東北大学理学部助手、工業技術院地質調査所技官を経て、
1964年より新潟大学理学部助教授、1970年より教授。
1991年に新潟大学退職後、同年、県立新潟女子短期大学学長に就任。1997年退職。
理学博士。専門は岩石学、鉱床学。
地質調査所勤務時代に5万分の1地質図幅「陸中野田」「田老」「気仙沼」を、
1993年に5万分の1地質図幅「苗場山地域の地質」を仲間とともに作成した。
日本全国、また東北アジアの各地を調査や見学で訪れた。
なかでも苗場山を含む秋山郷は現役時代の最後のフィールドで、
苗場山麓ジオパークづくりに協力したところでもあり、愛着を感じている。
フィールドを歩き、露頭を観察し、採集した岩石の薄片を顕微鏡で観察するのが研究の楽しみの一つだ。
研究対象は硬い岩石であるが、それは美しい自然の一部である。
なぜ健康長寿かとよく聞かれるが、フィールド、自然の中を歩きまわったから、と答えている。
はじめに
日本の山の景観と自然
弧状列島としての日本
山の自然と景観
火山―噴出物がいろいろな地形をつくる
日本アルプス
山の植生
山がおもな対象の国立公園、国定公園
東北地方の山
東北地方の火山帯と火山列
グリーンタフ地域―海底で噴出し変成・変質作用をうけた火山物質がでている地域
北上山地と南北に接する蛇紋岩の早池峰山
阿武隈山地―白亜紀の花崗岩でできたなだらかな高原
フォッサマグナ地域の山
南部フォッサマグナ―伊豆・小笠原弧が本州弧に衝突してできた
北部フォッサマグナ―東縁はどこか?
新第三紀層の基盤山地(八溝、足尾、飯豊、越後、関東山地)
中部地方の火山
第一列の火山―フロント側の火山
第二列の火山
いわゆる富士火山帯
中央構造線の屈曲部に居すわった感じの八ヶ岳火山群
信越国境の火山群―第三列の火山?
中部地方の火山の謎
古く、浸食の進んだ奥信越の火山群
新潟県の山
飯豊、朝日連峰―東北アルプス
谷川連峰―西の山稜に1400万年前の枕状溶岩が
その他の地域
北海道の山
火山―カルデラが多く景観に恵まれている
日高山地
西日本の山
非火山性の山
火山―深成複合岩体と花崗岩類
中国地方の火山
九州の火山
プレートの沈み込みと九州の火山
なぜ九州に大きなカルデラができたのか
九州のいわゆるグリーンタフ
渓谷、峡谷の景観
《コラム》山岳信仰と宗教
日本列島とまわりの海
日本海はどのようにしてできたのか
大陸とつながったり離れたりした、第四紀時代の日本
縄文・弥生時代
海を通して大陸との交流
海岸の自然と景観
海岸平野と砂丘―川が運ぶ土砂がつくる
岩石海岸―日本の海岸の70パーセントを占める
日本三景は海の景観
海岸が対象の国立公園、国定公園
地形と地質からみた日本の岩石海岸
オホーツク海側の海岸
東日本の太平洋側の海岸
北海道の太平洋側の海岸
東北日本の太平洋側の海岸
房総半島の海岸
伊豆半島の海岸と伊豆諸島
西日本の太平洋側の海岸
紀伊半島の海岸
四国から南九州の海岸
西南日本の地質構造
南西諸島
瀬戸内海の海岸
日本海側の海岸
北海道の西海岸と島々
津軽半島から佐渡島まで
能登半島から若狭湾まで
丹後半島から隠岐諸島
山口県や北九州の海岸
東シナ海側の海岸
有明海
おわりに
参考図書、その他の参考資料、参考・引用文献
付表1 世界・日本ジオパークと国立・国定公園
付表2 岩石の分類
付表3 地質年代表
索引(巻末よりi)
北海道から先島諸島(八重山、宮古列島)まで多くの島々で構成されている日本列島は、西太平洋に存在するいくつかの弧状列島の集合である。
弧状列島を特徴づける一つの要素は第四紀火山だが、日本列島には大小合わせて268の火山がある。火山は噴火様式により、いろいろな形をつくり、すぐれた景観をつくっている。
日本列島は古生代から現在まで、長い歴史をへてつくりあげられた。とくに新第三紀末から第四紀にかけての地殻変動が激しく、隆起運動により3000メートル級の日本アルプスも形成された。狭い国土の中にこのような山岳があるため、河川は急流となっている所が多く、渓谷、滝など美しい景観をつくっている。
日本列島はモンスーン地帯で、夏は太平洋から湿った大気が流れ込み、多量の雨を降らせ、冬は大陸から冷たい大気が流れ込む。日本列島とアジア大陸の間には日本海という暖流の流れる海があるため降雪が多く、日本海側に雪が多く積もるという気候条件下で、植物がよく繁茂し、変化に富んだ樹林帯をつくっている。
このような日本列島の自然がつくる山の景観と神秘性は、古くから人の心に訴えるものがあって、山岳信仰が生まれ、歌や詩に詠まれ、また自然と人間の関わりについての風土論が提起された。
すぐれた自然景観を示す地域は国立・国定公園、また名勝、天然記念物に指定された。
日本の自然景観を地理学的に初めて紹介したのは、1894(明治27)年の志賀重昂の『日本風景論』である。中野尊正と小林国夫は、1959(昭和34)年『日本の自然』を著し、山や海岸や平野、湖沼まで地形学的、地質学的に解説している。その他にも1977(昭和52)年に出版された『日本の自然』(地学団体研究会)など、自然を紹介している本がある。しかし、自然の地学的な意味づけが1890年代以降、プレートテクトニクスの導入により大きく変化した。
この本は私なりにみた日本の自然景観の紹介であるが、取り上げる対象は山と海岸にしぼった。川も取り上げるべきかもしれないが、川は上流から下流まで種々変化し、限られた箇所でその川の景観の特徴を示せないので、渓谷、峡谷について簡単に紹介するにとどめた。
自然景観をつくっているものは、地形、地質、気象、植物などである。この本では山と海岸の自然景観をおもに地学的に解説する。地学を専門にしている人にとっては当たり前のことだが、意外にそれを知らずに山に登っている人が多いからである。山や海岸をつくっているものがわかれば山登りや旅行もより楽しくなるのでは、と私は考えている。
山は基本的には岩石で形づくられているが、岩石が風化してできた土壌が表面を覆い、また高山帯では岩石の間の狭い所に高山植物が繁茂している。植生は山の景観をつくる重要な要素で、小泉武栄の『山の自然学』はそれについて興味深く述べている。また、春夏秋冬、変化する気象現象も山の景観に大きな影響を与えている。
地球の3分の2を占める海洋と陸地との境の海岸は、地球規模では、海が接する陸地の性格や気候によっていろいろ変化する。弧状列島で、亜熱帯から亜寒帯にわたる気候帯をもつ湿潤な日本列島が美しい多様な海岸の自然景観をつくったのである。
日本には国立公園が34、国定公園が56あるが、山岳地帯や火山地帯が約半分、海岸や島、あるいは山と海岸と島に関わるものが約半分で、その他に湖沼などの公園が3つある。これらの中の知床半島、白神山地、紀伊山地、小笠原諸島、屋久島は世界自然遺産に登録された。
また、近年、ジオパーク活動が盛んになり、すでに四三地域が指定され、そのうちの8地域が世界ジオパークに登録された。ジオパークは大地(ジオ)と公園(パーク)を合わせた言葉で、大地を基盤にしているが、その上の植生、歴史、民俗など諸々の人間生活を包括し、それらを保護するとともに、広く啓蒙活動を展開し、さらに地域おこしを目指している。私も佐渡ジオパークと苗場山麓ジオパークづくりの手伝いをした。
近年、ジオパークや、東北地方太平洋沖地震、最近でも熊本地震、鳥取県中部地震や多くの風水害などの自然災害などにより、地学に対する関心も高まっている。ところが、地学的立場で、風景論や山岳宗教などを取り上げたものはあまりない。そのようなことから本書を著した。
登山ガイドブックや景勝地のガイドは、たくさん刊行されていますが、日本列島全域にわたって、その地質学的な成り立ちを解説した本は数えるほどしかありません。
本書は、70年間にわたって、日本列島を歩きつくした岩石学・地質学の碩学が、一般読者に届くように平易にコンパクトにその成り立ちを書き下ろした1冊です。
山頂に立った時、旅客機の窓から日本列島を見下ろした時、その複雑な地形に息をのんだ経験は多くの人がもっていると思いますが、その複雑な自然の成り立ちの理由まで踏みこんで解説したのが本書です。
本書の読後、見慣れた山並みがまったく違った相貌で読者の前に姿を表すことでしょう。