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地質学者が見た風景

坂幸恭[著]

5600円+税 B5判(函入り) 256頁(スケッチ頁カラー) 2008年5月発行 ISBN978-4-8067-1368-5


200点余の克明な水彩風景画で、
日本および世界各地の自然景観を紹介し、
地形の成り立ちと地球表層における自然の営みを
丁寧に解説する、ユニークなカラー画集。

【目次】


序文
解説
スケッチ地点索引地図
日本地質概略図・地質年代図
スケッチ

1 裂けていく大陸 ― アフリカ大陸

a東アフリカ大地溝帯
 1 グレゴリー・リフトを限る断層崖 1
 2 グレゴリー・リフトを限る断層崖 2
 3 雁行するリフトの断層
 4 マラウイ・リフトの西側を限る断層崖
 5 マラウイ・リフトの東側を限るリビングストーン山脈
 6 東アフリカ・リフトバレーの南端 ― チョロ・リフト
 7 チョロ・リフトを流れるシレ川
 8 妍を競うリフトの火山 1:ロンゴノット火山
 9 妍を競うリフトの火山 2:ススワ山
 10 妍を競うリフトの火山 3:メネンガイ山の火口
 11 引き裂かれている火山
 12 キリマンジャロ
 13 キリマンジャロ山頂
 14 リフトを彩る湖 1:エルメンテイタ湖
 15 リフトを彩る湖 2:マガディ湖
 16 リフトを彩る湖 3:ナイバシャ湖
 17 マラウイ湖の朝
 18 マラウイ湖畔 1
 19 マラウイ湖畔 2
 20 マラウイ湖畔 3
 21 マラウイ湖畔 4
 22 マラウイ湖畔 5
 23 マロンベ湖
 24 温泉が湧出
 25 インド洋に浮かぶ微小大陸 ― セイシェル,マヘ島
b大地溝帯の外側
 26 ビクトリア湖
 27 ビクトリア湖遠望
 28 動物の大移動
 29 雨季末期
 30 マラウイ/ザンビア国境
 31 マラウイ/モザンビーク国境
 32 花崗岩ドーム ― ムボニ丘
 33 ムボニ丘頂上
 34 ムボニの里
 35 ムボニ丘斜面の耕作
 36 熱帯で冬枯れ? 1
 37 熱帯で冬枯れ? 2
 38 大草原を汽車は行く
 39 愛でられることもない景勝
 40 ムランジェ山
 41 ムランジェ・クレーター
 42 バオバブ
 43 リビングストニア教会
 44 サンゴ礁海岸の貝殻採り
 45 浮き橋
 46 モンバサ港
 47 驟雨
 48 ジーザス砦

2 拡大している大西洋 ― アイスランド

 49 プレートの境界
 50 溶岩台地を引き裂くギャオ
 51 クラプラ火山
 52 偽火山
 53 溶岩原 ― エルトブラウン(燃える溶岩)
 54 真新しい溶岩流
 55 火山噴火で洪水が起こる ― ヨクトルラウプ
 56 溶岩台地 1
 57 溶岩台地 2
 58 溶岩台地 3
 59 温泉
 60 地熱発電のおまけ

3 潰されるトルコ

 61 北上を続けるアラビア半島
 62 北アナトリア断層
 63 北アナトリア断層の断層線
 64 北アナトリア断層のトレンチ調査
 65 東アナトリア断層
 66 断層がずれてできる盆地 1(北アナトリア断層)
 67 断層がずれてできる盆地 2(北アナトリア断層)
 68 断層がずれてできる盆地 3(東アナトリア断層)
 69 北アナトリア断層直上の民家 1
 70 北アナトリア断層直上の民家 2
 71 ネムル−ト巨大墳墓
 72 パムッカレ
 73 アナトリア高原
 74 カッパドキア
 75 潅漑
 76 アナトリア高原南麓
 77 テチス海の名残り1:黒海
 78 テチス海の名残り 2 :ボスポラス海峡
 79 テチス海の名残り 3:ダルダネス海峡

4 大陸と海洋の狭間

a海底変じて陸となる
 80 陸上に現れた海洋地殻 1
 81 陸上に現れた海洋地殻 2
 82 層状岩脈群
 83 ヤイラ火山
 84 陸上に現れた海洋地殻 3
 85 陸上に現れた海洋地殻 4
 86 石灰岩の山稜 1:高床住居
 87 石灰岩の山稜 2:並走する盆地
 88 石灰岩の山稜 3:盆地に広がる田園
 89 石灰岩の山稜 4:谷間の耕作
 90 石灰岩の山稜 5:ハロン湾
 91 石灰岩の山稜 6:桂林 1
 92 石灰岩の山稜 7:桂林 2
 93 鼠返しのある納屋 (アルプス山脈93〜96)
 94 ワーレン湖
 95 石灰岩アルプス 1
 96 石灰岩アルプス 2
 97 海溝の堆積物 ― タービダイト 1
 98 海溝の堆積物 ― タービダイト 2
 99 タービダイトの褶曲
  100 海底地すべりによる褶曲
  101 プランクトンの殻からできた岩石 ― チャート
  102 海洋に堆積した順序 1
  103 海洋に堆積した順序 2
  104 変身したサンゴ礁 ― 石灰岩
  105 海底地すべり岩塊 1
  106 海底地すべり岩塊 2
  107 海底地すべり岩塊 3
  108 山中地溝帯
  109 五ヶ所−安楽島構造線
  110 仏像構造線
  111 沈み込みすぎた付加堆積物
b火山と地震
  112 レーニエ火山
  113 磐梯山
  114 洞爺湖と昭和新山
  115 1977年有珠山噴火の火口
  116 1977年有珠山噴火の爪跡
  117 2000年有珠山噴火の爪跡
  118 爆裂火口
  119 キタキツネ
  120 層雲峡俯瞰
  121 火山泥流
  122 兵庫県南部地震 ― 野島断層 1:断層察痕
  123 兵庫県南部地震 ― 野島断層 2:雁行割れ目
  124 兵庫県南部地震 ― 野島断層 3:ずれた用水路
c地殻変動の産物
  125 古城 (世界の屋根 ― チベット125〜131)
  126 傾斜する地層 1
  127 傾斜する地層 2
  128 左右対称的な褶曲
  129 倒れ込んでいる褶曲
  130 横倒しとなっている褶曲
  131 地層の落丁
  132 めくり上げられた地層 1
  133 めくり上げられた地層 2
  134 地層の段差
  135 恐竜が眠る里
  136 ライン地溝
  137 スコットランドを横断する断層 1:ネス湖
  138 スコットランドを横断する断層 2:ロッカイ湖
  139 中央構造線 1
  140 中央構造線 2
  141 本州の食い違い痕 ― 諏訪湖
  142 地表に現れたマントルの岩石

5 大地の造形

a重力
  143 落石の通り道
  144 斜面でのせめぎ合い
  145 岩盤の崩落
  146 崖錐
  147 覆道
  148 地すべりの置きみやげ
b氷河
  149 氷舌
  150 氷冠
  151 マッターホルン
  152 カール(圏谷)氷河
  153 氷河の合流
  154 氷河末端
  155 氷河末端湖
  156 U字谷
  157 氷河に削られた山稜 ― アレート
  158 ヨセミテ峡谷
  159 フィヨルド
  160 浅いフィヨルド
  161 氷食谷湖 ― グラスミア湖 1,2
  162 終堆石
  163 側堆石
  164 氷河が引っ掻いた跡
  165 氷河の置きみやげ ― 迷子石
  166 氷河がつくった平原
  167 融氷河水流
  168 融氷河水流の氾濫源(サンドゥル)1
  169 融氷河水流の氾濫源(サンドゥル)2
c雨水
  170 花崗岩の風化
  171 石灰岩の風化
  172 石灰岩の溶食地形 ― ドリーネ
  173 雨水が穿った溝 ― ガリ1
  174 雨水が穿った溝 ― ガリ2
  175 雨水が穿った溝 ― ガリ3
  176 雨水の彫刻 1
  177 雨水の彫刻 2
d河川
  178 グランドキャニオン
  179 リトル・コロラド川
  180 河岸侵食
  181 山間を流れる川
  182 モニュメント・バレー
  183 流れがつくる砂模様 ― リップル 1
  184 メコン川
  185 流れがつくる砂模様 ― リップル 2
  186 リップルが残した地層
  187 イラワジ川の河口
  188 網状河道
  189 トラバーチンの帯
  190 トラバーチンの棚田
  191 トラバーチンの積もり方
  192 全面結氷も間近のウスリー川
e海
  193 波による研磨
  194 ドーバー海崖
  195 海食崖と海食洞門
  196 馬の背洞門
  197 離れ岩
  198 砂州と離れ岩
  199 かつての海底がなす高台
  200 大陸はどこに?
f風
  201 メキシカン・ハット
  202 茸岩
  203 砂丘
  204 砂丘群
  205 砂丘がつくった地層1
  206 砂丘がつくった地層 2
g侵食作用の果て
  207 欧州大陸東部の分水界
  208 準平原
h地形の人工改変
  209 鳥形山
  210 武甲山 1
  211 武甲山 2
  212 採石場跡
  213 平原の採石場
  214 ボタ山
  215 石炭列車
  216 干拓ダム
  217 万里の長城

地名・地層名索引

序文

序文

 私は旅が好きです。もう少し正確に言えば,乗り物に乗ることと,次から次へ移り変わる景色を眺めることをこよなく楽しみとしております。初めての地ではもちろん,十年一日のごとく利用している通勤電車でも,よほどの美人と乗り合わせない限り,飽くことなく猥雑な都心の景色に眼を遣っています。
 景色とは,地形(地殻表面の起伏),植生と水,それに人の生活の営み,この3者が織りなす景観です。1つだけが卓越して他の要素が希薄な景観も,3者がほどよく混交している景観もあります。空は重要な舞台装置です。
 地質学を専攻する私は,植生と人手のベールで覆われている部分がなるべく少ないところを選んで調査してきました。まず地形を観察します。地形は地下の地質構成や地質構造を反映していることが多いものです。岩石が地表に現れているところ(露頭)では,直接その岩石がもつ地質時代の事件の記録を読み取ります。
 デジタル・カメラが出まわるまでは,撮影した地形や露頭がうまく写っているかどうか,現像するまで分かりませんでした。また,現地では明瞭に判別できた被写体が,モノクロ写真ではもちろん,カラー写真でも見分けがつかないことが少なくありませんでした。そこで風景にしろ露頭にしろ,被写体を簡単にスケッチしておくことが肝要です(次の頁参照)。これを怠るとタを活用することができない羽目となります。現像済みの写真と照合すればスケッチは御用済みです。
 しかし不思議です。現場でははっきりと識別できたものが,なぜ写真では判りにくいのでしょうか。それは人間の眼の特性です。肉眼では,見たいもの,興味あるものが優先的に認識されますが,すべてを1つの平面に投影した写真では,その特性が効かずに,必要なものも邪魔なものも同等に存在を主張しています。
 そこで,写真を眺めてスケッチを起こせば両者の特性を活かせるのではないかと考えました。そのスケッチがかなりの数に達したので,地質学の枠組みに合わせてまとめてみました。ズブの素人の自己流作品ですから,水彩画のもつ,エキスを抽出したような軽妙さとはほど遠いものばかりです。画題はすべて私が訪れて観察したものであるため,地域は大きく偏っています。また,最初から出版を目指して描いてきたわけではないので,扱った分野にも軽重があります。それを無理に系統的に配列しようとしたため,かえって混乱している感も否めません。
 『何が描いてあるのだ』という疑問が生じたら,添えてある説明文を読んでください。断片的かつ舌足らずで理解しにくいかもしれませんが,一通り説明したつもりです。本当は,巻頭の解説を読んでから,順にページを繰っていただきたいところですが,それでは「必修一般教育科目の講義」となってしまいます。それでも構わないという読者のために,解説のなかで簡単に定義や説明をした語には,*がついています(例:地球 ⇔ 地球*)。
 さあ,地質探検旅行に出かけましょう。

2007年12月
坂 幸恭