宇野木早苗[著]
2500円+税 四六判 272頁 2006年4月発行 ISBN4-8067-1330-9
豊饒の海と謳われた有明海の自然は、諫早湾潮受堤防の締め切りによって、どう変化したのか?半世紀にわたり日本の海を見続けてきた海洋学者が、潮の減衰、環境の崩壊、漁業の衰退の実態と原因を、これまでに蓄積されたデータをもとに明らかにし、有明海再生の道をさぐる
まえがき 第1章 有明海異変 1 ついに有明海をノックダウンした諫早湾干拓事業 2 諫早湾干拓事業の評判と引き起こした社会的な悲劇 3 緊急に望まれる有明海の再生 第2章 潮汐と干潟が日本一発達した有明海の自然 1 有明海はなぜ日本一潮汐が大きいか 2 日本でいちばん干潟が広い有明海 3 日本でいちばん浮泥が多い有明海 4 海の構造 5 海水の循環 6 海水の交換 第3章 宝の海であった有明海 1 宝の海であった理由 2 ユニークな生物相 3 有明海を必要とする魚たち 第4章 諫早湾干拓事業とは 1 事業の経過 2 事業目的と投資効率 3 環境にかかわる重要な二つの話題 4 事業を推進させた環境影響評価に見られる問題点 5 一〇年後のアセスレビューの問題点 第5章 観測事実が示す諫早湾干拓事業による有明海崩壊の要因 1 潮汐の減少 2 潮流の衰弱 3 巨大な汚濁負荷生産システムの形成 4 河川水輸送の変化 5 表層における密度成層の強化 6 表層における赤潮の激化 7 底層における貧酸素水塊の頻発 8 底質の泥化・細粒化 9 透明度の上昇 第6章 有明海の漁師が肌で感じたこと 1 潮流と潮位の変化 2 環境と漁場の悪化 3 漁師が有明海異変の原因と考えるもの 第7章 諫早湾干拓事業以前に有明海の体力低下を招いた要因 1 干潟・浅瀬の減少 2 河川事業 3 汚濁負荷 4 酸処理 第8章 諫早湾干拓事業が有明海の生きものと漁業に与えた影響 1 汚濁に強い底生生物の異常繁殖 2 有明海の漁業 3 過去に例を見ないノリの大不作 4 ノリ漁業の衰退 5 貝類漁業の衰退 6 魚類漁業の衰退 7 エビ・カニ漁業の衰退 8 滅びゆく小さな生きものたち 9 諫早湾から追われた渡り鳥 第9章 有明海再生の第一歩は水門開放から 1 短期小規模開門調査の教訓 2 潮汐と潮流の増大 3 海洋環境の改善 4 漁業の改善 第10章 合理性に欠ける農林水産省の開門調査拒否の根拠 1 開門調査を拒否する農林水産省 2 崩れ去った開門調査拒否の「科学的根拠」 3 水門開放時の強流による被害発生の過大視 4 防災対策の最悪のシナリオ 第11章 偉大な自然の復元力が有明海再生の鍵 1 海域の環境再生のための基本的な考え方 2 有明海特別措置法の問題点 3 有明海再生が期待しがたい国の再生策 4 干潟造成と覆土の問題点 5 ハード型対症療法オンパレードの問題点 6 調整池浄化対策の問題点 7 川・森・集水域の保全と維持の重要性 第12章 司法および裁定委員会への期待と失望 1 環境崩壊と漁業被害が認められる要件 2 非専門家が専門家の報告を信頼しない原因裁定 3 赤潮の観測事実から見た裁定の誤り 4 潮汐の観測事実から見た裁定の誤り 5 潮流の観測事実から見た裁定の誤り 6 タイラギ漁業の壊滅から見た裁定の誤り 6 歴史的ノリ大凶作と干拓事業の関係を認めぬ裁定の誤り 7 原因の解明を放棄した裁定委員 8 非科学的で恣意的とみなされる裁定の撤回を要請する 第13章 宝の海を取りもどすために 1 再生の目標 2 有明海の体質の認識と崩壊の原因の把握が基本 3 当面の改善策と将来の方向 4 真に有明海を再生させるために必要な法の整備 謝辞 参考文献 索引