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あぶあぶあからの風

ひがしのようこ[著]東野雅夫[写真]

1600円+税 A5判 192頁 ISBN978-4-8067-1376-0

“うれしく生きる”
を胸に、音を重ね、心を重ね、お互いを思いあい、補いあう日々。
彼らの音楽には、待つことのすばらしさ、人を思いやることの喜びがあふれている。
出会い、オリジナル曲誕生のエピソード、ミュージカルにこめる思い……
楽団あぶあぶあ&ミュージカルチームLOVEの27年を写真とともに綴ります。



聖路加国際病院理事長
日野原重明氏

   私は大阪で、音楽に癒されたダウン症や自閉症の青年たちが
   愛のミュージカルを演じるステージに招かれ、
   共に歌い、踊りました。
   あの時の感動を忘れることができません。

【目次】



はじめに 6


出会い 14

「あぶあぶあ」という名前 20

音が重なる日 22

「楽団あぶあぶあ」プロフィール 24

作曲家、水本誠さんとの出会い 28

心ふれあう 30

「楽団あぶあぶあ」のオリジナル曲 34

   あぶあぶあからの風 34

   贈り物 36

   Tの二楽章 38

   想い 40

   思い出の夏 42

   ゆかいにいこう 44

   TURISTA, GAUDI 46

   夏の浜辺 48

   秋のやさしさ 50

   スターナイトメモリー in 奄美 52

   夢 地球船 54

   With You Smile〜友情を明日へ〜 56

   きみに伝えたい 58

   やさしさにつつまれて 60

インタビュー 音を重ねることは心を重ねること 70

「ミュージカルチームLОVE」結成 94

「ミュージカルチームLОVE」プロフィール 98

作品「ミュージカルLОVE&HEART」 102



「楽団あぶあぶあ」の練習過程 130

ミュージカルの制作とけいこ 154

社会参加と貢献性 170

知的障がいをもつ人たちの創造力と芸術性 174


あとがき 180


楽団あぶあぶあ&ミュージカルチームLOVE 活動の軌跡 182

楽団あぶあぶあ&ミュージカルチームLOVE



1982年春、兵庫県神戸市で、当時高等養護学校の在校生や卒業したばかりの音楽好きの若者6人と友人2人で結成。おもなメンバーは、ダウン症や自閉傾向など、障がいをもっているため、1曲仕上げるのに、1年から3年の長い時間がかかるが、その時間が友情をあたため、お互いに思いあう気持ちを育んできた。彼らの音楽には“人生は友情”というメッセージがこめられている。結成以来、年1回の定期演奏会やチャリティーコンサートなど、これまでに約190回の演奏会を行ない、延べ15万人の人々と楽しい時間を分かちあってきた。
楽団結成10周年を記念して1992年1月に、楽団を慕う若い後輩たちとミュージカルチームLOVEを結成。ミュージカル作品を創作・上演している。メンバーは20名。現在、15場20曲(上演時間約60分)までできていて、創作は今も続いている。

はじめに

 この二〇年間で、障がいをもつ人たちの文化活動や芸術的な活動が、ずいぶん盛んになってきました。とりわけ、余暇活動としての文化活動はほとんど日常的になり、障がいをもたない人たちとの市民的交流も定着しつつあります。
「楽団あぶあぶあ」も、そんな時代のぬくもりのなかで、一九八二年の春、神戸市で誕生しました。当時、高等養護学校を卒業したばかりの人やまだ在籍している人六人と、音楽好きの障がいをもたない二人の女性が加わってのスタートでした。私もこの結成時の仲間の一人です。
 メンバーのほとんどは、知的障がいをもつグウン症や自閉傾向のある人たち。音楽が、学校を卒業してからの長い人生の楽しみになればと思っての楽団結成でした。
 メンバーは順々に学校を卒業し、職場を得て、社会人となっていきました。結成して二七年、この間には体調をこわしたり、不況下で失業して、施設に移った人もいましたが、現在、一人は授産施設で軽作業、あとの人たちも全員職場を得て、日々働く四〇代半ばの誠実な勤労者たちです。
 仕事を終えてからの夜や休日に集まって、それぞれに給料で購入した自分たちの楽器で、練習を楽しんでいます。金額の多少の値打ちを理解せずとも、働いて、趣味としての音楽活動を維持するおもしろさは、毎日を充実させてくれています。
 けいこは、コツコツと、ただただ膨大な努力の積み重ねですが、音を合わせ、重ねることの楽しさが、その努力を支えてきました。
 やがて「音を重ねることは、心を重ねるうれしさ」となっていきました。
 そのうれしさを演奏に託した「あぶあぶあ」のコンサートは、技術的には精度の高いものとは言えませんが、集まり聴き入る多くの人々をあたためるものになっています。これまでに延べ一四万人余りの人々がともに彼らの演奏会を楽しみました。
 メンバーにとっては、余暇活動以外の何ものでもない楽団活動ながら、二七年の年月をくぐり抜け、そのハーモニーは深いメッセージをもつものとなってきています。チャリティコンサートなどで、音楽ボランティアとしても活曜するなか、この秋で二〇〇回の演奏会を数えることになります。姉妹グループも一〇組をこえました。
 一六年前、結成一〇周年記念演奏会のとき、作曲家の水本誠(せい)さんは「彼らの心からあふれ出るメッセージは、人々をあたためていく。そんな彼らのメッセージと技術にぴったりと添う曲を作りたい」と言って、「あぶあぶあからの風」をはじめ「With You Smile」など、次々と楽団のオリジナル曲を作ってくださっています。
 人々をあたためるメッセージを表現できはじめたことから、ごく自然な社会参加が実現し、多くの人々との交流、さらには音楽でのボランティア活動などを通じて、社会の一員として社会貢献を果たせていると思います。
 一九九二年一月、楽団結成一〇年を記念して、若い一〇代のダウン症や自閉症の青少年たちとミュージカルを作りはじめました。
 全編オリジナルで、総勢三五名の知的障がいをもつメンバーが体ごと語りあう言葉を歌詞にし、水本誠さんが彼らに添いながら、彼らの納得するメロディーを作りだし、その曲から踊りやストーリーを編みはじめたのです。
 彼らにとってミュージカル作りは、これまでの人生に育てられた能力と人格をもとにした「自己実現的表現としてのひとつの形」です。この彼らの表現のテーマが「うれしく生きる」に集約されていくのを目の当たりにし、その表現を深める工夫をする彼らに接するとき、芸術家を彷彿とさせます。
 このミュージカルグループのチーム名は、「ミュージカルチームLOVE」。  一〇年計画で全編の完成を目指そうと始めましたが、結成してはや一七年。現在一五場二〇曲まででき、いよいよ意欲的に創作活動に取り組んでいます。将来、日本各地や世界各地の同じテーマをもち、同じような資質をもつ人々とつながり、壮大なミュージカルへと発展していく可能性をもっています。彼らの表現のパワーと連動性を知って、そう思われるのです。
 これらの知的障がいをもつ人たちの音楽活動を通して、文化・芸術的活動のもつ全般の特色を考えてみると、次の特徴が浮かんできます。
 1 余暇活動による個人的な生活の充実
 2 市民的交流を通しての社会参加
 3 自分を活かしてのボランティア活動の実現
 4 自らのメッセージを託した自己実現的表現と芸術家への可能性
 すでに伝統芸能や絵画、陶芸、手芸関連の分野では全国各地の施設でも、模索や積極的実践がなされています。あわせて、この創造的文化・芸術分野の充実を祈りたく思います。
 なお、少しでも参考としていただけるものがあればと思い、この本のなかで、「楽団あぶあぶあ」と「ミュージカルチームLOVE」の練習や制作の実践方法も紹介させていただきました。
 この本は、一九九四年に制作し今は絶版となっている「楽団あぶあぶあ&ミュージカルチームLOVE」のパンフレットや、これまでに定期演奏会のプログラムに書いた文章を手直ししたもの、この本のために書き下ろしたものなどから構成しました。
 この本を手にとられたみなさまに、「楽団あぶあぶあ」と「ミュージカルチームLOVE」のテーマである「うれしく生きる」を実感していただければ、これ以上の喜びはございません。

ひがしのようこ