トップページへ

犬は「しつけ」で育てるな!
群れの観察と動物行動学からわかったイヌの生態

堀明[著]

1500円+税 四六判 240頁 2007年1月下旬発行 ISBN978-4-8067-1342-5

“しつけ”よりも大切なこと教えます。

愛犬がすくすく育ち、イヌも飼い主もハッピーになれる本。

127匹におよぶ犬の観察から見えてきた新事実!
珍しい写真もいっぱい!
「DOG FAMILY」で大好評の連載に大幅加筆した決定版!

●子犬のときに親きょうだいと共に過した期間が知能に大きく影響する
●イヌなのにイヌがこわいのは、なぜ?
●問題行動の本当の原因って何?
●こうして決まるイヌの一生
などなど……犬好きがほんとうに知りたい情報が満載!

犬について次のような「思いこみ」はありませんか?

□厳しく接しないと、犬は飼い主をバカにする
□犬は威張りたくて、人にマウンティングする
□問題犬には、「罰」が必要だ
□飼い主のしつけや態度にこそ、犬の問題行動の原因だ

これらはすべて誤解です!(詳しくは本書1章をお読みください)

【主要目次】


はじめに〜イヌの「しつけ」に、異議あり!


1章「犬の常識」のウソ〜イヌは「支配」と「服従」では理解できない!

常識のウソ@
「イヌが散歩のときリードを引っぱるのは、自分の優位性を主張したいから」

 イヌは、うれしいから先に行こうとする
 放し飼いにされているイヌは、絶対に引っぱらない
 引っぱらないイヌにするには?
 「クビに不快感を与えるしつけ」は間違い

常識のウソA
「飼い主の手を咬むのは、飼い主をバカにしているから」

 ダメなイヌになるのは、飼い主のせい?
 なぜイヌの問題行動は起こるのか?
 「社会化」されていないイヌが、人を咬む

常識のウソB
「飼い主に飛びつくのは、イヌが威張っている表れ」

 「飼い主の顔に近づきたい」というイヌの心理
  イヌは、自分を人間だと思っている?

常識のウソC
「イヌは、人間の家庭のボスになりたがる」

 誰も守ってくれないから、あらゆる人に吠え、すべてのイヌを威嚇する?
 イヌは、飼い主の強さや大切さを知っている

常識のウソD
  「イヌ社会の上下関係は絶対だ」

 大きな群れの序列は不安定
 イヌの社会では、「経験」と「知恵」が大切にされている


2章 ほんとうのイヌに出会う

1 群れのイヌはケンカを止める〜「思いやり」はイヌにもあるのか?
 イヌは平和主義者?
 助け合いの精神は、人とイヌの出会いのひみつ

2 「服従のポーズ」と思われているイヌのしぐさは愛情表現だった
 「服従」は愛のもうひとつの形である
 「愛」を鍵にイヌの世界を理解してみよう

3 悪いと思わなくても罰をうけ、罰によって規則を学ぶ
  反省したから謝るのではなく、罰を恐れて謝る?
 「ノー・タッチ」の原則を教えるために、父が子を見張る

4 群れと暮らしてわかった「マウンティング」の本当の意味
 「レディーファースト」や「かかあでんか」もある年功序列型
 「マウンティングは上下関係だ」という一面的な見方
 コントロールよりコミュニケーションが大切

5 イヌには生まれつきの攻撃性があるのか?
 もめごとは一気に広がり、群れ全体に伝播する
 イヌも「いじめ」をする
 イヌのけんかは、すばやく止めろ!

6 イヌの世界を知れば、散歩のし方も変わってくる
 どうしてイヌの嗅覚は発達したのか?
 においをクンクンしているイヌを叱らない

7 イヌをもっと知ろう!〜これだけは知っておきたい犬の生態
 耳〜「待て」と「立て」では混乱する
 イヌたちは別世界に住んでいる
 目〜ボールの色には注意して
 なぜ、イヌはまごまごするのか?
 舌〜イヌは、おいしいものをよく知っている
 甘味には敏感だが、塩分には鈍感6


3章 イヌの問題行動は「しつけ」のせいではない

8 イヌなのにイヌがこわい……「遊べない症候群」という現実
 もし幼稚園児をこわがる大人がいたら、あなたはどう思う?
 遊べないイヌを調べてわかった新事実
 あなたの愛犬は、生後何日で親きょうだいと別れたのか?

9 イヌの一生はこうして決まる
 「すり込み期」というとても大切なプロセス
 子イヌの一カ月は、人間の二年に相当する
 スキンシップで知能は高くなる

10 ダメなイヌたちの困った行動〜飼い主は自分を責める必要はありません
 母イヌからの「すり込み」がないイヌが人にマウントする!
 なぜ、「むだ吠え」をするのか?
 ストレスのしわざ? それとも遺伝子のしわざ?
 「訓練士」「カウンセラー」に気をつけろ!
 問題行動のほんとうの原因は?
 ダメなイヌから生まれた子は、やはりダメなイヌになるのか?

11 最高の犬【トモ】を得る秘訣を教えます!
 いつ、どうやって子イヌを迎えればいいのか?
 あなたの愛犬、どうすれば社会性が身につくのか?
 いっしょに遊ぶのは、あなた自身
 繁殖家の方へ〜日本の犬を幸せに
 
 あとがき
 参考文献リスト

【書評再録】

●RETRIEVER(2007年1月号)
「どうすれば理想的なレトリーバーに育つか」を考える上で、座右におきたい一冊だ。

●愛犬の友(2007年3月号)
犬が何に幸せを感じているのかを説明しながら、私たち人間と素敵な関係が築ける近道を示しています。改めて犬のおもしろさ・かわいさを感じること間違いなし!

●わんLOVE(2007年2月号)
犬好きが本当に知りたいホットな情報が満載。犬の生態についての斬新なアプローチは、“日本の犬が幸せになる本”として話題沸騰の予感!

●四国新聞(2007年2月4日付)
母犬の刷り込みを受けずに育った犬が問題行動を起こすことを具体的なデータで示し、多くの子犬が生後1ヵ月程度で親から離されてペットショップで育たざるを得ない、現在のペット業界の流通そのものへの問題提起ともなっている。

●おきなわJOHO(2007年2月号vol.278)
犬の問題行動の原因は生後すぐに母犬から離され、ペットショップの檻の中で過ごす「犬の流通」にある、と直言。

●読売新聞(2007年3月11日付)
生後すぐに親、兄弟と引き離された犬ほど、ほかの犬を恐れたり、逆に威嚇するなど、犬どうしのコミュニケーションを上手に取れない。長野県・八ヶ岳犬の牧場に住み込んだ著者が観察結果をまとめた。ペットはかわいさが重視され、幼齢犬ほど人気だが、著者は、最低でも60日間は、親、兄弟と一緒に過ごすことが必要、と言う。

●サンデー毎日(2007年4月1日号)
「スパルタ式教育」に真っ向から反対するしつけ本が売れている。初版は発売後1ヵ月でほぼ完売。内容の“異端さ”はもちろん、文中で“スパルタしつけ本”の書名と著者を名指しで批判している点が大きな特徴だ。

●BRUTUS(2008年3月1日号)
「いい犬」に育てようと厳しくしつけるより、犬の生態を知り、それに沿った暮らし方を選ぶべきでは・・・・・・?自らの体験に基づいて綴る。
【はじめに】


「支配」と「服従」だけでは愛犬は育たない
 愛犬に「しつけ」を試みてもいっこうに効果がない。
 あなたにそんな経験はありませんか?
 本屋さんには、「こうすれば犬が賢くなる」「○○式訓練法で、快適ドッグライフ!」といったタイトルの「イヌのしつけ本」がたくさん並んでいます。
 それぞれの本には、その著者なりの見解やノウハウが示されています。しかし、ほとんどの本には、「イヌは支配性が強い」とか「イヌには服従訓練が必要」といった点ばかりが強調され、似たようなことが書かれています。
 しつけについては、「〜のときは〜しなさい」というハウツーが書かれているだけで、なぜそうした対応が必要なのか? その理由が書かれていないものもあります。
 「イヌとは、どんな動物なのか」「イヌは、どんな心を持っているのか」「なぜ、イヌの問題行動は起こるのか?」ということがわからなければ、しつけはもちろん、愛犬を理解することはできません。
 そして、この疑問に、体系的に、ズバリ明快に答えている本は、私の知る限り見当たりません。
 なぜでしょうか?
 
 その最大の理由は、「イヌたちのほんとうの生活」について、観察する場所がなかったからだと思います。

 イヌは元来、群れをつくることで社会生活を送る動物です。
 仲間との関係によって、イヌのさまざまな行動は決まります。そして、イヌたちはそれぞれの個性を持っています。その行動は多面的でバラエティーに富んでいます。ですから、イヌのことは、群れでたくさんのイヌをじっくりと観察しなければよくわかりません。
 また、動物行動学の専門知識も必要です。
 
イヌの問題行動があふれているのはなぜだ!?
 Tイヌのほんとうの姿Uを書くために、私が自らに課したルールは、次のようなことです。
 
 ●先入観にとらわれずに、イヌのしぐさと生活を徹底的に観察する
 ●イヌの生態を写真で記録する
 ●イヌが「なにを思っているか」をイヌの視点に立って考える
 ●イヌの困った行動の原因を科学的に究明する。そのためにデータを集める
 ●私自身の観察や体験を紹介しながら、生物学、心理学、脳科学など最新科学の成果に裏打ちされた記述を心がける。
 
 このルールを守るために、自分の持てる力を最大限に発揮しようと努めました。
 さて、なぜ「発揮しようと努める」ことが可能になったか、をお話しします。
 私は八ヶ岳「犬の牧場」で、T半自然状態Uのイヌたちと寝食をともにするように暮らしたのです。
 そこでは、一二七匹のイヌたちが飼育され、その多くが日中は、放し飼いにされていました。敷地面積は、約六万平方メートル。東京ドームの敷地面積と比較すれば、その一・三倍という広さです。フェンスで囲っていないので、文字どおりの「放し飼い」です。
 この「犬の牧場」で、私は、五〇〇日近くにわたって、イヌたちの行動を観察し続けました。そしてひとつの結論を得たのです。
 
 イヌについての理解が混乱しているのは、「社会性」を身につけたイヌとそうでないイヌを区別せずに、イヌを語るからだ。
 
  「社会性を身につけたイヌ」については、3章で詳しく説明します。
 イヌなのにイヌをこわがる。世の中には、そんなイヌがたくさんいます。まるで自分が、イヌであることを忘れているかのように。これはきわめて異常なことです。
 その一方で、手当たりしだい、イヌを攻撃するイヌもいます。「ドッグ・ラン」で遊ばせていたら、イヌどうしの大げんかになったという話も、よく耳にします。なかには人を咬むイヌもいます。そのせいで、ケガを負う人も少なくありません。
 なぜでしょうか?
 その疑問の答えを、私は見つけることができました。
 
群れを観察してわかった新事実
 「犬の牧場」のイヌたちのほとんどは、ゴールデンレトリーバーです。私は、かれらの群れの生活を通して、「イヌ」を考えました。ですから、本書に書かれたイヌの行動の大部分は、ゴールデンレトリーバーの観察に基づいています。そのことを、はじめに断っておきます。
 この本では、まず、イヌは人間を支配したがるという「イヌについての常識」に対して、疑問を投げかけ、いくつかの批判を試みました。
 これは、私自身の体験から、世の中の「イヌについて常識」の多くが、じつは大間違いだったと気づいたからです。しかも、その間違いはイヌたちを不幸にする結果を招いています。その意味で、この批判は、本書の執筆にあたって避けて通れないことでした。
 1章では、私の考えをごく簡潔に述べるにとどめています。なぜそういうことが言えるか、その証明は2章以降に書きました。ですから、1章は、本文を読み進めるためのガイダンスと思って気楽に読んでいただいてもかまいません。
 この本の中で皆さんは、群れの序列やイヌの攻撃性、子イヌの成長の仕方などの点で、これまでの「イヌの本」に書かれていないことを目にすることと思います。
 特に、子イヌ時代の体験が、その後のイヌの成長にとってどんな影響を与えるかについて多くのページを割きました。
 それは、「しつけ」以前に、そのしつけより数倍、いや数百倍以上も大切なことがあるのをぜひ知っていただきたいからです。その大切なことをなおざりにして、「しつけ」をいくら試みても、イヌは育たないのです。
 そしてここにこそ、イヌたちがすくすくと幸せに育つ「秘訣」が隠されているのです。
 
イヌに特に興味がなくても
 これから本書で述べる内容は、イヌの群れに密着できたからこそわかったことです。
 私自身、イヌたちの群れと暮らしてみて、はじめて知ったことがたくさんあります。
 本書の記述では、イヌだけでなく、人間やほかの動物も引き合いに出しています。そのほうが、イヌについての理解が深まるからです。これには、イヌのことを学ぶことで人間についてもっと深く知れるのではないかという、私の考えも反映しています。
 特別イヌに興味がない人でも、「動物記」あるいはちょっと変わった「ミステリー小説」でも読むような感覚で、楽しみながら読んでいただけるように書いたつもりです。一部にやや専門的な箇所がありますが、もし「ここは、難しいな」と感じたら、飛ばして読んでくださってもかまいません。それでも、本書の趣旨はじゅうぶんに理解できるはずです。
 それでは、まず、「イヌのしつけにまつわる常識」について、検討していくことからはじめましょう。