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IPM総論
有害生物の総合的管理

ロバート・ノリスエドワード・カスウェル-チェンマルコス・コーガン[著]
小山重郎小山晴子[訳]

28000円+税 A4変型版 上製 472頁 2006年5月発行 ISBN4-8067-1333-3

今後の持続的農業生産を確実なものとする、
IPM(総合的有害生物管理)のすべてを
包括的に理解できる決定版、待望の翻訳!

昆虫学、植物病理学、線虫学、雑草学を背景に、
有害生物管理についての総合的で学際的な手法を解説。

IPMを、病原体、雑草、線虫、軟体動物、節足動物(昆虫、ダニ)、
脊椎動物に適用するための基礎的な原理を示し、
環境に優しく、かつ人間社会に受け入れられる方法で、
有害生物による被害を許容水準以下に保つための手法を説く。

本書の特徴
●作物保護に関する、すべての専門分野の情報を総合的に解説。
●各専門分野を横断する現実的な考え方を提供し、
 農業生態系におけるすべての生物の相互依存性を示している。
●IPMの実行経過と実施事例を豊富に掲載。
●各専門分野における最新の技術を紹介。

書評再録 読者の声
【目次】

序文
謝辞

第1章 有害生物、人々、そして総合的有害生物管理
序論
  有害生物の定義/応用生態学
有害生物の地位
  有害生物/作物(寄主植物)/環境/時間
有害生物の重要性
  有害生物によってもたらされる全体的損失
有害生物管理
  IPMの定義/我々の概念/歴史的展望/人口の展望/農薬の展望

第2章 有害生物とそれらのインパクト
有害生物の一般的インパクト
  植物の部分の消費/化学的毒素、誘導因子、そして信号/物理的被害/
  収穫物の品質の損失/外観被害・美学/病原体の媒介/直接的汚染/
  防除手段を実施するための費用/環境的、社会的費用/
  輸入禁止、検疫、そして輸送費用
植物病原体
  生物の記述/植物病原体によってひき起こされる特別な問題
雑草
  生物の記述/雑草によってひき起こされる特別な問題
線虫
  生物の記述/線虫によってひき起こされる特別な問題
軟体動物
  生物の記述/軟体動物によってひき起こされる特別な問題
節足動物
  生物の記述/植物に関連して節足動物によってひき起こされる特別な問題
脊椎動物
  生物の記述/脊椎動物によってひき起こされる特別な問題

第3章 有害生物管理の歴史的発展
序論
古代(西暦紀元前1万年から0年まで)
  出来事の要約/古代における重要な年代記
西暦紀元1年から中世まで
  出来事の要約/重要な年代記
17世紀
  出来事の要約/17世紀における重要な年代記
18世紀
  出来事の要約/18世紀における重要な年代記
19世紀
  出来事の要約/19世紀における重要な年代記
20世紀前期(1900年から1950年まで)
  出来事の要約/20世紀前期における重要な年代記
20世紀後期(1951年から2000年まで)
  出来事の要約/20世紀後期における重要な年代記

第4章 生態系と有害生物
序論
生態系の組織と遷移
  遷移の概念
定義と用語
  食植者と食植性/食肉者/雑食者/単食性/狭食性/広食性/寄主/被食者/
  捕食者/寄生者と捕食寄生者/高次寄生者と高次捕食寄生者
栄養動態
  一般的概念/「下から上へ」と「上から下へ」の過程/
  基本的食物連鎖(節足動物、線虫、脊椎動物)/病原体の食物連鎖
  雑草の食物連鎖/食物網/動物にもとづく食物網/栄養的関係の要約
限界のある資源と競争
  環境収容力とロジスチック成長/r―選択生物とK―選択生物/競争/
  密度依存的現象

第5章 有害生物の比較生物学
序論
有害生物個体群制御にかかわる概念
  生殖/繁殖力と産子数/個体群世代時間/栽培シーズン当たりの生殖サイクル/
  寿命と死亡/休止と活動停止/積算温度と日度/脱皮と変態/生命表/
  基本的な生活環のモデル
伝播、侵入、そして定着の過程
  伝播のメカニズム/季節的移動と運動
有害生物の遺伝学
  遺伝的変異性/病原体/雑草/線虫/軟体動物と脊椎動物/節足動物/
  有害生物の遺伝学の要約

第6章 有害生物のカテゴリー間の相互作用の生態学
序論
エネルギ−・資源の流れ(栄養動態)による相互作用
  多数の一次消費者の攻撃/直接的相互作用/間接的相互作用/
  多栄養的相互作用(直接的と間接的)/三栄養的相互作用
生息場所の改変
  変更された資源濃度/変更された見えやすさ/微環境の変更
食物源または生息場所の改変によってもたらされる相互作用の要約と重要性
  病原体/線虫/軟体動物/節足動物/脊椎動物
物理的現象による相互作用
  寄主への物理的被害/物理的外部的運搬/物理的内部的運搬
有害生物の相互作用のIPMにおける意味と経済的分析

第7章 生態系の生物多様性とIPM
序論
生物多様性と農業
  多様性のスケール/生物多様性の利益
説明された生物多様性
IPMに対する生物多様性の重要性
  病原体管理/雑草管理/線虫管理/軟体動物管理/節足動物管理/
  有害脊椎動物管理
IPMシステムにおける生物多様性の利用
  費用―利益分析手法/特別な配慮・適用可能性

第8章 有害生物管理の意思決定
序論
問題の診断
  有害生物の同定/モニタリング/有害生物の空間的パターン/
  サンプリングの統計学
有害生物個体群の評価のための技術
  有害生物のモニタリング/モニタリングについての全般的配慮/
  特別なモニタリング用具と技術/サンプリングで考慮されるべきこと/
  逐次抽出法/作物のサンプリング/サンプリングのパターン/記録保存/
  訓練
閾値
  被害の概念/経済的被害許容水準/閾値のタイプ/閾値の例/閾値の限界
有害生物管理の意思決定に影響する他の要因
  栽培の歴史/圃場の位置と大きさ/天候のモニタリング/
  出来事を予測するためのモデル/外観基準/リスク評価・安全性/経済性
要約

第9章 IPMのための戦略と戦術への序説
序論
主要なIPMの戦略
IPMの戦術
  有害生物の操作/作物の操作/環境的操作
その他の概念  157
  有害生物の抵抗性/防除の選択性

第10章 有害生物の侵入と法制的予防
序論
歴史的展望
  コムギのさび病の物語/外来有害生物の概観/程度と費用
侵入と導入のメカニズム
  生態学的見地/意図的な導入/偶然的導入/未知のメカニズムによる導入
規制の前提
侵入予防の法律上の観点
  有害生物の輸送を規制するための法制/国際的規制/国家的規制/
  アメリカ合衆国における主要な法律
有害生物リスク評価
  定義の困難性/有害生物リスク分析/規制の選択肢
排除
  有害生物阻止戦術/強制的活動
早期の検出
封じこめ、防除、あるいは根絶
  封じこめ/防除/根絶
要約

第11章 農薬
序論
  農薬の有利性/農薬の不利益/現在の使用状況
農薬のタイプ
歴史的状況
  無機化合物/有機合成化合物/生物農薬
農薬発見の過程
化学的特徴
  農薬の命名/化学的関連/有機合成農薬の作用機作/有害生物による農薬の取得
  /施用時期による農薬の分類
施用技術  202
  剤型/補助剤/施用機具・技術
環境に対する配慮
  揮発性/漂流飛散/土壌中の農薬のふるまい
農薬間の相互作用
  剤型の不一致/作物の耐性の変化/効力の変化
農薬の毒性
  薬量・反応関係/急性毒性/慢性毒性/暴露のタイプ/危険性/残留/許容量/
  再立ち入り禁止期間/収穫前使用禁止期間
農薬使用の法律的局面
  農薬規制の概観/農薬規制の歴史/規約と規制/FIFLAの主要な必要条件/
  /農薬の限定的使用/EPAによる農薬の連邦登録のための必要条件/
  農薬のラベル/州および地方の農薬規制/農薬使用者/農薬使用の報告/
  農薬使用者の保護/農薬による健康障害
消費者保護
 食品中の農薬残留の検出

第12章 抵抗性、誘導多発生、置き換え
序論
抵抗性
  歴史的展開とその程度/抵抗性の用語/抵抗性の発達/適合度/抵抗性の強さ/
  抵抗性発達の速度/抵抗性のメカニズム/抵抗性の測定/抵抗性の管理/
  実施上の問題点/抵抗性・管理の実例
誘導多発生
置き換え
3つのRについての警告

第13章 生物的防除
序論
なぜ生物的防除か?
生物的防除の概念
  定義/概念/栄養的関係に立ち戻る/その他の概念と用語/基礎的原理/
  生物的防除に対する束縛
生物的防除のタイプと実施
  古典的生物的防除/接種的生物的防除/増強的生物的防除/
  大量放飼的生物的防除/保全的生物的防除/競争排除/抑止土壌の導入
さまざまな資材を用いた生物的防除の実例
  天敵としての病原性寄生者/資材としての雑草を含む植物
  資材としての線虫/資材としての軟体動物/資材としての節足動物/
  資材としての脊椎動物
要約

第14章 行動的防除
序論
  行動的防除の有利性と不利益/動物の行動/行動的防除法の様式
視覚にもとづく戦術
  節足動物のための視覚にもとづく戦術/脊椎動物のための視覚にもとづく戦術
聴覚にもとづく戦術
嗅覚にもとづく戦術
  定義と原理/情報化学物質の化学と合成/配置技術/
  IPMにおける情報化学物質の適用
食餌にもとづく戦術

第15章 物理的、機械的戦術
序論
環境修正
  温度/水/光
有害生物の物理的排除
  障壁/物理的トラップ
有害生物の直接的防除
  射撃/手労働/機械的耕耘・耕起/特殊化された機械的戦術

第16章 有害生物の耕種的管理
序論
予防
  可能性/有害生物の運搬の予防/有害生物フリー作物の植え付け/限界
衛生
  可能性/限界
作物寄主フリー期間
  可能性/限界
代替寄主の防除
  可能性/限界
輪作
  可能性/限界/休閑
植え付け日
  可能性/限界
作物密度・間隔
  可能性/限界
作物の下準備または前発芽
  可能性/限界
深植え
移植
  可能性/限界
土壌条件
  可能性/限界
肥沃度
  可能性/限界
保護作物
  可能性/限界
トラップ作物
  可能性/好まれる寄主としてのトラップ作物/
  孵化・発芽刺激剤としてのトラップ作物/限界
拮抗植物
  可能性/限界
収穫スケジュールの修正
  可能性/限界
作物品種
間作
  可能性/限界
生垣、圃場の縁とレフュージア
要約

第17章 作物の寄主植物抵抗性と作物および有害生物のその他の遺伝的操作
序論
寄主植物抵抗性
  有害生物管理のための寄主植物抵抗性の有利性
慣行的植物育種
  原理/抵抗性のメカニズム/抵抗性の生理学的基礎/抵抗性の遺伝学/
  抵抗性のための慣行的植物育種の実例/限界
遺伝子工学
  原理/有害生物管理のための遺伝子工学の例/遺伝子組み換え作物の採用/限界
IPMにおける有害生物遺伝学の適用
要約

第18章 IPMプログラム:開発と実施
IPM再訪
  定義/IPMの目標/IPM戦略/IPMのレベルと総合
IPMプログラムの開発
  IPMプログラムの主要な局面/一般的考慮
IPMプログラムの実例
  レタスのためのIPM/ワタのためのIPM/梨果のためのIPM
IPMプログラムの実施
  決定的な問題/IPM従事者/IPM情報の源/IPMプログラムの採用
要約

第19章 IPM戦術に対する社会的、環境的限界
社会的束縛と一般市民の態度
  農業生産への関与/有害生物の侵入/外観基準/
  好み、食物の品質とIPMにおける農薬の使用/
  農薬の使用に代わるべき有害生物管理/関心の不一致
環境的問題  381
  土壌の侵食/大気汚染/絶滅危惧種/食物連鎖への配慮/湿地帯/地下水汚染/
  遺伝子の放出の重要性/生物的防除資材の放飼の重要性/
  生物多様性へのインパクト
要約

第20章 将来のIPM
序論
IPMにおける進歩をいかに測るか
可能な変化の方向
  有害生物の生物学と生態学/有害生物のモニタリングと意思決定/
  立法による防除/農薬/抵抗性、誘導多発生、置き換えの管理/生物的防除/
  行動的防除/耕種的戦術/物理的、機械的防除/寄主植物抵抗性・植物育種/
  IPMシステム/有害生物防除勧告
戦略的開発
要約

資料と引用文献
生物名一覧表
用語解説
索引
訳者あとがき

【序文】

 有害生物防除の進歩は、20世紀に起こった食糧と繊維および観賞作物の収量と品質を改善することに貢献してきた。しかしながら、ある有害生物防除技術の開発と広範な採用は、環境的インパクトと食物の安全性についての社会の懸念なしに起こったものではない。総合的有害生物管理(Integrated pest management:IPM)は、20世紀の後半に有害生物防除のための1つの選択のパラダイムとして起こった。そしてこれは、有害生物防除システムの企画と実施に、基礎的生態学的概念を組みこむ必要があることを強調した。総合的有害生物管理は、有害生物の群集と生態系のレベルでの相互作用を含む、生物学と生態学の詳細な視野を必要としている。
 この本は、総合的有害生物管理の概念を、予備的生物学コースを修了した上級学部学生と大学院学生に教えるためのテキストとして意図されたものである。もし、学生が植物学、昆虫学、無脊椎動物学、脊椎動物学のより特殊化されたコースをとっていれば、もっと望ましいであろう。この本は、総合的有害生物管理プログラムの基本的な概念を説明している。我々は専門分野の境界を越えて進み、IPMの概念をすべての有害生物のカテゴリーに関連して考察する。このカテゴリーには病原体、雑草、線虫、昆虫、軟体動物、脊椎動物の有害生物が含まれる。可能なところでは、我々は有害生物のカテゴリーの間の相互作用について考える。
 この本は、環境と社会への有害なインパクトを避けながら、経済的に実行可能な生産システムにおいて、有害生物を管理することが、いかに複雑であるかを強調している。総合的有害生物管理は進行中の仕事である。我々は真の総合的有害生物管理の目標に向かって、広い展望からIPMを教えるうえでの助けになるような本を作ろうとした。IPMの究極の目標は、これまで有害生物の専門分野の間にしばしば見られた障壁を壊して、管理戦術の完全な総合を達成することである。実際、IPMの適用と実現は各栽培システムで変わり、ある農業生態系では他のものよりも、より総合的な方法で管理される。IPMの将来は好機と挑戦に向かって約束されている。IPMの改善は、可能な総合の最高のレベルを達成するために、ともに働く植物病理学者、雑草科学者、線虫学者、昆虫学者、応用脊椎動物学者の継続的な努力にかかっているであろう。
 この本は、特定の有害生物管理についての「ハウツウ」マニュアルではない。我々は、管理者が理解し応用すれば、彼等の地域の中にいきわたっている農業生態学的条件のためのシステムを、企画することを助けるような概念と原理を強調する。我々はIPMの国際的実例を用いてきた。しかしながら、特定の作物の特定の有害生物をいかに管理するかについては、特殊化された詳しい出版物の中で見いだされる。この本は、有害生物管理の原理が生態系を通じていかに適用されるか、それぞれの戦略が有害生物のさまざまなカテゴリーにいかに関連しているか、またこれらの戦略がいかに生態系と人間社会にインパクトを及ぼすか、を示している。我々は、この本で一次的文献の総説の場合に行なうような文献引用の体裁をとらなかった。むしろ我々は、資料と推薦文献を各章の終わりに示し、学生がそれを参照できるようにした。我々はここで、IPMの発展に基礎を提供するような仕事をしたすべての著者に心からの感謝を述べたい。
 多くの人々が、総合的有害生物管理の発展と集団的な考察に貢献してきた。それらをいちいちあげることは不注意な見落としの危険を犯すことになるであろう。我々はそれ故、IPMのすべての先覚者と20世紀の農業科学における偉大な進歩の1つとなったものの建築ブロックに貢献してきた多くの人々に対して、全体的に謝意を述べることを選びたい。
 この本の最初の3つの章は導入部である。第1章では有害生物と人間社会を扱い、有害生物という用語と有害生物に由来する損失を定義する。第2章では、さまざまな有害生物のカテゴリーをより深く紹介する。第3章では有害生物防除の歴史を概観する。次の4章(第4〜7章)では有害生物の生物学と生態学を取り扱う。第8章ではモニタリングと管理の意思決定を行なうために、情報がいかに用いられるかを記述する。第9章では有害生物管理の戦術が紹介され、第10章から第17章までは、戦術のそれぞれについてより詳しく探究する。第18章ではIPMプログラムを論議し、レタス、ワタ、梨果などの作物からケースヒストリーを示す。第19章ではIPMの社会的影響を論議し、第20章においてはIPMの将来をおおまかに展望する。
 この本は、持続的農業生産に関連する要素を詳細に述べている。現在、多くの工業国で行なわれている大規模農業は、長期的には持続的でないことが認識されるべきである。世界の人口が増加し続けるとすれば、このことは1つの問題である。農業は人間による環境の操作であり、もし人間の管理と投入が除かれるならば、このシステムは最終的にはその地域の原始的な極相植生に戻るであろう。
 おそらく農業の持続性に対する害虫の潜在的インパクトの最も知られた実例は、ペルーの沿岸谷のいくつか、特にカニェートバレーのワタの生産であろう。1920年代にこの谷の栽培者は、サトウキビの生産からワタの生産に変更した。収量は低く、1エーカー当たり300〜400ポンドであったが安定していた。第二次世界大戦の間のワタの需要とDDTの出現とともに、ワタの生産は強化され、収量はほとんど倍になったが、それはきわめて短い期間であった。間もなく二次的有害生物が現れ始め、定着した有害生物はすべての殺虫剤に対して抵抗性となった。散布の回数は増えたが、収量はもはや経済的レベル以下に低下した。多くの栽培者は破産し、この作物は総合防除の新しい技術が導入されるまで放棄された。カニェートバレーのドラマは、ある生態系の要素の間に存在する微妙なバランスの証人である。この本で我々は、経済的で持続的な農業システムを維持するという文脈の中での有害生物管理を示そうと試みるものである。

 この本では、特定の管理戦術や管理に用いられる製品について言及したり記述していても、それらの戦術や製品を著者らが承認したり推薦したりしているわけではない。

【訳者あとがき】

 この本はRobert F. Norris, Edward P. Caswell - Chen and Marcos Kogan(2003)Concepts in Integrated Pest Managementの全訳である。
 本書の主題であるIntegrated Pest Management(IPM)は、その概念のはじまりにおいてはIntegrated Control(IC)といわれており、我が国ではこれが「総合防除」と訳されて、深谷昌次・桐谷圭治編(1973)『総合防除』(講談社)や、桐谷圭治・中筋房夫(1977)『害虫とたたかう−−防除から管理へ』(日本放送出版協会)などによって紹介された。やがて、この概念は発展をとげてIPMとなったが、この概念が害虫防除の分野で早くとりあげられたため、「総合的害虫管理」と訳されることが多かった(例えば、中筋房夫〈1997〉『総合的害虫管理学』養賢堂)。その後、これには病害や雑草の防除の分野も当然含まれることが認識され、最近ではIPMを「総合的病害虫・雑草管理」と訳すようになっている(例えば、安藤由紀子〈2006〉植物防疫60: 93-95)。しかし、この本ではpestとして、病原体、雑草、線虫、軟体動物、節足動物、脊椎動物という「有害生物」のすべてを含んでいるので、訳書ではIPMに対して「総合的有害生物管理」という訳語を用いることとした。
 総合的有害生物管理(IPM)という概念は、1950年代から1960年代の農薬万能時代を経験した世代にとっては、それから抜け出すための努力とともに、まことに印象深いものがあるのだが、この概念がほぼ定着した最近の研究者、技術者の間では、IPMの要素としての農薬以外の防除資材や新しいタイプの農薬についてのきわめて専門化した研究・技術への関心が大きく、IPMの概念そのものへの理解は、むしろ薄いのではないかと思う。訳者はかねがね、これから我が国の有害生物管理を担う若い学生や研究者のために、この一冊を読めばIPMのすべてを理解できるような本を待望していたが、この本は、ほぼその目的をかなえるものといえよう。
 この本の特徴の第一は、有害生物(pest)としてすべてのカテゴリーの生物、すなわち病原体、雑草、線虫、軟体動物、節足動物、脊椎動物、を総合的に取り上げていることである。総合的有害生物管理(IPM)は本来、作物を中心として、これに害を及ぼすすべての生物を対象にすべきであろうが、我が国では病害、害虫、線虫、鳥獣害防除や農薬などの専門的参考書は多いが、これを総合的に扱う本は少なかった。このことはアメリカ合衆国でも同様のようで、この本では有害生物のすべてのカテゴリーを総合的に扱うということをこの本の1つのチャレンジとして強調している。本書を学ぶことによって、真のIPMを推進することができるのではないかと期待するものである。
 この本の第二の特徴は、IPMの概念(concepts)を扱っていることである。IPMは、対象とする作物に特異的な問題を扱う。この本はアメリカ合衆国の学生向けの教科書として書かれたものであるため、その実例は主としてアメリカ農業から取られている。アメリカ農業には我が国との共通性も少なくないが、もしこの本から我が国の具体的なIPMの指針を得ようとするならば、必ずしも参考にはならないかもしれない。しかし、この本は序文にも書かれているように、ハウツウ(how-to)マニュアルを求める読者のために書かれたものではない。そこには主としてアメリカ農業の実例を取り上げながらも、万国共通のIPMの「概念」が述べられている。したがって、読者はこの共通概念を学ぶことによって、我が国の実情に合ったIPMを作りだしていくことができるのではなかろうか。
 訳者の1人はこれまで、国、県の農業試験場において害虫防除の分野で働いてきたが、病害、線虫防除や農薬などについての知識は限られていた。また害虫分野でも近年の進歩は著しいものがある。そこで訳出にあたっては、後に示した参考文献を参照するとともに、植物病理学、昆虫学、線虫学のそれぞれの専門家でおられる、高橋賢司、守屋成一、水久保隆之の三氏に第2章、第5章を、また農薬学がご専門の遠藤正造氏に第11章、第12章の原稿の校閲をお願いした。御多忙中にもかかわらず、丁寧にご教示いただいた各氏に厚く御礼申しげる。それにもかかわらず、もし不適切な訳語や誤りがあれば、それはもっぱら訳者の責任であるので、今後各位からのご指摘ご教示をいただければ幸いである。
 生物名、用語は参考文献にしたがってできる限り日本語に訳した。ただし、類書にあるように文中で英語を併記することは煩雑を避けるため行なわなかった。ただ、巻末の「生物名一覧表」と「用語解説」では英語を併記したので参考にされたい。またどうしても訳語が見つからない場合は、英語をそのまま記し、できるものについては[ ]内に訳者による説明を付した。
 本文中で、( )は原文の( )をそのまま用い、「 」は原文で“ ”や斜体で強調されているものであり、[ ]は訳者による注である。
 最後に、この本の訳出を勧められた鈴木芳人氏と、出版を快く引き受けていただいた築地書館株式会社の土井二郎社長、並びに製作・編集で大変お世話になった同社編集部の橋本ひとみ氏に深謝する。

   2006年4月
小山重郎・小山晴子