公園・神社の樹木

公園・神社の樹木樹木の個性と日本の歴史

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渡辺一夫［著］
1,800円+税　四六判並製　192頁　2011年12月刊行　ISBN978-4-8067-1432-3

人と樹木がどう関わってきたのか、
樹木の生きかた、魅力を再発見

ユリノキが街路樹として広まったのはなぜ？
イチョウの木が信仰の対象になった理由は？
江戸時代にたくさんのスダジイが植えられたわけ。

公園・神社の樹木を通して、公園と神社の歴史をもっと深く知り、
樹木の個性もわかる本。

まえがき

まえがき

都市における公園や神社は、貴重な緑のオアシスとして、人々に愛されている。だが、例えば東京には、なぜ、いくつもの緑地が残っているのだろうか。
緑地が生まれた経緯は、じつにさまざまである。例えば明治神宮は、天然の森のようにうっそうとした木々に覆われているが、この森は大正時代に全国の国民から贈られた10万本もの献木が植えられてできた森である。そして、さらに時代をさかのぼれば、そこは江戸幕府の大老であった井伊直弼の下屋敷であり、そこにあった庭園が、今でも明治神宮の1部として生かされている。
また、日比谷公園は、明治時代に造られた日本初の西洋式公園だった。公園内には、当時めずらしかった西洋レストランや西洋式の花壇があり、音楽堂では洋楽が流れていた。そこは文明開化を象徴するような場所であり、公園がオープンした当初は、大勢の人がつめかけたという。その人気は、今のディズニーランドのようなものだったのだろう。日本初の西洋式公園を造るまでには、多くの困難があったが、公園づくりに関わった人々は熱い情熱でその困難を乗り越えていった。日比谷公園の生みの親は、本多静六という人物であり、その人は公園にたった1本のイチョウを植えるのに、自分の首を賭けるほど公園づくりに情熱を燃やしていた。

ひとつひとつの緑地は、その成り立ちも、変遷も、自然環境も、それぞれ異なっている。本書は、いくつかの公園や神社を取り上げて、その歴史やエピソードを紹介した本である。本書を読むと、それぞれの緑地の歴史が、いかに個性的であるかに驚かされるかもしれない。
本書では、その歴史を語るために、何本かの樹木に登場してもらっている。彼らは、歴史の痕跡ともいうべき木であり、そのほとんどが、今もその場所に実際に見られる樹木である。それは、神社の由緒ある御神木だったり、雑木林に残る1本のアカマツの木であったりする。また、ユリノキ、プラタナス、メタセコイア、ラクウショウなど、外国からやってきた木も登場する。彼らは皆、大きく変貌してきた都市にあって、生き残ってきた歴史の証人である。

歴史には、不思議な魅力がある。その場所は、何に使われていたのか。その土地で、どんな人々がどんな暮らしをしていたのか。どんな風土で、どんな時代だったのか。そこに人々はどんな夢を描いていたのか。時空を超えて、想像は果てしなく広がっていく。
都市の緑の歴史を読み解き、人々の生活や時代背景に思いをはせながら緑地を歩けば、散策の楽しみが倍増するかもしれない。
人々に愛されている緑のオアシス、そこに秘められた歴史やエピソードを、本書で楽しんでいただければ幸いである。

2011年11月　渡辺一夫